気がつけば
背中が冷たい。
「気が付いたかしら?」。
「おわっ!?」
目を開けると青髪でとがった長耳の少女がいた。
「はいはい、気が付いた?取って食ったりしないわよ」
自分が床に寝かされていることに気が付く。
少女はハイドラットの横に歩いてくると膝を抱えて座り込んだ。
「記憶あるわよね?なくなったら便利かと思ったけど、やっぱ面倒だからやめてね」
「誰かさんのせいで命落としかけたからな、記憶ぐらいで済むなら安いもんだ」
ハイドラットは片肘ついて上半身を捻りメイムの方を見やる。
「それだけ言えれば大丈夫そうね。とりあえず、地上に戻りましょうか。あんたがボロ切れでだけで回りたいなら付き合ってあげてもいいけど」
「誰のせいでボロボロになったとおもうんだ?」
「人のせいにしないでよ」
「おまえのせいだろうが、お前だったら軽く倒せたんじゃないのか?」
「相性が悪かったの。触れないとなるとあそこからの対処は難しいわ」
「触れない?」
「そもそも、アンタが接近許したのが原因でしょ。位置把握は得意なようなこと言ってザル過ぎない?」
気がついてはいた。
黙っていたのは、こいつに一泡吹かせようと思ったからだ。
「ナナシのときみたく引き剥がせば良かったんじゃないのか?」
「アンタの抵抗値が低いみたいだからあそこで使ったらアンタがペシャンコになるわよ」
「マジか・・・」
自分の命と引き換えにちょっとした情報を手に入れた気がする。
全く釣り合いが取れていないが。
「で、なんで俺は無事なんだ?無事に脱出た記憶は無いんだがな」
服は崩れ中に仕込んだ装備のほぼ全てを失っている。
「そんな様で良く今まで無事だったわね」
「そりゃ、逃げるからな。対処できないのは相手にしないのが一番だ」
「対処するしかないときは?」
「周りの連中に押し付ける」
「最低ね。・・・押し付けられないときは?」
「爆薬で中からボン。要は液体を操ってる核さえ破壊してしまえば無力化できるからな。これくらいだったら爆破でなんとかなる。内部からの衝撃には弱いからな」
両手を広げて対処可能なサイズを表現する。
だいたい、直径1.5m以内。
「今回のはその倍以上あったんだけど」
「俺の計算違いだな。お前らだったら対処できると思ったんだが」
「うるさい!助けてやったでしょ?」
「助けた?お前妨害しただけじゃねーか。お前の魔素に邪魔されてスライムの中に2つ核があるのを見落としたんだぞ」
「それは、アタシの責任じゃなくてアンタの油断だと思うんですけど」
「そいうえば、あの精霊はどうした?少年のヤツ。俺が意識失う前にスライムの中に飛び込んできた覚えがあるんだが」
「あの子は・・・」
言い澱むメイム。嫌な予感がする。
朧気ながら記憶が途切れる寸前にスライムの中に飛び込んできて消えたような記憶がある。
「まさか、死んだのか?」
「あの子は戻らないわ・・・」
「おいおい、マジかよ・・・」
出会ってから数時間だったが役立たずだった。
度々、意識飛ばすし、足手まとい。
できることも無かったがそれは戦闘面においてだ。
探索に関することは聞きそびれたままだったが、もしかしたらそちらの方は優秀だったかもしれない。
尤も、いなくなってしまったのなら確かめようがない・・・。
「そういえば、おい、ルラはどこに行った?ナナシもいないじゃねーか」
周囲にいるのはメイムと自分だけ。
「冗談じゃねーぞ。深層探索するつもりが無駄な寄り道して3人失ったって馬鹿じゃねえか!!」
頭を抱え蹲るハイドラット。
「アンタの半裸土下座なんか見たって嬉しくないんですけど?何、悲しんでんの?」
「ああ、自分の迂闊さで全てを失ってしまったことにな」
悔しくて涙が出る。
「あの豚を殺してでも止めとくべきだった・・・」
「自分本位のゲス野郎なところは変わらずか。最低」
「お前はなんで落ちついてんだよ!!」
「アンタが取り乱してるからでしょ」
「おい、あれからどのくらい経った?」
「2時間くらいかしら」
「おい、戻るぞ」
「どこによ?」
「地上だよ」
ハイドラットは立ち上がるとメイムに手を差し伸べる
「アタシらだけで?」
メイムの瞳がハイドラットを見つめる。
「俺らだけでだ」
ハイドラットは瞳を真剣に見つめ返した。
メイムはハイドラットの手を
「・・・っぷ、く・・・くは、くはははっ!、ひー、おっかしー!!・・・えほっ、けほ」
とらずに地面に伏せ、腕で蹈鞴を踏む。
何かツボに入ったのか咽ている。
「はぁ?」
「半裸の男にそんなこと言われたってときめかないって、ぷっ」
「あん?」
「他のみんなも死んだことにしちゃってもう限界。一人で勝手にシリアス始めて笑うしかないわ~、くくっ」
「ってことは、おい!」
「暴力反対、暴力反対!!今、アタシお腹痛い。避けられないから止めて、ひひ」
地面を転げまわるメイム。
からかわれていたことに気付いたハイドラット。
「一人で盛り上がっててご愁傷様。3人の生死についてはアタシは何も言ってないわよ」
「戻らないって言ってたろ」
「それはまた別の話。アンタが勘違いしただけ」
「お前、性格悪いよな」
「アンタもね。みんな、もうすぐ戻ってくるだろうからアンタは身支度でも整えてなさい」
そう言ってメイムはカバンから手のひらサイズの箱を取り出すとハイドラットに投げ渡した。
中に入っていたのは裁縫道具だ。
「ナナシのだから大切に扱いなさいよ」
「お前のじゃないのかよ」
文句を言いつつ、ハイドラットは溶けた服の応急修理に入るのだった。




