バジーレ枢機卿登場2
「あのっ、お聞きしたいことがっ。」
「あちらでお茶を飲みながらゆっくりお聞きしますよ。」
枢機卿は目元の皺を深くしながら笑みを浮かべ、カーミラの肩を抱き、さすさすと撫でる。
(ひっ。)
カーミラはくるりと身をひるがえして枢機卿から離れ、にこっと微笑んだ。
「この国は枢機卿さまが国王陛下に代わって治められていると聞きました。とても素晴らしいことですわねっ。」
「いやいや、国民のためですよ。」
「知らなかったとはいえ、使者である夫が挨拶に伺えず申し訳ございません。」
「ドラーレ公爵もお忙しいでしょうし、公爵夫人に来ていただいただけでもありがたいことでございます。」
大司教がまた肩を抱こうとする。
「あのっ、茨姫のことについてっ。」
「……茨姫?」
枢機卿が眉をひそめて手を離し、苦々しく言った。
カーミラはすすっと後ろに下がり、もう一度言った。
「ええ、茨姫。噂ではその眠りから覚めたゆえに城全体も眠りから覚めたと。しかし、その肝心の茨姫がどこに行ったのかわからないと。」
「それがあなたになにか関係があると?」
カーミラは姿勢を正した。
「ええ、ございます。我が国の女王がこのバジーレ王国と交流を深めたいと申しております。この国に憂いがあるならば、女王も援助を惜しまないでしょう。私には報告の義務があります。」
枢機卿は、ふんふんと納得したように言ってにやりと笑い、近づいて来た。
「では、詳しい話をいたしましょう。やはりあちらでお茶でも……。」
「ひぃっ、私には夫がおりますっ。」
*
その頃、伯爵は城を散策していた。
要塞を王の居城にしたような、一昔前の流行った重厚な城はやたらと広く、庭に面した通路は埃っぽくはないがすみっこの方に枯れ葉や木の枝が積もっている。
(そうそう、昔はこんな城ばかりだったな。平和になってヴィルドゥゲンのような壮麗な城が建設されるようになったのだ。)
普通、他国から賓客が来ればセレモニーなり夜会なり行われるものだが、その気配はない。
しかしそれも無理はない。
城内ですれ違う全ての人間の動きが緩慢でやる気がない。
聞いた話によると、茨姫が糸巻きの錘を指に刺した後、城内にいた国王以下貴族、下働きに至るまで全て眠りに落ちたらしい。
そして茨がするすると城を包むように伸びて周辺から隔絶された。
百年経って眠りから覚めたものの、城の全ての住人がまだ寝足りず、のろのろと動いているのだ。
中立国であり、教会が治めている今は攻め入ることはできないが、記憶では百年前はそうではなかった。普通の王制の普通の国だった。
それが国王以下眠ってしまったのだ。なぜ百年前の混乱期に攻め入らなかったのか?
我が国の傘下に入ってもおかしくなかった。ドラキュラ伯爵はその頃カーミラと新婚で、かけらも興味がなかったので覚えていない。
ともあれ教会が実権を握っている今はカーミラの報告を待つしかない。
カーミラが大丈夫か心配だ。




