#22 死神さんと仁大さん
「これだけレベルが上がれば死ににくいな」
「まだ一週目なのに上げすぎな気もするけど」
「行ける場所を余さず通れば、知らない内に『ダスト』が貯まるからな」
時刻は夜十一時、深夜の幽霊ゲーム部の時間だ。
『Another One』をプレイしてはや四日ほど、協力プレイ且つ既プレイの私が居るからサクサク進んでいる。
現在位置は【星屑の聖域】という場所だが、ここは直接のストーリーに関係ない。が、死神さんはそういうクリアに関係ない場所も探索しつくすまでやりこむタチだ。
「デバッガーになった方がよかったんじゃない?」
「私の子供の頃の夢はゲーム関連の職業か、小説家になることだからな。あながちその選択も間違いではなかったかもしれない」
「へぇ、小説家ねー。書き手側なのね」
「自分の空想を時折書き起こしたくなる衝動がある」
「厨二病特有の空想ってやつね」
恥ずかしそうに頬を掻く。今の死神さんは仮面を外している。
死神さんの仮面が外れた後、少しずつだが私の前でも素顔のまま行動するようになった。
外したその日は終始、反応がよそよそしい始末だったが、ようやく隣で顔を見ても困り顔をするくらいには慣れたみたいだ。
外れた仮面は呪力を失ったのか、二度と顔にへばりつく事はなくなった。
死神さん曰く「どんなことをしても壊れなかった」程の硬質な材質だが、これは外れた後もその性質を引き継いでいるようだ。
四年の歳月を半強制的に共存してきたという万感の思いを込め、死神さんは大鎌で切りつけたが、傷一つつかなかった。
なので、自在に取り外しができる頭防具――そんな捉え方でこれからは扱っていくつもりらしい。
黒いゴムバンドを内側に取り付け、時狩中には装着してそれ以外では外すという使い分ける。
これで念願の風呂に入れる、と本人は大喜びだったが、内心私も大喜びといった感じだ。
だってねぇ……今の今まで仮面で常時顔を隠した人と居たんだからねぇ。
性格も性癖も歪んでいないことが確認できたとしても、ビジュアルで危ない人と判断される可能性はひじょーに高いのだ。そも初対面でよく冷静に話せたなと私は自分を褒めたい。
あと、存外カッコよかったってのもある。
とはいえ、女性もののファッション誌で取り上げられるモデルや、テレビ番組に出演するアイドルには届かない。だが、そういったカッコよさとは比類させることができないカッコよさというのか。モデルやアイドルも、どの路線で自分を表現するかがあるだろう。美しさだったりワイルド系だったり、その人特有の雰囲気や美意識を活かして自分を魅せる。
死神さんは、恐らく魅せる業種の人の中ではそうそう表現できない雰囲気を纏っていた。
精悍で誠実、自分の意志を貫き通す眼差しは、剛毅と表すに相応しいだろう。
幾多の惨劇を戦い抜き、傷付きながらも血と涙で己を磨いた戦場の長槍――私も趣味で小説を書いていた身だから、こんな形容をしてみる。
「――おーい、幽香?」
「へっ?」
「私の顔を見たままフリーズしていたが、何かヘンな所でもあるのか?」
どうやら彼の外見評価をしている間、ずっと凝視していたようだ。
「いえ、歯にノリがついていたから気になってね」
「え!?」
「嘘よ」
適当に誤魔化して画面に目を戻す。
急停止中におかしいと思ったのか、私をターゲッティングして近付く敵を彼が単騎で殲滅していた。
「……ここ結構固い敵が出るのに」
「最上級〈秘術〉――『浄化の光芒』を得た私に敵はいない」
遠方から接近する骸骨騎士に向けて三秒間の詠唱――円陣の展開が完了し、そこから放たれる極太の白い光芒が対象を飲み込む。
「うわぁ……表示ダメージ値が……」
驚きの二千越えの大火力――通常攻撃が理論値で七百を超えれば、DPSを鑑みて最高値なのだが、死神さんはこの一撃のためのステ振りをしている。〈体力〉や〈持久力〉といったステータスを全て削ぎ落とし、『刻印』というステータスの底上げ・能力付与をする装備も一撃の事だけを考えて装備している。
「継戦能力は腕前で補うのさ」
得意げな顔でそう言って、バックスタブを取りに来る骸骨騎士に振り向き光芒をぶっ放す。これで付近の敵は全滅した。
中間地点を開放し、一旦の休憩という時に――ピンポーンと、この五年間一度たりとも鳴らなかった玄関のチャイムが鳴った。
「……誰、かしら?」
「もしや、肝試しにでも来た連中か?」
だとしたら困る。とっても困る。
淹れ立てのコーヒーと敵の死体が散らばっているゲーム画面に中途半端に中身が残っている菓子袋――現状を見れば誰かが居たことなんてサルでも理解する。隠そうにも時間は到底足りないし、もはや口封じをするしか――そう思った瞬間、とある人物が頭をよぎった。
「あっ!」
「どうした?」
「いるじゃない、チャイムを鳴らして入るような要件がある人が」
言うや否や私は立ち上がって玄関へと向かっていた。
「あ、おい幽香!」
死神さんも慌てた様子で私についてくる。
私の予想が外れてもし本当に肝試しに来た人だったら、私達の関係に対してよからぬ考えに至るだろうから、あんまりついてきてほしくないのが正直な感想である。
だけど、残雪がようやく無くなってきた時期の山に、夜中に来るような人物は限られる。一応確認すると、想像通りの人物だった。ドアノブを握って開けると、そこには黒マントを纏った男――仁大丹治が立っていた。
「よっ、白月幽香ちゃん」
「仁大さん、いらっしゃい」
「……来たか」
心底嫌そうな声だった死神さん。振り返ると仮面を装着していた。
「そう邪険に扱わないでくれよ、「先輩」?」
「…………」
先輩――どうやら名前まで理解している口ぶりだった。
服装はRPGの主人公で、話し方がパリピっぽさが抜けない社会人だが、初対面と戦闘時よりもむしろ好印象だった。今と初見の時の殺意のテンションの差があり過ぎたギャップなのだろうが。
「つーわけで、預けた俺の剣を返してもらうぜ。そのついでっつーか、まあ易々と逃がしてくれた借りを返しに来たのも今回の目的だが、上げてもらえない、かね?」
どこか不安気なのは、先日の戦闘での自身の行いを悔いているのもあるのだろう。
珍しく弱腰な仁大の顔を見て、死神さんはため息一つついた。そして私の顔を見て、仕方ないといった面持ちで一言。
「幽香、上げても大丈夫か?」
「ええ、是非とも上がってもらいたいわ」
「おお! そりゃあありがてぇ! おじゃまするぜー」
仁大さんを上げて、初の『時狩の死神』同士の情報交流としゃれこむことにした。
ご拝読ありがとうございました。一週間ぶりの更新となります。
とうとう仲間らしき人が増えました。
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