開錠
「え、えっと中に入って鍵を開ける、ってことですか?」
フュンフィーが聞き返してくる。
確かに、僅かな隙間から侵入することのできる身体は便利だ。
しかし、ハイドラットが求める開け方はそうではない。
「違うな。そこに鍵穴があるだろ」
「か、鍵を持ってないんですけど・・・」
「身体を使えよ」
「?」
「鍵穴に指を入れて中の板を上げて回せ」
「ゆ、指をですか?は、入らないですよ・・・」
「お前の身体はスライムだろ。形を変えれば入るだろ」
「その、初めてなんで・・・」
「まずは、経験してみることだな。ゆっくりでいい」
「そ、その・・・、ハイドラットさんは、できるんですか?」
「ああ、一通りはな。俺は道具を使うが経験者から言わせてもらえば慣れだ。お前はその身体だから無くても大丈夫だろ」
「ぬし様よ。ワシにはさっぱりなんじゃが?」
「お前は待ってろ、後で教えてやる」
「判ったのじゃ」
「まずはゆっくり入れてみろ」
言われたとおりにフュンフィーは穴に押し込む。
「こ、こうですかね?きつくて」
「先の感覚は?」
「ふ、不思議な感覚です・・・。自分が溶けて、広がっているのに感じます・・・」
「中にあるものを感じろ。何があるかわかるか?」
「ぬし様、すまんの。ワシの中の何かが背徳的な何かを感じておるんじゃが・・・」
ルラが何かを良く判らないことを言っている。
「ん、先の上の方に突起のようなものがいくつか」
「動かしてみろ」
「バラバラに、動きますね・・・」
「それが目的のモノだ」
「これ、がですか・・・?」
「この先は俺だと感覚で合わせるんだが、お前だったら更に上の方を感じられるだろ」
「・・・んっ、溝ですかね」
「どんな形をしてるかわかるか?」
「強いて言えば『H』な形かと」
「おっし、間違いない。いい具合だな。そこに棒があるのわかるか?」
「か、感じます」
「そいつがついてる一番奥の板が閂だ。それのを今あるところからHの反対側に導きたい」
「ひ、引っかかりがあって、動かないです・・・」
「お前が言ったHな形にくり抜いた板はレバータンブラーだ。4枚あって形が揃うようにできている。一枚一枚を下から突いて揃えてみろ」
「や、やってみます・・・。っん、できました」
「なら、準備は終わりだ。あとは解き放つだけだ」
「と、解き放つ?」
「鍵の形はわかるな?」
「あ、はい」
「そのまま、タンブラーを押し上げている部分を維持し他は回収しろ。鍵の形を意識しろ」
「で、できました」
「あとは硬くして捻るだけだ、やれ」
フュンフィーが意を決してい指を捻るとカコンと小気味の良い音がした。
扉の閂が外れた音だ。
「や、やりました」
「上手くやるじゃねーか」
主な鍵はこの形だ。
やり方を覚えてしまえば他でも可能だろう。
時間にして5分程だったが、形状変化の自在なスライムであれば慣れれば数秒でできるのではないだろうか。
フュンフィーが鍵穴から指を引き抜くと透き通ってはいるが、形は鍵そのものである。
相変わらず表情は読みにくいがそこはかとなく嬉しそうに指先を見つめている。
「さてと、詳しい話は中でするか」
ハイドラットは扉を開けて中に入ろうとする。
「のう、ぬし様よ」
ルラが声をかけてくる。
「どうした?」
「教えるのは良いが、あやつにこの部屋の鍵をくれてやる必要があったのかの?」
「・・・」
しまったともおもったが、よくよく考えれば鍵が無くても侵入してきた相手だ。
他でピッキングを仕込んだところで、どこも同じタイプの鍵。
結果は一緒だろう。
だから、
「・・・問題ない!」
ハイドラットは自分をそう納得させたのだった。




