ディルク王子登場
天気の良い気持ちのいい午前中、白雪姫はすっかり子分として手懐けた双子のリムとラムを引き連れている。果樹園で果物を食べた後、いつものように牧場へと向かっていた。
その途中にある厩舎の横の馬場で、一人の男の子が馬にブラシをかけていた。
「あれ? もしかして姉上?」
白雪姫とよく似た白い肌に黒い髪、そして黒い瞳の天使のような少年だ。
「え、ディルク? あの小さかった?」
白雪姫が家出をした時、弟のディルクはまだ四才だった。
「わーあ、まともに話をするのは初めてですね、姉上。帰ってきているとは聞いてましたけど、僕も忙しかったので挨拶に行けずにすみません。」
確かに八才と四才では会話というものはしたことがなかったかもしれない。遊んだ記憶もない。
今目の前にいるディルクは十才になったばかりだろうに、やたらと大人びた子だ。王太子としての教育がそうさせているのかもしれない。
「別に構わないわ。今は暇そうね。」
少し嫌味も言ってやりたい。
「この馬は、生まれた時から僕が世話をしているんですよ。信頼関係が大切なので、毎日少しでも時間を作って来ています。」
(馬に時間は作れても私には作らないってことね。)
ディルクはその心の声を聞いたかのように笑いながら話した。
「はっきり言って姉上のこと、あんまり覚えてないんですよ。かろうじて記憶にあるのは積み木で頭を叩かれたことぐらいですかね。」
天使のような可愛い顔で辛辣なことを言われムカつくが、やったかもしれない、と白雪姫は思った。自分はまったく覚えてないが。
「姉上、その子どもたちは?」
「え、ああ。リムとラムよ。下働きの子どもよ。」
「……へえ、どこかで見たような顔ですね。あっ、ああ。ヘッセン王子に似ていませんか? 姉上と婚約した時の絵姿を見たことがあるんですが、目元とかそっくりですね。年の離れた弟妹とか?」
白雪姫は雷が落ちたかのような衝撃を受けた。
誰かに似ていると思っていたが、自分の婚約者に似ているのだった。
それに、子どもたちは「ヘッセン王子」の名前を聞いて目をキラキラさせている。そういえばヘッセン王子は、年に何度か「見識を広げる」とかなんとか言って月単位で旅に出ることがあった。
まさか……。
「ヘッセン王子も整った顔をしているから、この子たちも大きくなったら綺麗な顔になるんじゃないですか? って姉上?」
*
《あーあ、バレちゃった。》




