ラプンツェル登場4
条約の内容はカーミラから枢機卿にも伝えられた。
バジーレの国王がぼんやりしている間は今まで通り教会が統治し、そして万が一ヴィルドゥゲン王国に実権が委譲された場合にも教会に統治権を委任する。
カーミラが美しい笑顔で言うと、教会にとっても不利益がないので『受諾する』とのことだった。
教会や枢機卿がどれほど私腹を肥やしているのかわからないが、平和が保たれていて栄えているのは事実なのだ。今後は中立国を保つために大国の傘下に入った形になるが、ヴィルドゥゲン王国と教会の後ろ盾があれば攻め入られる恐れは格段に少なくなっただろう。
あとの監視はハーメルンの笛吹き男のネズミたちがしてくれる。
教会との関係もより良いものになった。バジーレの国内事情など知ったことではないが、使節団の仕事としては丸く収まったと思われる。
その代わり。
「手をっ、手をずっと握られていたのっ。」
とカーミラは教会から帰ってから長い時間手を洗い、そのあと「消毒消毒」と伯爵の胸に頭をぐりぐりと押し付けていた。
伯爵は「あの枢機卿、やはり疫病に……」とむかついていたが、カーミラが可愛いことをするので、なんとか耐えた。
*
そうこうしているうちにやっと国に帰ることになり、埃とカビに別れを告げる。
「なんだかんだで名残惜しいわ。」
涙ぐむカーミラに伯爵は少し呆れつつ、安堵した気持ちで馬車に乗り込んだ。
約束通り馬車に伯爵とカーミラ二人だけで乗り、存分にいちゃいちゃして国境を越え、往路でも泊まった宿屋に着いた。
先に部屋に通され、ほっとしていると側近が飛び込んできた。
「無礼だぞ。」
「伯爵さまっ、大変です。伯爵さまと奥さまの荷物を取ろうと最後尾の馬車に入ったところ……。」
「盗賊にでもやられていたか?」
「いえ、女性と子どもが乗っていました。」
悪い予感がする。
伯爵とカーミラが宿屋の外に出てみると、ラプンツェルが小さな男の子と女の子の手を引いて立っていた。
そして、伯爵を見るなり「ほうら、あの素敵な方が今日からあなたたちのお父さまよ。ご挨拶しなさい。」と子どもたちに語りかけた。
「追い返しなさいーっ!」
伯爵は思わずその場にしゃがみ込み、カーミラの金切り声が響き渡った。
「……奥さま、もう国境を抜けてしまいました。手形を持っていない彼女たちはバジーレ王国へ戻ることができません。」
「じゃあここに置いて行くわ。ねえ、あなた。」
「うん、そうだな……。」
ドラキュラ伯爵はあごに手を当てて考え込んだ。
「ヴラド?」
カーミラが片眉を上げて伯爵を見上げる。
「いや、この子どもたちはヘッセン王子の子なのだな、と。母親の身分が低いから庶子として王位継承権はないが。」
カーミラはちらっとラプンツェルと二人の子供を見た。
「でも生まれる前に捨てられたんでしょ。王子の子どもと証明されなければ難しいわ。なにか証明するものは持っているのかしら?」




