ディルク王子登場2
ディルク王子は、目の前の姉をじっくりと観察した。
なぜだか青い顔をして拳を握ってふるふると震えている。
ディルク王子は物心ついた時には姉から色々いたずらをされていた。
文字が読めない時は絵本の内容をひどく残酷な内容に改竄されて夜寝られなくなったり、お絵かきをして入れば背中にトカゲを入れられたりした。他にも色々……。
おかげで人を簡単に信用できない子どもになり、それは未来の国王として必要な資質だと理解している。
まあ、その点では感謝しているのだが、姉として好ましいかと言えば微妙なところである。
その姉が突然帰ってきて、今は唇を噛みながら青い顔をして震えている。そしてなにも言い返してこない。
王太子といえどまだ十才。女王である母と重鎮たちの会議には参加できない。
詳しいことはわからないが 、なにか面白いことが起きているようだ。
*
「やあ、ドラキュラ伯爵。」
「ディルク王子殿下。ご機嫌麗しゅう……。」
「堅苦しい挨拶はいいよ。ね、ドラキュラ伯爵が日の出ている間に動き回っているのって、姉上のことと関係あるんでしょう? なにが起きているの?」
「えー、あー。」
ドラキュラ伯爵は悩んだ。まだ幼い天使のような王子に明かすのには、内容がゲスすぎる。
「ふうん、僕ね、最近魔法がかなり上達してね。母上の魔法を無効にできるようになったかもしれない。練習してもいい?」
「……えっ。」
「まだ西日が眩しいねぇ、ね? 伯爵。」
一番怖いのはこの王子ではなかろうか。天使のような顔をして、なかなか恐ろしいことを口にする。
「ほら、ちょっと痛い思いをするだけですぐに復活できるんでしょ? 練習台になってよ。」
ディルク王子は首を傾げながら微笑んだ。
「……仕方ありませんね。しかし全てを明かすわけにはいきません。姉姫は、婚約者のヘッセン王子の不実な行為によって帰国してきています。」
「婚約解消になるということ?」
「おそらく。」
「へえ。それからさ双子の小さい子を見たんだけど、最近までいなかったよね?」
「それは……答えかねます。」
ディルク王子は少し思案する顔をした。
「そうか、ありがとう伯爵。お仕事がんばってね。」
(最近退屈してたから、面白いことが起こりそうだ。)
手を振り天使のような笑顔をして去っていく王子の背中を、伯爵は得体の知れないものを見るような目で見送った。




