第4話 袁紹ちゃん、虎牢関でごり押す。①
虎牢関を目前に控えた連合軍の野営地。
その一角――大きな天幕には、諸将が集まっていた。
中央に据えられた机の上には、広げられた地図。
その上を、田豊の指がゆっくりとなぞる。
田豊「ここ――虎牢関には、三万の兵とともに……あの中華最強――呂布が布陣しておる」
その名が出た瞬間。
場の空気が、ぴり、と張り詰める。
顔良も、文醜も、わずかに目を細めた。
田豊「やつが出てくるまでに、なんとか城門前を確保したい」
視線が、山岳部へ移る。
田豊「汜水関を迂回していた孫堅軍には、引き続き山々を進み、董卓軍本拠地――洛陽を脅かしてもらう」
つまり――背後への圧力。
それがあって初めて、この正面突破が生きる。
田豊「残る曹操軍、劉備軍、そして――我ら袁紹軍で、虎牢関の城門を突破する」
重い空気を――紹香の声が、ふっと切り裂いた。
紹香「よし、頑張ろう、みんな!」
明るく、よく通る声。
その響きに、場の空気がわずかに緩む。
劉備が、すっと立ち上がった。
劉備「はっ」
深く、礼を取る。
曹操は、その様子を横目で見ていた。
曹操(……ずいぶん、雰囲気が変わったな)
あの場に現れたばかりの少女とは、別人のようだ。
田豊「明朝より攻撃を開始する」
再び、場を締める。
田豊「それまでに、各々布陣を完了されたい」
諸将たちが、静かに頷いた。
決戦は、すぐそこまで迫っている。
翌朝。
朝霧の中、虎牢関の全貌が姿を現した。
曹操「これが……虎牢関か」
馬上から見上げる。
その声には、わずかな驚嘆が混じっていた。
目の前にそびえ立つのは――天へと伸びるかのような、巨大な壁。
重厚な門。
その前には、整然と並ぶ董卓軍の兵たち。
すでに、迎え撃つ準備は整っている。
曹操「いっきに城門前を確保するぞ!」
声を張り上げる。
曹操「進めいッ!!」
オオオオオ――ッ!!
連合軍右翼―二千の曹操軍が、一斉に前進する。
左翼では――劉備が、馬を前へ出した。
その目は、強い光を宿している。
劉備「この戦いに勝ち、帝を董卓よりお救いするのだッ!!」
高らかに叫ぶ。
劉備「かかれいッ!!」
オオオオ――ッ!!
一千の義勇兵が、その後に続く。
決意に満ちた突撃。
そして――連合軍中央。
ここには、義勇兵一万を加えた――総勢一万五千の袁紹軍。
圧倒的な兵数。
その中央に、紹香はいた。
田豊「ささ、紹香様。号令を」
静かに促す。
紹香「うん」
短く応じる。
馬を前へ進める。
コツ……コツ……
ゆっくりと、最前へ。
その先には――無数の兵。
自分を見上げる視線。
期待。
信頼。
熱。
すべてが、こちらへ向けられている。
紹香
胸の奥が、熱くなる。
紹香(気持ちいい……)
それは、これまで感じたことのない感覚。
誰かに認められること。
誰かを動かすこと。
紹香(これが……生きてるって事……)
息を、大きく吸う。
胸いっぱいに空気を取り込み――声を張り上げた。
紹香「袁紹軍ッ!!」
その声は、まっすぐに戦場へ響く。
紹香「押して押して――押しまくりなさいッ!!」
オオオオオオオオ――ッ!!
爆発するような鬨の声。
大地を揺らし、一万五千の兵が一斉に前へ進んだ。




