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ごり押せッ!袁紹ちゃん!  作者: 姫笠


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第3話 袁紹ちゃん、汜水関で覚醒す。①

丘の上。

整列した義勇兵たちの間を、ひとりの兵が急ぎ足で進んでいく。

そして――隊列の先頭。

一騎の馬にまたがる女性の前で、ぴたりと足を止めた。

義勇兵「張郃ちょうこう様!布陣、完了いたしました!」

張郃と呼ばれた女性は、ゆっくりと視線を動かした。

銀色の長髪が、風に揺れる。

陶器のように白い肌。

だが、その美しさを台無しにするように――その瞳は、どこか狂気を帯びていた。

やがて。

ゆっくりと、口元が歪む。

笑っているのか、そうでないのか分からない、奇妙な表情。

張郃は、腰へと手を伸ばした。

左右に差した二振りの短刀。

それを、同時に抜き放つ。


 シャキンッ


金属音が、静かに響く。

そのうちの一本を――ゆっくりと、口元へ持っていく。

刃先に、ぬらりと舌を這わせる。


 ……ぺろり


血の気配を確かめるように。

そのまま、低く呟いた。

張郃「高貴なる袁紹様に歯向かう……下賤な輩ども……」

声は、どこか甘く、歪んでいる。

張郃「この張郃が、処してさしあげます」

言い終えると。

ゆっくりと、短刀を天へ掲げる。

その動きは、どこか儀式めいていた。

そして――一気に振り下ろす。

次の瞬間。


 オオオオオオオオオ――ッ!!


地鳴りのような鬨の声が、丘全体を揺らした。

待機していた義勇兵たちが、一斉に動き出す。

足並みを揃え、雪崩のように――汜水関へ向け、駆け下りる。

土が崩れ、砂煙が巻き上がる。


胡軫「むうッ!?」


華雄の後方。

副将・胡軫こしんが、その異変に気づく。

振り返り、目を見開く。

眼前には、旗を持たぬ粗末な装備の一軍。

胡軫「義勇兵め……調子に乗り寄って!」

馬首をぐいと回す。

槍を構え、迎え撃とうとする。

胡軫「貴様らなど、我ら正規兵の敵ではな――」

言葉が、途中で途切れた。


 ゴキッ


鈍い音。

首が、不自然な方向へと曲がる。

胡軫の視界が、一瞬で揺らぐ。

何が起きたのか、理解する間もなかった。

張郃が――すでにそこにいた。

馬から飛び上がり、空中から。

そのまま、胡軫の首を蹴り飛ばしたのだ。

衝撃で、身体が浮く。

胡軫は、そのまま馬から落ちた。


 ドサッ


地面に叩きつけられる。

仰向けに倒れたまま――動かない。

完全に、意識が飛んでいた。

だが。

それで終わらなかった。

張郃はそのまま、胡軫の身体へと飛び乗った。

馬乗りになる。

両手の短刀が、きらりと光る。

次の瞬間。


 ブシュッ


刃が、喉元へと突き立てられる。

血が、噴き出す。

だが――張郃の動きは、止まらない。


 ブシュッ

 ブシュッ

 ブシュウウウ――ッ!!


目にも止まらぬ速さで、何度も、何度も突き立てる。

すでに動かない身体へ。

容赦なく。

躊躇なく。


周囲の兵たちがたじろぐ。

だが、張郃は止まらない。

その顔には――笑み。


張郃「アハハッ……」

刃を振るいながら、声を漏らす。

張郃「アハハハハハハッ!!」

甲高い笑い声が、戦場に響き渡る。


狂気そのものだった。

血に濡れた短刀を握りしめたまま。

張郃は、ゆっくりと顔を上げる。

その視線の先には――まだ無数に残る、敵兵たち。

まるで獲物を見つけた獣のように。

再び、口元が歪んだ。



汜水関――正面。

砂煙が立ち込める中。

華雄と文醜が、互いに距離を取って対峙していた。

文醜は、片膝をわずかに浮かせながら立ち直っている。

肩で息をし、荒い呼吸が止まらない。

だが、その目だけは死んでいない。

槍を握り直し、華雄を睨みつける。

対する華雄。

その表情には、依然として余裕があった。

金棒を軽く持ち上げ、肩に担ぎ直す。

華雄「……終わりか?」

低く、嘲るように言い放つ。

文醜「……チッ」

歯を鳴らす。

言い返す余裕すらない。

その時だった。


――オオオオオオオオオオオッ!!


北の丘の方角から突如として、大地を揺るがすような鬨の声が響いた。

空気が震える。

地面の砂が、かすかに跳ねる。

華雄「……何事だ」

眉をひそめる。

文醜「へッ……!勝負はこれからって事だよッ!!」

叫びと同時に槍を抱え、踏み込む。

地面を蹴り、一気に距離を詰める。

その瞬間。

――ぞわり、と。

華雄の背後で、空気が変わった。

濃密な殺気。

まるで背中に刃を突きつけられたかのような、鋭い感覚。

華雄「――ッ!?」

反射的に、振り向く。

その視界に入ったのは――影。

いや、“壁”のような存在。

そこに立っていたのは、一人の大男だった。

常人をはるかに超える体躯。

二メートル五十はあろうかという巨躯。

厚い胸板。太い腕。

顎には、長く立派な髭。

そして――その手には。

すでに、巨大な偃月刀が振り上げられていた。

大男「敵将、華雄の首――」

低く、よく通る声が、空気を震わせる。

大男「劉備が義弟――関羽かんうが、頂戴いたすッ!!」

その名とともに偃月刀が、振り下ろされる。

華雄「雑魚が何人来ようが――ッ!!」

華雄も、即座に反応した。

金棒を振り上げ、迎え撃つ。

両者の武器が――激突する。


 ガキイイイイインッ!!


地を震わせる、凄まじい金属音。

衝撃波が、周囲の砂を吹き飛ばす。

だが――次の瞬間。


 ギイイイイイ――


異音。

金棒の側から、嫌な音が響く。

火花が、異様なほどに散る。

華雄の目が、わずかに見開かれる。

金棒に――亀裂。

細い線が、瞬く間に広がっていく。

そして。


 バリイイイイインッ!!


華雄の金棒が、粉々に砕け散る。

破片の中を、関羽の偃月刀がそのまま振り抜かれた。


 ブシュウウウウッ!!


肉を裂く音。

血が、噴き上がる。

華雄「――ッ」

声にならない声。

次の瞬間。


 バタアアアア――ンッ!!


巨体が、地に崩れ落ちた。

土が跳ね、砂煙が舞う。

動かない。

完全に――沈黙した。

戦場が、凍りつく。

董卓軍の兵たちの目が、見開かれる。

連合軍もまた、その光景に息を呑む。

文醜「……なんだ、この大男は……」

呆然と呟く。

槍を握ったまま、動けない。

(不意打ち……確かにそうだ)

だが。

(華雄は、完全に反応していた……)

あの瞬間、確実に防いでいた。

それでも――

(それを……たった一撃で……)

理解が、追いつかない。

関羽は、ゆっくりと偃月刀を振るう。

刃についた血が、周囲に散った。



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