新しい自分
マクシミアは報告を受け苦笑する。
困ったことではあるが、事態はここへ着て進展を見せている。
手駒を貸し与えたのは、計画のうちではあるが、その駒の本質を歪られることは想定外である。
しかし、その中身に変質は無いようだが。
「しかし、彼女にも困ったものだ~ね、異常だ~とはわかっていたけ~れど、これ程と~は」
そう言って目の前で膝まずき畏まる人物を見やる。
その身体はヒトとは違い透き通っている。
身体を通して向こう側を見透すことができる。
水のようでありながら、その形か崩れないのはその人物がそういう生物だからだ。
「フュンフ、いや、彼女らに倣ってフュンフィーと呼ぶべきか~な。君のそ~の状態は私も計算外だ。いろいろあるが先に謝罪しよう」
「い、いえ。マクシミア様のせいでは、ありません」
「単刀直入に言~わせてもらえば、キ~ミの身体を戻すこ~とは不可能だ」
「!?」
フュンフィーは驚きを浮かべる。
主であるマクシミアは、優れた精霊術師であり、精霊の扱いは勿論、術式の創造においては稀代の天才である。
本来、精霊体であるフュンフィーが人に言葉を伝えることができるのは彼が独自に編み出した術式により物質としての身体を獲得しているからである。
稀に精霊体が気の長い時間と魔鉱石触媒を得ることて精石人となることがあるがここでは割愛する。
その彼が断言したのだ。
「術式の破壊による触媒の破棄は、できないのでしょうか?」
「非常~にむ~ずかし~いね」
マクシミアは眉間にシワを寄せながら天井を仰ぐ。
「本来、君らに与~えた身体は、空気中に散らばる魔素をか~き集めた一時的な~ものでしかな~い。しかし、今のキミの身体はスライムをベースとした魔素の固ま~りだ。そして、質の悪いことに~核となっている霊核を~私では見つけることができな~い。スライムであ~るなら核があるはずなのだ~がね、その核が見当た~らないとは驚きだ~」
マクシミアはフュンフィーの全身をマジマジと見回す。
フュンフィーに装飾は一切なく、メイムがギルドから触媒にと強奪していった鎧も着てはいない。
スライムなので身体の中まで丸見えだ。
しかし、スライムであれば有るはずの核が存在しない。
「それは、つまり・・・」
「君は精霊ではな~く、この世界に受肉した~一つの個となったのだよ。君自身は~撹拌し混ざり合い一つの生命体となったわ~けだ。」
「・・・」
フュンフィーとしては、現在、自身の器となっている肉体を破棄することで今まで通りになるものだと思っていたのだが、どうやらそんな話ではないらしい。
「霊核の撹拌と定着。と~てつもない技術と魔力だ。リーナの言うと~おり彼女は桁違いのモ~ノを有しているら~しい。ハイド君の連れと~いい、来訪者の彼女らと~いい、素晴ら~しい。ボ~クは実はに幸運だ」
フュンフィーの心配を他所にマクシミアは歓喜に溢れている。
自身を中心に世界が動き始めたのではないかと勘違いしても良いのではないかと思うくらいに。
自身の計画に神が祝福したのではないかと。
「ボク、は、どうなるんでしょうか?」
「そ~うだね、肉体の獲得による変化は予想さ~れる。お~そらく、スライムの身体に引っ張ら~れることにな~るね」
「ス、スライムに・・・」
「君は知らなかったかも知れないが、肉体は精神に大いに影響する。人とは違いスライムの肉体という特殊なケースであるが、これに例外ないだろう」
「ボクが、ボクでなくなる・・・」
狼狽するフュンフィーを見ながらマクシミアはおもう。
これはこれで、面白いかもしれないと。
手駒を弄られはしたが、奪われたわけではない。
精霊としての彼女との繋がりは断たれてはいない。
本人は気づいていないかもしれないが今までの彼女と比べれば非常に表情豊かである。
これが一時的なものなのか、肉体な獲得によるものなのかは現状では判断しかねるが、今までのフュンフでは見られなかった姿だ。
精霊とは精神だけのような存在だ。
それが肉体を得た。
口下手ではあるが淡々としていたフュンフが初めて見せる姿。
変化。
彼女を暫くハイドラットのチームに預けてみようかと思案する。
彼のチームには謎の幼女と異族の二人がいる。
単独行動を良しとするハイドラットが探索に連れていきたいとする幼女。
彼が迷宮内で彼女を拾ったのはフュンフで確認が取れているし、ツヴァイからも確認している。
しかし、一つ問題があった。
ハイドラットと迷宮図を確認た際に彼が示した場所なのだが、フュンフによれば違うらしい。
ハイドラットが虚偽の申告をしたわけではなく空間的捻じれがあったとのこと。
実際に確かめるにはこれから調査隊を送らねばなるまい。
それらに同乗させた精霊に詳細を調べさせる予定だ。
なんにせよ、あの幼女が迷宮探索において重要な役割を担っているとマクシミアは思っている。
それから、異族の二人。
妙な組み合わせの二人組だ。
片や美麗とエルフ族。
それと組むは醜悪な豚頭族。
エルフの方は桁違いの魔力保有量を持ち、オークの方は豚頭族とは思えぬ知性を持ち合わせている。
迷宮探索に興味を持ったのかギルド登録をしたいというので条件付きで特別に認可した。
エルフの方はともかくオークのギルド登録は異例で登録に周りは難色をだったが押し通した。
迷宮探索をしたいというのはマクシミアにとって都合が良かったのだ。
彼女らはいったいこれから何をもたらしてくれることやら。
二人をハイドラットのチームに加えたのは条件の一つだ。
ハイドラットは、ギルドで嫌われておりルラを守る手段に欠いていたし、メイムもナナシと一緒でなければ嫌というので丁度良かった。
素性不明のオークと組みたいという連中はいなかったであろう。
「今ま~での仕事はま~だできるか~ね?」
マクシミアはフュンフィー問う。
フュンフィーは、本来、土属性を持った精霊だ。
土精霊故に自身の現在地を把握し記録を持って地図におこすことができる。
迷宮調査を命じられるにあたって同じ特性を持つ精霊は複数体確保してはいるが、フュンフィー失うのはマクシミアにとって望ましくない。
「や、やってみます」
そう言われて、フュンフィーは本日ハイドラット一行の辿った軌跡をなぞる。
「ふむ、問題ないようだね」
示された図には問題ないように見える。
地下迷宮などで正確な位置を知ることは可能。
「フュンフィー。君は今ま~で通りハイド君の記録をお~願いするよ」
「わ、わかりました」
「君の主はボ~クだ。問題が発生した~ら報告したま~え」
「は、はい。ありがとうございます」
「今日は休みたまえ」
「はい。失礼します」
踵を返し思わず部屋をでたフュンフィー。
しかし、ここでミスに気がつく。
自分はもう精霊ではないと。
今までと違い、身体を放棄し霊体に戻ることができない。
どうすればいいのか主に尋ねるのは戻るのは簡単だ。
扉一枚を開ければいい。
しかし、何故か身体が拒否する。
自分の事で主であるマクシミアを煩わせたくはないし、困らせたくもない。
なんとなくそう思った。
どうしようかとその場でしばらく思案し、彼女は答えを見つける。
そして、歩き去っていった。




