感覚
夜、ハイドラットは唸っていた。
本日の喪失した道具のリストを作製したものの失ったものがあまりにも多すぎた。
冒険としてはそういうものであると言われたらそこまでだが、そのようにならないように行動してきた。
単独行動では起きなかったことだ。
結局、集団というのは足の引っ張り合いでしかない。
戦いにおいては数が必要かもしれないが、戦う必要が無ければ人はいないに越したことはない。
護る為にチームに入れたのもが爆弾で、しかも中から爆発するなど愚の骨頂であろう。
チクチクと針を動かしハイドラットは服に仕込みを施していく。
収納機能をふんだんに仕込んだ服はスライムに溶かされてしまったので一から作り直している最中だ。
「主様よ~、腹が減ったのじゃ~」
人様のベットの上から逆さに身を乗り出し催促してくる幼女。
卓越したオークの技能によって創られた衣装は捲れてあられもないことになっている。
ここ数日で、この幼女、服を着ることは覚えたが穿くことは未だに覚えず。
曰く、纏わり憑く感じが嫌だとのこと。
バタ足を漕いで不毛の丘が丸見えだがハイドラットにとってはどうでもいいこと。
「寝ていて喰わなかったのはお前の責任だろうが。ないもんはない。諦めろ」
「寝てしまったのは雑な術式の修正をしたせいじゃ。崩壊寸前のを組み直しすのが大変じゃたんだぞ」
聞き流すつもりだったが、ルラが気になることを口にしたのでハイドラットは作業を中断する。
「組み直した?何を」
「あやつの霊核の定着術式じゃな」
霊核というとフュンフィーのことだろうか。
あの定着を行ったのはメイムだったはず。
メイムが構築した術式を直したということだろうか?
術式が直せるということは正しい構築式を知っているということか。
「お前、もしかして人の創った術式をいじれるのか?」
「うむ、先程も言ったじゃろ」
「ってことはあいつの使った術式を使えるのか?」
別にメイムがフュンフィーに使った術を使いたい訳ではないが、簡単な確認だ。
「できんよ」
予想と違う答えが返ってきた。
「術式を修正できるってことは正しい術式を知っているってことじゃないのか?」
「違うの。わしにできることは式の形を整えることじゃな。正しい術式というのは綺麗な形をしておる。歪な形を修正するだけじゃ」
良く判らないが、ルラの感覚によるものらしい。
あまり理解されないハイドラットの知覚領域と同じで個人特融のものかもしれない。
あとでハイドラットの感覚に理解を示したナナシに聞いていみると何かわかるかもしれない。
「ということは、知らない術式でも修正できるってことか・・・。なあ、壊れている術式も修復できるのか?」
「度合いによるの。先程も言うたとおりワシができるのは形を整えるだけ。小さな欠損であれば治せるかもしれんが一部分が欠けてると無理じゃ」
「組み直すのと違うのか?」
「組み直すのは余計な部分を削ぎ落し形を整えるだけじゃ。足りない部分があっても落とした余剰分から引っ張れるからの。無いものから繋げるのは無理じゃ」
「見てもらいたいものがあるんだが」
ハイドラットは横に置いてある腰袋に手を伸ばす。
「待て、ぬし様よ」
ルラから待ったがかかった。
なんだとひっくり返っている幼女の方を見ると幼女は床についてる頭を起点に勢いよく身体を捻り立ち上がり、再びベットによじ登る。
「見るのは構わんが正当な報酬を要求する」
「その報酬とは?」
ハイドラットの問いに口より先に答える音がした。
「・・・食い物か」
「食い物じゃ、先が良いの。要求を果たした後に反故にされたらかなわんからの」
「・・・つまり腹が減ってるから先にしてくれと?」
「・・・・・・」
膨れっ面で顔を逸らす幼女。
非常にわかりやすい。
ハイドラットは傍の背嚢を漁ると布で包んだものを幼女に放る。
「これは?」
「弁当だな、昼の」
「なんと!」
今日の別れ際にナナシから渡されたモノだ。
探索時につまんだものをそのまま寄越された。
一応警戒したが毒の類はなかった。
うまいうまいと食っているが相変わらず食い方は汚い。
食べかすがベットの上にこぼれている。
獣じゃないのだからもう少しキチンとならないのだろうか。
躾ける?誰が?俺?
最初のトイレだけでも勘弁して欲しいと思ったのにそれ以上やれと?
誰かやってくれませんかね?
それにしても、奴らがどこで調達したのか知らないがあの弁当は旨い。
渡されたのは、余っているからという単純な理由。
腹が立つことに、温かいもの食べるからと余計な事をアホエルフが言っていた。
今のところ『マクシミアの客』という扱いでその特権を利用して食い物には事欠かないらしい。
特権の見返り何を要求されることやら。
「待たせたの」
拭った口元に食べカスを残したまま立ち上がる幼女。
食い散らかしたものを片付ける教育も必要か。
溜息をつきたくなる。
やれやれと先程の続きをしようと腰袋に手をのばしたとき、ハイドラットの感覚がおかしなモノが近づいてくるものを捉える。
普段ハイドラットは自身の知覚領域を街中ではあまり意識しない
単純に情報量が多すぎる。
入ってくるもの一つ一つに意識を捕られていては精神をすり減らすだけだからだ。
だが、目の前の幼女を拾ってからは警戒して知覚領域をこの建物くらいに広げてはいる。
人ではない何か。
それが街中にいるだけでも警戒するには十分だろう。
それはこの建物に侵入すると階段へ動き始めた。
「どうしたんじゃ?」
状況が見えていない幼女を無視してハイドラットは置いてた腰袋を装着すると「なんじゃ?」と抵抗する幼女を抱えて窓を開け放つ。
二階だが何とかなるだろう。
知覚領域を意識する。
周囲に他に不審なものはない。
おかしなモノがハイドラットの部屋の前で止まる。
今後の為に逃げる前に姿を確認しておくべきだろうか。
部屋の扉が軋みをあげる。
隙間から侵入するそれを見てハイドラットは驚くのであった。




