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幻想世界レスエンティア  作者: 三之月卯兎
二章続き
57/62

本日の戦果

炎の柱が消えるとともにハイドラットは通路の奥を見た。

声や口調からしてルラがいたことは間違いない。

ハイドラットが感知していたのは巨大なスライムのはずである。

彼女が何故いたのかは分からないがまずは生存確認が先だ。

カードを構えたメイムの正面には炎の道が出来上がっている。

壁を崩した為、ルラとおもわれるものが居たあたりは土煙が立ち込めている。

凄まじい熱量だったのか地面の一部は一度溶け再び固まりかけているのか特有のテカりを放っている。

自分が無事なのはメイムの後ろにいたからか、はたまた彼女からの保護対象とされ被害を免れたのか。

どちらかといえば前者だろう。


魔術、魔法を使うのにあたって、必須の要素とは何か?

それは、行使しようとする術に対抗できる魔術耐性である。

術の構築・制御に失敗すれば自身に跳ね返る。

何故なら、魔術や魔法は自身の近くで構築するからだ。

術者から離れれば離れるほど発動した術を制御するのが難しくなる。

術式を自分の実力に見合ったモノにするには試行錯誤が必要だ。

調整に失敗は付き物で習得するまでに自爆することは良くある話だ。

必要であれば術式の改変もする。

魔術は使う術の基本格子を思い浮かべ、そこに詠唱やイメージをもってカスタマイズするので術式の変更が可能だ。

しかし、呪符や巻物(スクロール)は既に完成されており、術構築は完成している。

必要なのは魔力の供給だけだ。

数年程前に、誰でも使える魔術として巻物(スクロール)がに出回ったこともあったが、暫く立つと市場から姿を消した。

画期的な商品であったが残念なことに複数の欠点を抱えていた為だ。

まず、扱う者の魔力量によって威力が大きく変化してしまう。

精度の高い術式の書き込みが必要で特殊なインクが必要かつ高価。

更には一度きりの使い捨という問題点があり需要が無かった為だ。

魔力量の低い者からすれば、高価な割に見合った結果を得ることができず、量がある者は大抵魔術師なのでわざわざ買う必要が無いという代物。

そんな欠点だらけの一度使いきりの魔術(スクロール)と比べれば、ハイドラットの持つカードがどれ程の価値があるか想像がつくだろう。

それにしても、このカードの効果が術者の魔力に依存するとしてもここまで差が出るとは思わなかった。

ハイドラット自身では全力をもってしても焚火程の火力しか出ないというのにメイムが使ったら別次元の威力だ。彼女はどれ程の資質をもっているというのだろうか。


「ちょっと、大丈夫!?」


カードを放り投げて慌てて駆け寄っていくメイム。

貴重なものを投げ捨てないで貰いたいものだ。

ハイドラットはメイムの放ったカードを回収する。

ルラの安否は気になるとこではあるが抗議の声が上がっていたので無事であることは間違いないだろう。


「おぬし、ワシを殺すつもりかや!?」

「いや、殺しかけたのはメイムで俺は無実だ」


カードを腰袋にしまいながらハイドラットは無罪を主張する。


「アンタが魔物だからやれって言ったんでしょうが」

「俺は来てるとしか言ってないな」

「なにそれ。アタシのせいにする気?」


何故、ルラをスライムと間違えたのだろうか。

声の方へ歩み寄るとその答えがわかった。

そこにはルラがいた。全裸。

その身体はスライムによって覆われており首から上が出ている。

メイムが引きずりそうとしたがルラに止められる。

どうやら理由があるらしい。


「この状況を説明してもらおうか」

「ぬしよ、ここを進むにしてもワシを背負ったままでは足手まといじゃろう」

「こいつ、戦わないから元から足手まといみたいなものじゃない?」

「おまえは黙っとこうか」

「自由に動ける身体が欲しくての。で、勧められたのがこのボディじゃ」


ルラが片手をあげる。

幼女の腕の延長に成人の長さくらいの透明な腕が生えている。


「勧められた?誰に」

「ナナシじゃの」

「あー」


どうやらメイムには思い当たることがあるらしい。

あのオークはいったい何者なのだろうか?


「こやつの意志とリンクすることで自由に動くの」


突きだした手をグー、パーと開閉して見せる。


「先程の攻撃でだいぶ失ったが喰らえばいいだけじゃからな。被ってしまえば熱からも身を護れるのは実証された」


得意げに語るが安全なのだろうか。


「なあ、スライムを着てできることはわかったがそれは大丈夫なのか。魔物だろう?」

「ぬしさまは、覚えてないのかの。こやつは、最早魔物ではない。ほれ、リンクを切るから挨拶せい」


ルラがそういうと彼女の身体にまとわりついていたスライムがズルズルと離れ、人の形を成す。


「あの・・・。ご無事で・・・なによりです」


人を型どったスライムが聞き覚えのある喋り方をする。

しかし、声には覚えが無いし身体付きだって違う。


「・・・どういうことだ、おい」


ハイドラットはメイムに視線を送る。

先程休憩中に彼女は言った。『彼』は戻らないと。

ハイドラットの記憶でもスライムの中で溶けていく彼を見ている。

とすれば、ここにいる人物はいったい何者なのだろうか?

人型となったスライムの胸のあたりには男にはないはず特有の膨らみがある。


「彼女は精霊ですからね。宿るものの性質よってに性別が左右されます」


そこにナナシが戻ってきた。

手にはルラの服を抱えている。


「スライムがメスだったと?」

「いいえ、スライムは無性ですから。この姿は彼、いえ彼女の願望ですよ」

「どうゆうこった?」

「ここへ来るときもお話ししましたが彼が男の姿だったのはメイムさんがおっさんの汗のしみ込んだ鎧を媒介にしていたせいです」

「アタシとしては頼りになるダンディなおじ様になる予定だっただけどね。具現化したら貧も気弱で残念な子だったけど」

「メイムさん、精霊に求めるモノが間違ってませんかね・・・」

「で、彼女どうなの?こいつが寝てる間にいろいろ試してきたんでしょ?」

「ええ、素晴らしいですよ。フュンフ、いえ、女性になったのですからフュンフィーとでも呼びましょうか。スライムを触媒としたことでできることは以前より多彩ですね。最大は合体です」

「「・・・合体」」


メイムとハイドラットは同じ反応をした。


「男女だと問題だったかもしれませんが、今では女性同士。合体に問題はないですね」

「それはそれで問題がある気がするが・・・」

「戦えないルラさんを守ろうとすると同志は持ち味の機動力が死にますし、誰かしら守りに入る必要がありました。しかし、これからは合体することでルラさん自体が戦えます」

「守らなきゃいけない対象を戦わせてどうすんだ?」

「これまで戦闘で役に立ってない子が専守で使えるのは大きいでしょ」


本人を前に気にせず発言していまうメイム。

こいつにもう少し気遣いはないのだろうか?

フュンフィーは苦笑いしている。


「合体ってスライムにこいつを突っ込むだけだろ。大丈夫なのか?」


先程の首だけ出ている状態を思い出す。

どう見たって捕食されかけているようにしか見えなかった。


「ぬしさま、違うぞ。ワシとこやつが一つになるんじゃ。先程は炎から身を守ってる最中じゃったからの。ほれ合体じゃ」

「あ・・・、はい」


フュンフィーの身体が崩れ裸の幼女にスライムがまとわりついていく。

どうみても喰われかけてるようにしか見えない。


「同調するぞ。エグゼク、リンク・ヒュンフ」


ルラがそう言うと纏わりついていたスライムが人の形を形成し始める。


「おい、待て待て待て!!!」

「!!」


ハイドラットが慌てる。


「どうしたんじゃ、ぬしさまよ」


何を慌ててるのか分らないといった感じでルラが尋ねる。

ハイドラットとしては彼女がわからない理由がわからない。

隣でメイムを驚いてる。


「お前、手足が溶けてんるんだが大丈夫なのか?」


透明なスライムで構成された手足が伸び、顔の高さがハイドラットと同じくらいになった幼女。

しかし、透明なスライムに取り込まれた手足は付け根から消失し、身体だけが浮いている状態だ。


「ふむ、一時的に同化させておるので問題ないの。離れるときに再構築すれから問題なかろうて。こうしないと元の手足が邪魔で関節が曲がらんぞ?」


自分の身体であるかのようにスライムでできた肘を曲げ屈伸して見せる。

確かに、元の手足があったなら今の関節の部位で曲げることは不可能だろう。

元の関節位置のままでは肘先と膝下がやたらと長い人になってしまう。


「しかし、この状態で透明であるのはシュールですね。私としてはルラさんの裸を拝めて興奮す、」


ナナシは言い終える前にメイムに殴られた。


「ふむ、見えてるのが問題なら色を付ければよいのじゃろうがそこまではまだできんようじゃな」

「この状態から手足が治るとこを神殿連中に見られたら問題になるな。元の手足そのままでどうにかならいのか?」

「体積が増えておるからの、機動性としてはこちらの方が良いと思うんじゃがの。それとも、ぬし様はスライムから首だけ出したワシが大暴れする方のが良いかの?」


それは、それで問題だ。


「後で考える。どちらにせよ、ほとんど荷物を失った。これ以上の探索は不可能だ、撤収する」

「賛成ですね」

「ナナシのせいで進まなかったわね」

「私はこうやって念願のスライムを手に入れましたし、探索成果もあったじゃないですか」

「報告できないけどな」


今日の内容をどうやって伝えろと?

まぁ、ヒュンフィーがいる以上、マクシミアには伝わるだろうが。

こうして、ハイドラット達は迷宮をあとにするのだった。


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