カーミラ登場3
「そういえば、あなたの代わりにと白雪姫のお話し相手をしたのよ。」
「初耳だ。」
ドラキュラ伯爵はカーミラに視線を向けた。
「女性同士なら話せることもあるだろうと思ったのだけれど……。私、やっぱりあの姫とは合わないわ。」
合う人の方が珍しい。
「ちょうど姫がマナーの勉強の後でイライラしていたのもあったけど、なんかこう冷たい感じで。あ、でもヘッセン王子への不満をぶちまけていた時だけは熱くなっていたわ。」
「マナー? 今頃?」
王女であればすでに身につけていてもおかしくない。それにバード王国で王子妃として勉強していたはずだ。
「しばらく森にいてりんごを丸かじりするような姫よ。それでね、不満と言うのが王子の女癖の悪さなのよ。」
「女癖……。姫が知るぐらいに派手なのか?」
「ええ、茨姫以外にも色々とあったらしいわ。」
*
ガタゴトと馬車に揺られ田園地帯を抜け森になり、また開けてきた。
宿場町と国境地帯で宿屋に泊まり、国境を抜けてまばらに人家が現れては消え、羊や牛の放牧や麦畑、そして時々無骨な要塞の検問を抜ける。それを何度か繰り返しやっと城壁に囲まれた街の中心部が見える。
途中、盗賊らしきものも現れたが、馬鹿みたいに多くて強い騎馬隊が蹴散らした。かつて『串刺し公』と仇名されるほど剣の腕に覚えがあるドラキュラ伯爵の出る幕がないほどあっけなく、何事もなかったかのように切り抜けた。
馬車の中は平和そのもので、カーミラは夫との泊まりがけの移動にはしゃぎ、伯爵はそんな妻を微笑ましく思っていた。
お尻の痛みにも耐えられそうだ。
*
バジーレ王国の中枢に入る城壁の門を抜けると市街地があり、広場の真ん中の壮麗な教会をすり抜ける際に伯爵は目を背ける。
十字架こわい。
女王の魔法で太陽の光は克服したものの、十字架とニンニクは克服しているのかどうかわからない。
しかし、この国では『ドラーレ公爵』として吸血鬼であることを伏せて行動しなくてはならない。
『公爵位を授ける』と言った女王の好意は丁寧に辞退したが、仮の地位として偽名と共に利用することになった。
貴族の社会は簡単なものではないのだ。(カラバ侯爵は例外)。
だがどうせなら十字架とニンニクも平気だという確約もくれてもよかったのに、と思う。
*
目的地となる百年の目塗りから覚めた城に着く頃には、すでに夕刻に近い時間帯となっていた。
城門をくぐり城に近づくと、城壁には未だ枯れた茨が巻き付いていて、陰鬱な雰囲気を漂わせている。
カーミラは扇で口元を隠して眉を顰めた。
「うちの屋敷より暗いわよ。」
「伯爵の屋敷より不気味ですねえ。」
「……さあ、行くぞ。」




