第3話 袁紹ちゃん、汜水関で覚醒す。③
紹香たち連合軍は汜水関をあとにし、西へ進軍していた。
次の目的地は――虎牢関。
首都・洛陽へと至る――最後にして最大の関門。
その道中。
紹香は、馬上で前方をまっすぐ見据えていた。
そんな紹香のすぐ横。
ぴたり、と。
張郃が馬を寄せていた。
張郃は紹香の腕に、自身の腕を絡める。
張郃「ふふ……」
満足そうに目を細める。
紹香(……近い……)
横から、顔良が馬を寄せてきた。
顔良「おい、お前」
張郃「……?」
顔だけをゆっくり向ける。
顔良「紹香から離れろ」
短く、鋭い命令。
張郃は一瞬きょとんとしたあと――くすり、と笑った。
張郃「なぜでしょう?」
顔良「見てわからないか」
眉をひそめる。
顔良「紹香が困っている」
張郃は、じっと紹香を見る。
紹香は、軽く視線を返し――ほんの少しだけ、困ったように笑った。
顔良「それに、お前はこの中では一番の新人だ」
視線が鋭くなる。
顔良「少しは身の程をわきまえろ」
張郃は、しばし沈黙し――やがて、ゆっくりと微笑んだ。
張郃「ああら……? ねたましいのですか? 顔良さん?」
顔良「っ!?」
一瞬、言葉を失う。
張郃はやれやれと言いたげに肩をすくめる。
張郃「先の戦いにおいて、最も功績があったのは、言うまでもなく私」
自分の胸に手を当てる。
張郃「ゆえに、今こうして」
絡めた腕を、わずかに強める。
張郃「紹香様より“褒美”をいただいているのです」
顔良「……」
言葉が詰まる。
張郃「ねたましいなら」
ちらりと見る。
張郃「私の後で、あなたも先の功績に応じて、ねぎらっていただいたら?」
顔良「……」
張郃「ハッ まさか――」
わずかに声を落とす。
張郃「袁紹軍の象徴たるあなたが、何も武功を上げていないなんて事は……ありませんわよね?」
顔良「ぐっ……」
歯を食いしばる。
張郃「ああら、それはいけませんこと!」
わざとらしく手で口元を隠す。
張郃「人に苦言を呈する前に、ご自分を見直されては?」
顔良「貴様ッ……!」
怒気が一気に膨れ上がる。
張郃はさらに周囲へ視線を向ける。
張郃「他の方々はどうでしょう?」
文醜へ。
張郃「まさか文醜さんが、敵将に分からされただけだったり?」
文醜「……ッ」
田豊へ。
張郃「田豊さんが、ただ本陣で難しい顔をしていただけ……なんて」
田豊「ぐっ……」
誰も言い返せない。
張郃「おーほっほっほっ!!」
高らかな笑い。
行軍の列の中で、妙に心の声が響く。
一同(こいつ……うざいっ……!)
その中心で。
紹香は――小さくため息をついた。




