怪力の正体
上半身の服は、ほとんど溶けてしまっている。
機動性を損なわないように薄く軽い布を素材としていたからだろうか。
逆に、下半身の方は不用意なことで怪我をしないように厚手で丈夫なものを使っていたからか辛うじて形を残している。
おかげで、醜態を晒さずに済みそうだ。
腰鞄は、幸運なことに無くなってはいなかった。
買い替える必要はありそうだが。
探索に耐えられるよう耐久性の高いものを採用していた為、中身を失ってはいない。
バックの中は、浸食されておらず、マクシミアから授かった魔術符カード4種も無事だ。
ハイドラットは、メイムから渡された裁縫道具でズボンの補強をする。
とはいえ、当て布は無いので貰った糸を使って解れた箇所の補修をしたり、裂け目が広がらないように簡易なリップストップ処理を施していく。
チクチク、チクチクと単純な作業を黙々と続ける。
・・・。
・・・。
飽きた。
メイムは、他やることが無いようで暫く前くらいから、大剣を振り回している。
その大剣は身の丈を超えていて、ハイドラットでは持ち上げることすら適わない代物だ。
「なあ」
「なによ」
「お前何なの?」
「アンタが何なの?」
「いや、作業に飽きてな。お前も暇そうだし、敵情視察もかねて話でもしないかと」
「喧嘩売ってんの?」
「買わねーよ」
「なんでアタシが売ってることになるのよ・・・」
「最初に吹っ掛けてきたんはお前だけどな」
「アレは勘違いだったんだから謝ったでしょ」
「確かに、誤った結果殺されたらしいな」
「アンタが言ってるのアタシのと意味違うわよね?あれはアンタが全裸の幼女を袋詰めにしてる変態だとおもったからよ」
「それを運んできたのはナナシなんだがな」
「それも聞いた。ルラちゃん誘拐されかけたんだってね」
ルラの誘拐については、あの幼女が不用意に全裸で外に出た結果だと思っている。
書置きはしておいていたが、字が読めないとは思っていなかった。
この迷宮を攻略するのにカギになるかもしれない幼女だ。
そんな下らない理由で失わずに済んだことはナナシに感謝するべきなのかもしれない。
「そこは助けられた。アイツは俺には必要だからな」
「あんた、ロリコン?」
「ロ、ロリ・・・なんだって?」
「なんでもないわ。ルラちゃん助けたことで貸し一つね」
「一つどころか勘違いで俺を殺ったことで0。人様をスライムに放り込んだことで-なんだが・・・」
「今回の探索に付き合ってあげてるし、スライムから助けてあげたし+1の間違いでしょ」
「は?人様を放り込んだ元凶がお前で、助けたのはお前じゃないだろうが」
「フュンフ君を送ったでしょ」
あのとき飛び込んできた鎧はやはりフュンフで、彼を投げ込んだのはメイムだったらしい。
「あいつ、俺の記憶だとスライムの中で消えちまった気がするんだが・・・。それでどうやってお前が俺を助けたことになるんだ?」
「アンタが言ったんでしょ。アレを触媒にしようって」
「なに?」
「スライムを精霊顕現の器にしようって話」
「喰われちまったようにしか見えなかったんだが・・・。違ったのか?」
「逆に取り込ませたのよ。あの子の精霊核にスライムの核を取り込ませることで身体部分を掌握させたの」
「・・・ということは、アイツはスライムみたいな魔物に対して強いのか?」
「無理無理。取り込むってのは融合だから繰り返すと精霊としての人格崩壊する気がするし、融合するにあたってどれだけ魔力必要だと思ってんの?まぁ、これでアタシがアンタを助けてあげたって判ったでしょ?」
「助けてくれたのは、ヒュンフだろ?」
「あの子はアタシの僕で、融合にさせたのはアタシ。必要魔力の補助もアタシ」
「もしかして、アイツは拒否権なかったのか・・・」
「どうなんでしょうね。拒否はしなかったわ」
そう言ってニッコリ微笑むメイム。
彼女はハイドラットが想像しているより鬼畜な性格なのかもしれない。
横暴で理不尽。ハイドラットからすればそんな印象が目立つ。
「それは置いといて聞きたいことがあるんだが」
「なになに?内容によっては貸し増えるけどいいの?」
「問題ない」
貸しが増えようと聞けることは聞いておく。
メイム達がこの街にいつまでいるかわからないし、いなくなったら返す必要もなくなる。
自分が弱いのは理解している。
生き残るために必要なのは情報だ。
知らないことを知る機会があるのであれば躊躇うべきではない。
いくら貸しが増えようが最終的には踏み倒してしまえばいいだけの話だ。
それにしても、退屈だったのだろうか。話しかけたときには嫌そうにしていたメイムだが今はノリノリである。
「お前の怪力について知りたいな」
「あー、なるほどね。敵情視察ってのはそれか~。まぁ、いいや。アンタ、アタシがホントに怪力だとおもってる?」
「見えないな」
「じゃあ、何だと思う?」
メイムはしたり顔ハイドラットに問う。
当ててみろということだろう。
「お前が俺を掴んだ時、酷い感覚に襲われる。例えるなら酔いだな」
「うんうん」
「身体が、軽くなったり重くなったりすることから察するに触れたモノの重量操作ができるってのがお前の怪力の正体だ」
「おー、良くできました。半分くらい正解かな」
「半分?」
「判ってんじゃないの?触れて無くても操作できるの」
「やりあってる最中の平衡感覚の狂いはその力の副次的な効果か」
「・・・直接向けてない場合は、抵抗されてそんなに効かないと思うんだけどね。アンタ抵抗値低い?」
「知らん。並みだとは思うが」
「他にも影響出てる可能性があるか・・・。でも、アンタが戦闘時しか感じなかったら大丈夫よね」
「わからんな」
「オッケーてことで。で、意識してやるとこんな感じ」
急にハイドラットの身体が重くなる。
まるで地面に吸い寄せられるかのように這いつくばいにされる。
肺が押しつぶされそうになり、呼吸が苦しい。
息を吸おうとしてもまともにできない。
「あのときもやろうと思えばこれで圧勝できたんだけどね、アタシ調整が下手だから周囲巻き込んじゃうかもしれないし」
「くっ、かぁ、ぬぅぅぅ・・・」
抗おうと肘を立てて抵抗しているが、ブルブルと腕が振るえる。
ミシミシと関節が限界だと悲鳴を上げている。
「あ、骨やっちゃたらまずいわね」
身体から重さが消えた。
ハイドラットは重さによる束縛から解放される。
「ぜぇ・・・、はぁ、はぁ・・・。とんでもない術だな。起動ワードはいつ言ったんだ?」
「何言ってんの?」
「魔術や魔法には詠唱が必要だろ。巻物や魔法陣なんかだって発動させるためには言葉が必要だ」
「あー、普通はそういの必要なんだっけ。そういえば、ナナシもやってたわね」
「その言い方だとおまえは違うみたいなんだが」
「そうね。抵抗もまともにできないアンタだから解らないかもしれないけど、アタシにはそれが必要ないの。もっと魔術のレベルを上げれば次元が違うって解るようになるんじゃないかしら」
「納得したくねーな」
「自分のレベルが低すぎることに?」
「いや、お前の術が次元が違うってとこ」
「低いのは認めるんだ」
「馬鹿じゃないからな。自分の力量はきちんと把握している」
「ふーん。アンタは何か術は使えるの」
「なんだ急に」
「アンタだけアタシのこと知ってるのも尺じゃない。教えてあげたんだから教えなさいよ」
「そう言われて教えるヤツが・・・うげぇー、ぐぬぅ、」
平衡感覚が揺れる。身体が急に重くなったり軽くなったりしてバランス感覚が狂い眩暈がする。
「何・・・を、してる?」
「さっきの応用よ。重くしたり軽くしたりを断続的に交互に行うことで三半規管を揺さぶってんの」
「それが・・・眩暈、の正体か?」
「アタシと二人きりのときは態度に気をつけることね。周りを巻き込まないならやりたい放題なんだから」
「えげつ、ねーな・・・」
「嫌なら魔術の才能でも磨くのね。で返答は?」
「・・・使えねーよ」
「嘘だ」
身体の重さの振れ幅が大きくなり、ハイドラットの眩暈が悪化する。
「うげぇー・・・、なんで、そう、思うよ?」
「なんとなく。使えないなら、答えを渋る必要ないじゃない」
「ぬぅ・・・ブラフは・・・、必要だろうが」
「さっきのなんか目のそらし方が嘘っぽかった。アタシのを見て巻物や魔方陣を疑ったところをみるに自身で術は展開できなくても補助があれば使えるって感じね。となると腰袋ね」
「ああ!わかったよ。見せてやるよ!!」
ここまでバレてしまっては、しょうがない。
下手に抵抗してカバンを破壊されるくらいなら見せてしまった方が良い。
それにこれ以上の眩暈には身体が持ちそうにない。
メイムは術を使うのを止めた。
「これが俺が使えるカードだ」
そう言って腰鞄からカードを取り出す。
そして、その使い方とカードがマクシミアから貸し出されたものであり、迷宮内で発見された遺物であることを説明する。
「ふーん、呪符みたいなものか、ナナシがいたら喜びそうなんだけどね」
「あいつはホントにオークなのか?」
「豚であることは確かね。使ってみてもいいかしら?」
一応許可はとるらしい。彼女の性格からすれば意外だとハイドラットは思った。
「待てよ。通路の向こうに魔物が来てる」
ハイドラットの感覚に魔物の気配が引っかかる。
まだ通路の陰から出てはいないがハイドラット特有の感覚からすると通常よりかなり大きいと窺える。
普通だったら逃げるところであるがメイムは動じていない。
「かなりデカいぞ」
「ふふーん、アタシの火術を見せてあげるわ」
メイムはそう言ってハイドラットの渡した赤い火のカードを突き出し構える。
「それ、焚火しかできな・・・」
ハイドラットが言い切る前に通路の陰から巨大なスライムが姿を現した。
「ファイヤー!!」
メイムの叫びとともにカードが輝き、そこから通路全てを飲み込むような太い火柱がスライム目掛けて襲い掛かる。
「嘘だろ、おい」
ハイドラットは自分がカードを使っていた時と全く違う光景に唖然とする。
その向こうから、
「なにをするんじゃ!!」
聞き覚えのある声がした。




