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時狩の死神 ‐タイム・リーパー‐  作者: いざなぎみこと
第一章 幽霊少女と時狩の死神
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#5 私と叔父

「貴方……あまり嘘が上手いようには見えなかったけど、それは流石に……」

「嘘ではない。この目的が嘘であれば、君の名前すら分かるはずもないさ」


 誠実に、私の困惑に向き合って言葉を返した。

 それが逆に、真っ白になった頭に混乱を添加する。


「第一、私は貴方の事を知らないわ」

「そうだろうな。顔を合わせたことも無いし、名前を名乗った覚えもない」


 それでどうして名前を知っているのか、鳥肌が立った。

 この家は玄関の表札はもちろん、請求書や郵便物の類の名前が分かる物全て抹消している。

 私の名前はもちろん、生前の痕跡すら消している……いや、消されたと言った方がいいか。ともかくこれで特定されるということは、それこそストーカー以上に異常だ。


「私と君の繋がりは、言ってしまえば皆無だ」

「でしょうね。今の今まで考え尽していたけど、全く身に覚えが無いもの」

「個人的にはな。あったのは君の叔父――『小昏(こぐれ)國光(くにみつ)』とだ」

「――なんで……その名前を……!?」


 聴いた時には私の体は動いていた。

 死神さんのマントを掴み、押し倒さん勢いで詰め寄った。


「知っているの!? 今はどこで何をしているの、國光おじさんは!?」

「……亡くなったよ」

「――――」

「國光さんは私の上司だった。彼は私が死んだ三年後、『DEFOLIATION』に雇われた奴に殺害されていた」


 冷徹なまでに事実を話す死神さんの仮面の端から、つぅ――と黒い液が垂れる。

 気付いたように拭うと、蒼い炎に照らされたそれは血だった。唇を噛んでいたのだろうか、その真意は今では全く分からない。


「國光さんは君の話をよくしていたよ。急に君の元に来なくなったのは、一年前だっただろう?」


 その時にはもうこの世に居なかった……誰に殺された?

 もう何も考えられなかった。何も答えられなかった。憎しみだけがただただ湧き立った。


「そいつは……おじさんを殺した奴は……」

「生きてるよ。恐らくな」

「……ねぇ。死神さん」

「出来る事なら知った時にやっている」


 歯噛みしたような物言い。本人も悔しがっているのだろう。

 彼ですら探れない人間ということは、それほど特殊な環境に居るか、或いはもう消されたかの二択か。

 彼自身も悔やんでいる。口に出さずとも、國光叔父さんと仲が良かったのは分かる。だからこそ、殺されたのだ。


「私は……貴方が憎いわ」

「……だろうな」

「おじさんは、貴方の一件に首を突っ込んだのよね? だから殺された。疑惑に関わった口封じに」

「そうだ」


 否定をしない態度に、どうしようもない、やりきれない怒りが募る。

 精一杯の力で私は死神さんを押し倒した。今この場に凶器になりえる物が、自分の柔な両手しかないのが悔やまれる。

 仮面の下にちらりと見える首に左手で乱暴に掴む。呻き声を無視し、右手で仮面を剥ぎ取ろうと手をかけた――が、外れない。


「……本当にすまない。今、君が行おうとしたこと……その両方とも叶うことはない」


 腰に腕を回される。私の体重もかけた力もなんてことないみたいで、死神さんは軽く腹筋だけで起き上がった。ちょうど彼の太腿辺りにお尻をついてしまう。


「やっ……!?」

「まず一つ。私は死ねない。少なくとも、君がどのような手段を尽くそうと、この身は滅びない」


 ――この態勢は、ちょっとダメな気がする。

 いよいよもって冷静さが無くなってきた。話が右耳から左耳に流れていく。

 この姿勢はつまり、その、あまり見られたくはないものだ。


「死者に、死神に、死が適応するかどうかはさておき。二つ目に、この仮面は私も外せない。呪物に近いのか、どのような力をもってしても外れない」

「そ、そう」


 暗がりでさっきまで蒼い炎のそばだったので、夜目がリセットされているのだろう。また仮面はそれほど視野角が狭いのだろうか、とにかく見えていなくて本当に良かった。

 たぶん、今が昼だったら、耳まで真っ赤な私がここにいる。

 私は生娘か、いや生娘なのはそうだけど。生前男女付き合いが無かったとはいえ、ここまで免疫が無さすぎるものなのか……。


 固まって動けない私を、死神さんは「様々な感情に心が押しつぶされている」とでも思ったのだろうか、優しく頭を撫でる。

 それで我に返る。もう一度仮面を見ると、負の雰囲気は無かった。


「……まずは、一旦仕切り直そう」


 私をそっと傍に降ろし、立ち上がる。手を目の前に差し出す。

 大きな手だ。外見とは反して無骨な指に少し驚く。

 立ち上がって私はベッドにまた腰かける。それで私の心も落ち着きを取り戻した。

 ちょっとの無言の時を破る様に、死神さんは語りだす。

 それは、私の叔父さんとの、小昏國光とのつながりだった。


「もう七年前になるか……私が『DEFOLIATION』に入社した時、彼が私の担当として充てられた。……正直、最初はいいイメージは無かった。無精髭生やして小汚くて、雑で口が悪くて、とても三十代とは思えなかったよ」

「……ふふっ。そうね。確かにそれは私の叔父ね」


 死神さんが語った人物像は、正に私の叔父そのものだ。

 そんな姿がドラマのはぐれ刑事とリンクして、私は好きだった。


「机や身なりは汚いし雑なのに仕事は真面目。口悪いのに部下思いで仁義に厚い。上に盾突く訳でもなく、かと言って無能な上司には正論で潰したり。サムライ然としている彼に、私だけでなく同期や後輩も尊敬した。人が外見だけじゃなく中身が重要……そんな戯言が本物だと知ったよ」


 饒舌で自分の叔父を褒められるのは存外悪くない。その口調も、次には悲しげに変わった。


「だが、彼は時折機嫌が悪くなることがあった。不自然な痣が顔にあった時も。私達が何があったか聞いても、彼は何も答えてくれなかったが。……五年前、私が線路に突き落とされる前の事だ。二人で飲みに行ったんだが、珍しく泥酔してな。話してくれたんだ」

「……私のこと、ね」

「そう、そして自分の兄の……君の父親についてな」


 そうして、死神さんは語りだした――だが、それは誰よりも私自身が知っている……身に刻まれたような話だった。

 ご拝読ありがとうございます。


 次は結構ダークな雰囲気です。

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