侵入者
部屋の扉のから侵入してきた透明な物体。
僅か数ミリの扉の隙間を埋め尽くしから上から下からと溢れでるように部屋に侵入してきたそれは、見覚えのあるものだった。
「・・・」
部屋に広がる透明な液体から手が生える。
それは、右へ左へと向いたかと思うと最後にハイドラットの方を向いて止まる。
こちらを向いているのは手だけだというのに視線を感じる。
ハイドラットは、侵入者の正体を悟る。
爆破するべきか?
問題なのは通常のスライムと違い、あのバカエルフによって改良されている点だろう。
効果があるか不明。
全くどちらの差し金か。
マクシミアか、それともメイム達か。
そういえば、言葉が通じる相手であることを思い出す。
ハイドラットの記憶ではまだ人の形をしていたはずだが、果たして今の相手に通じるのだろうか。
声をかけてみて反応がなければ離脱だ。
「おい、止まれ」
スライムは動きを止めた。
どうやら言葉は通じるらしい。
「ま、待って下さい」
聞き覚えのある声がする。
「待つとおもうか?」
「待つんじゃ!!」
思わぬところから攻撃が。
抱えていた幼女が身体を捻り膝を蹴り下げる。
鳩尾にクリーンヒット。
悶絶。
窓枠に掴まっていた力が抜けバランスを崩す。
「げっふ。おまっ、ばっか!」
気づいたときはもう遅い。
幼女とともに外に投げ出される。
浮遊感が身体を駆け抜ける。
2階だしなんとかなるのか?
しかし、ルラの方はどうする。
抱えていればなんとかできるが今は、手の外。
手を伸ばせばどうにか届くが時間がない。
何せ2階の高さだ。
「こい!!」
ルラが何か叫んだ。
ぐえ!!
幼女に気を取られていたせいでちゃくちに失敗。
身体を地面に打ち付ける。
2階とはいえ覚悟無くの落下だ。滅茶苦茶痛い。
幼女の無事を確める。
彼女空中に止まっていた。
どうやら視覚へのダメージがあるらしい。
目が閉じ呼吸を深く吸い整え、もう一度。
やはり浮いていた。
浮いているが地面との間に透明な何かがあった。
そこからルラは飛び降りると屈み
「ぬし様、無事かの?」
隣で地面に張り付いているハイドラットに声をかけた。
「お、おう・・・」
そもそも、この状況を作ったのは子の幼女なのだが・・・。
「なんで蹴ったし・・・」
「突然抱えられて外に吊るされたら文句の一つもあろう」
ハイドラットはルラを抱えて窓から身を乗り出していた。
彼女の頭はハイドラットの背の方を向いていたので彼よりせり出した位置で地面を見ていたわけだ。
「で、コイツは?」
「フュンフィーじゃの」
「そいつは上にいたんじゃないのか?」
「精霊召喚という便利なのがあっての、契約者の元に呼び寄せることができるんじゃ」
「契約者はマクシミアじゃないのか?」
「こやつは、少々複雑での二重契約でおかしいことになっておったから、ワシの権限も割り込ませておいた」
「それは、大丈夫なのか?」
「直したのを誰だと思っておる。完璧じゃ」
胸を張って言い切るルラ。
どう聞いても問題があるようにしか思えないが気のせいだろうと納得する。
自身に関わることでなければ放置だ。
「で、お前は何しに来たんだ?」
スライムの方に尋ねる。
辺りに飛び散っていたスライムが集まり人の形を作る。
透明で透き通ったそれ。
顔があり、鼻や口はあるのだが目のらしきものが見当たらない。
しかも、透明なので見分けずらい。
「け、契約の、解除をお願い・・・したくて・・・」
段々と尻つぼみになっていく言葉。
「それなら、メイムだろ。なんでそっちに行かなかった」
「あ、あの、行ったんですけど取り込み中で・・・」
「取り込み中?」
「お二人で作業をしてて」
「何の作業じゃ?」
「その・・・ベット」
「そっか、なるほど」
手早くフュンフィーの言葉を遮る。
それ以上はいらないだろう。
「ぬっ、何がわかったんじゃ?」
「要は忙しかったんだろう」
ルラは察しなかったようだ。
いや、組み合わせから想定してましたよ。
普通に考えればあの二人で何もない方がおかしいのだ。
ふーん、あの二人がね・・・。
「で、こいつの契約の解除とやらはこっちでできるのか?」
「無理じゃの、ワシがこやつにできるのは構成の組み換えで根幹を弄ることはできぬ」
「だそうだ」
「そんな・・・」
「とりあえず、ここだと面倒だ。中に戻るぞ」
二人を促して建物の中に戻る。
戻る最中に一つ大切なことに気がついた。
強襲されたので部屋の鍵を持ってくるのを忘れていた。
部屋に入るのに鍵が無い。
「なあ、なんでドアの隙間から入ってきたんだ?」
「ぼ、ボクは、精霊だったので、い、今までは通過できたんです・・・」
「今まで通りにやったらあんなことになったと?」
「す、すみません」
「扉をノックしなかったのは?」
「こ、こちらでは今までしたことが無いので・・・」
「『こちら』ではね・・・」
そういえば、こいつは俺を担当していた精霊らしい。
今まで探索を終えてマクシミアに精霊符を返すまでうちにいたとすると一番付き合いが長いのかもしれない。
フュンフィーからすれば、うちの場所を知っていたのは当然か。
今回のは、うっかりとたまたまが重なった結果ということらしい。
警戒しておこう。
用心に越したことはない。
自分の部屋の前に立つ。
さて、どうするか。
蹴り破ることもできるが修繕を考えると面倒だ。
窓から戻ることもできるが手間がかかる。
そういえば
通れるヤツがいた。
開けてもらうとするか。
扉を通るのに形を変えることができるスライム。
形を変える。
変えられる、ね・・・。
こいつはこのままの方が便利な気がしてきた。
今後の為にまずは一つ仕込んでみるとしよう。
「なあ、フュンフィー。こいつを開けてくれないか?」
ハイドラットは扉を指さして問うのだった。




