バジーレ国王夫妻登場3
「国王夫妻にはご機嫌麗しく、ヴィルドゥゲン王国女王より親書を預かって参りました。」
伯爵の従者よりバジーレの家臣に書状が渡される。そしてその書状が国王の手に渡った。
遅い。じりじりする。
「こほん……、えー我が主君である女王陛下は、百年の眠りから醒めた奇跡の国である貴国とかつてのような親交を結び交流を深めたいと……。」
国王夫妻がうつらうつらしている。
家臣がそっと国王の肩を叩く。
「はっ。いや、すまぬ。ヴィルドゥゲン王国の女王のお言葉、いたみいる。」
「はあ。」
「はっはっ、寝すぎると眠い、ということがあるであろう? どうしてもまだぼんやりしてしまってな。」
百年寝てまだ眠いのか。
「……。」
「……。」
若干、顔を引きつらせたカーミラが口を開いた。
「こちらの姫君はとても美しいお方とか。百年眠られて親しい方もおられないでしょう。ぜひお近づきになりたいのですが。」
国王がため息をついた。
「どこに行ったか分からぬのじゃ。」
「はっ?」
ドラキュラ伯爵とカーミラは同時に声を上げた。
*
「国王陛下は茨姫がバード王国の王子が連れ帰ったことを知らないということ?」
「ありえるかもね。白雪姫だって魔法の鏡があったからヘッセン王子の存在が知れたんだ。眠りから醒めたばかりの城から連れ出され、誰も見ていなければ分からなかっただろう。今よりもぼんやりしていただろうし。」
「ヘッセン王子ってなんなの?」
謁見を終えた二人は荒れた庭を望むテラスで話し合っている。
「でもそれならバジーレからヴィルドゥゲンに情報が来なかったことも理解できるわね。だってどこに行ったか知らなかったんだもの。せめて城が眠りから醒めたことぐらい知らせなさいよ、とは思うけど、あの動きの遅さではねえ。正常な判断も出来なさそうだし。」
「バード王国の方には政治的な思惑があるのかもね。ロビン・フッドからの報告では両国の間で動きはないらしいが。」
「茨姫はバード王国にいるんでしょ。ヘッセン王子はなぜバジーレに姫の存在を知らせないの? 王子が茨姫を隠しているのかしら。いえ、待って。白雪姫が『王子の女癖がひどい』と言っていたけど……。」
カーミラがブルっと震える。
「ロリコンのキス魔の変態で、おまけに軟禁とか? 王子という立場がわかっていないお馬鹿さんなの? なにがしたいの?」
「しかし噂は本当だったのだな。国王が眠っている間、教会がこの国を治めていたと聞いていたが。」
「眠りから醒めて一か月以上経つのに教会から国王へ権力の返還がまだなのかしら。確かにあの国王陛下の様子じゃまだまだ統治は難しそうだし、だから百年間、周辺国とも摩擦が起きず平和を保っていたとも言えるけど。」
「教会に接触する必要があるが、私は近づけないな。」
「あら、じゃあ私が行くわよ。平気だもの。」
なんとなく不安ではあるが、やる気を見せるカーミラを抑えることはできない。
「……そうだったね。君がいてくれてよかったよ、カーミラ。」
「うふふ、そうでしょう?」
「では私は城の侍女の血を吸って情報を得ようかな。」
「……は?」
地を這うような妻の声がする。
「い、いや、これも女王の命令で。」
「1百年眠っていた埃くさい血を吸うのは許さないわよ。あなたなら血を吸わなくても情報を得るなんて簡単なことでしょう。それも腹が立つけれどもっ。」
「あ、うん、そうだね。頑張るよ……。」




