バジーレ国王夫妻登場
砦のような古くさい城内に入るとどんよりとした空気が漂う。
「カビくさっ、埃くさっ。」
カーミラがハンカチで鼻を抑えた。
「これこれカーミラ、失礼だよ。」
「だって眠りから覚めてもう二か月以上経っているのでしょう? そろそろ掃除が行き届いてもいい頃じゃない?」
「でもほら。」
二人を案内するバジーレの家臣と家来の動きは非常にゆっくりだ。油断するとぶつかりそうになる。
それに衣装も百年前から変わっていないように思う。デザインもさることながら、色褪せてところどころほつれている。しかし彼らはそれを気にする様子はない。
ぼんやりと、ゆらゆらとだるそうに動いている。
いまだこの城は完璧に目覚めていないのだ。
広い廊下をゆっくりと進み、まずは控えの間に通される。ここはなんとか埃は取り除かれていたが、カビの臭いは漂っている。
バジーレの家臣と家来が去った後、カーミラは自国の従者とメイドに窓を開けるように命じた。
「ドレスの裾に埃がっ。」
カーミラがきいきい怒っている横で伯爵はテーブルの上に用意されていたワインの瓶を手に取る。
百三年前の物か…。ビンテージと言っていいのか……。飲めるのか?
「アンナ、ホットチョコレートを作ってちょうだい。」
ヴィルドゥゲン王国から連れてきた侍女のアンナが、キャビネットの中からカップを出し、目の前まで持ってきてじっと見た後、せっせと磨いている。
「洗えてないの?」
「いえ、うっすらと埃が。」
「……ホットチョコレートは後でいいわ。」
窓から庭を見ると荒れ放題。檻のように窓の外に伸びている茨は、枯れてはいるものの所々に鋭い棘がびっしりついていて、ドラキュラ伯爵の使い魔であるコウモリやカラスを城内に入れるのも難しそうだ。
基本的に潔癖症で神経質な伯爵夫妻には耐えられない環境ではあるが、女王の名代として仕事はきっちりこなさなければならない。
と、気持ちを新たにしていたのだが、いつまで経っても案内が来ない。もしや忘れ去られているのかと心配になったが、あの家臣たちの緩慢な動きを思い出し、ドラキュラ伯爵はため息をついて目を閉じた。
うとうとしかけてやっと再び家臣が現れたが、『国王夫妻との謁見は明日午後になる』と告げられる。
大国からの使者に対し「うそだろ?」と呆れたが、一行はもうすでに諦めの境地に至っていた。




