バジーレ枢機卿登場
教会は王都の中心部にあり、教会の前の広場には市場が立って賑わいを見せている。
明るく元気のいい店主たちが色とりどりの果物や野菜、パンや花を売っていて城内とは全く違う景色を見せている。
カーミラはあの埃まみれのカビ臭い城から出て、春の気持ちよい風が気分を上げていた。
小国とはいえ中立を保ち、教会が中心となって平和で豊かな生活をしている。
この街の人々は百年の眠りから覚めた城のことをどう思っているのだろう。
カーミラを乗せた馬車はカラカラと軽快な音を立てて石畳の上を進み、教会の入り口の前に横付けた。
カーミラが従者に手を取られて馬車を降りると、司祭が出迎えてくれた。
「急なことで申し訳ございません、司祭さま。」
カーミラは薄いグレーのシックなドレスに身を包み、黒い帽子から垂れ下がる黒いベールで顔を半分隠している。そして背中に波打つ銀色の髪を輝かせてにっこりと微笑んだ。
教会に仕える者であっても、まさかこの可憐な女性が吸血鬼だとは誰も思わないであろう。
「本来ならばもっと早くこちらにご挨拶に伺うべきでしたのに……。まずは城の方へ行ったところ、足止めされまして……。」
「とんでもございません。ドラーレ公爵夫人。ヴィルドゥゲン王国から使者がいらしていたのは存じ上げておりましたし、先触れもありましたので。お待ち申し上げておりました。さあさ、枢機卿がお待ちです。」
「まあ、枢機卿さまが? 申し訳ありませんわ。」
普通、このような小国の教会に枢機卿という立場の聖職者が常駐することはないが「国王の代わりに国を治める」という立場のため派遣されたとみえる。
*
カーミラは枢機卿の前に通された。
壮麗な教会内部で、質の良い白い衣装に身を包み、金の装飾で飾り立てた枢機卿が人の良さそうな顔をしてカーミラを上から下まで眺めた。
目はじっとりとした光を放っている。
(ひっ。気持ち悪っ。でも落ち着かなきゃ。)
こほん。
カーミラが優雅にお辞儀をする少し後ろに立っている従者も気持ち悪そうに眉をひそめた。
「枢機卿さま、お会いできて光栄ですわ。我がヴィルドゥゲン王国はバジーレ王国の城が眠りから醒めたことを寿ぎ、これからも……。」
「寿ぐ?」
「あ、はい。」
一瞬ちろりと冷たい目を向けた枢機卿だったが、またすぐに人の良さそうな顔をした。
「ありがとうございます。たしかに国王陛下並びに王妃さま、城の者たちが眠りから醒めたのは喜ばしいことでございますな。はっはっはっ。」
「……。」
「どうです、ドラーレ公爵夫人、あちらでご一緒にお茶でも……。」
枢機卿がにやりと笑い、カーミラの肩を抱こうとする。
鳥肌っ!




