できること
ハイドラットが黙らされてから暫くしてフュンフが目を覚ました。
「あぁ、目を覚ました。良かったわ~」
「反対に眠っちゃった人もいますけどね」
「ワシも危うく眠るとこじゃったがの・・・」
「それはごめんて」
ハイドラットに背負われていたルラは現在ナナシに肩車されている。
「アイツは、ずっと寝とけば良いんじゃないかしら」
「彼がいないと我々ここから出られないんじゃないんでしょうか?」
「・・・ナナシ、アンタ覚えてないの?」
「あまり、自信はありませんね。同志に任せていたのでマップも取ってませんし」
「アイツ、そんなことしてたっけ?」
「してないですよ。でも頭の中に全部あるとか」
「便利な頭してるわね。中身だけリセットして使えないかしら?」
「メイムさん。それは、洒落にならないですよ」
「冗談だって」
「綺麗な同志は、同志じゃありません」
「そっち!?」
「あ、あの自分は・・・」
「気を失ってたのよ。そこで寝てるヤツみたく」
メイムは白目を剥いて倒れているハイドラットを指さした。
「あんなに汚い寝顔ではありませんでしたけどね」
「あ。ははは・・・」
寝ているハイドラットを見て困ったように笑うフュンフ。
「で、どうするんですか?メイムさん」
「折角だし、皆で自己紹介すればいいんじゃないの?」
「それはこの間の食事の時にせんかったかの?」
「もう、ルラちゃん。そのときはこの子いなかったでしょ」
「うむ、そうじゃが。それなら主様を起こした方が良いのではなかろうか」
「必要?」
「おぬしはソヤツにもう一度同じことさせるのかの?」
ルラはフュンフを一度を見てからメイム問う。
「それも面倒ね。起こしましょう」
「メイムさん、どうするんです?」
「目覚めの魔法を使いましょう。ほら、ドラちゃん起きなさい!」
メイム振りかぶった足で思いっきりハイドラットの脇腹を蹴りつけた。
「ぐっはぇう、げっは、げっふ・・・ぉぉぉおおお」
のたうち回り噎せ返るハイドラット。
「物理・・・」
「追い打ちじゃな」
「うわぁ・・・」
「けっは、お、お前か・・・。慈悲って知ってるか?」
脇腹を抑え咽るハイドラット。
「可憐な少女の優しさでしょ。感謝しなさい」
「ちげぇ・・・」
「細かいことはいいの。こっち来なさい。自己紹介させるわ」
メイムは地に伏しているハイドラットの首根っこを掴むと軽々と引き摺りだす。
ハイドラットは謎の浮遊感に襲われた。
「うお、またこれか。クソっ、気持ちわりい・・・」
「はーい、これで全員揃ったわね、自己紹介始めましょ」
「はぁ?おまえ頭、沸いてんのか」
無言で拳を構えるメイム。
「待て待て、今の状態だと洒落にならん」
「さて、ドブ君も揃ったしフュンフ君の紹介ね」
「迷宮に入る前にしておけば良かったのではないのかのう」
「それな」
「メイムさんは迷宮に興味があったので後回しにしたんですよね」
「仕方ないでしょ」
「それは仕方ないのか・・・」
「で、おぬしはどういった者かの?」
「あ、あの・・・ヒュンフ、って呼ばれてます」
「精霊じゃと聞いてるの」
「あ、はい。精霊ですね」
「なんでギルドにいたんでしょうか?」
「えっと、あの、あそこは、僕たちの住まい、なので・・・」
「住まいって、あの建物に宿った精なのかしら?」
「いえ、マスター、がいまして・・・」
「はぁ」
溜息をつくハイドラット。
普通に考えれば自然にいる精霊が街にいることが不自然だ。
精霊と聞いていた時点で気づいてはいたが、マスターがいると言われば確信した。
「お前、マクシミアの精霊だな」
「え、うっそ!?精霊使い?あいつが?似合わなくない!?」
「はい・・・」
「・・・今のはどっちに対する『はい』だったんですかね」
「両方じゃないかの?」
「ねえ、精霊ってここだと何してんの?」
「うちの迷宮探索責任者ってのはな、独自で精霊を組み込んだ術を作って迷宮攻略やってんだよ」
「何、どゆこと?」
ハイドラットはネックレスを襟から取り出すとその先についてるタグを見せる。
「精霊碑ってアイツが呼んでるやつだ。コイツに精霊を宿らせることで迷宮内の構造を記録している」
「これは同志だけに渡されているのでしょうか?」
「いや、上位討伐チームと探索チームに渡されてる」
「ということは、精霊は複数いるってこと?」
「・・・最低でも5人ですね」
ぼそりと呟くナナシ。
「なんでそう思うんだ?」
「私の感てやつですかね」
「へえー、じゃあ、そこにも精霊ちゃんがいるのかしら?」
精霊碑を見つめながらメイムが尋ねる。
「いや、俺の持っているのは今は空だな。マクシミアに返したままだ」
そういえば、今回探索するにあたって、マクシミアは精霊の付与を行っていない。
忘れたのだろうか?
「あ、その・・・、ハイドラットさんの担当は、僕です」
「なにィ!!」
「あの~、一人称が僕なのは男だからでしょうか?女だからでしょうか?若干、少年寄りに見えますが」
「ナナシ、そこ聞くの・・・」
「えっと、男女の概念は、ないですね。自分で、具象化するなら・・・、決められます、けど、この触媒は、使っていた方の思念が、強く残っているので・・・」
「つまり、男性が使っていたから男性よりなったと。なら逆も然りと」
「ギルマスは爺で、こんなヒョロそうじゃないけどな」
「これでもアタシ好みだけど」
「そこは精霊によるものということでしょう。左右されるのは性別だけなんじゃないんですかね」
「そうなのか?」
「ええっと・・・、自分では、良く判らないです」
「こいつの担当だってことだけど、ずっと?」
「は、はい。お話しするのは、今回が、初めてですが、かなり前から・・・」
「ということは、ドラちゃんに詳しいわけね」
ドラちゃんて誰だ?もしかして俺?
メイムが何を考えているかはわからないが、このヒュンフが自分の行動を記録していたのならば当然過去のことにも詳しいわけだ。
精霊は記録のための道具だと思っていたのだが、このように意識があり人格があるとは思わなかった。
ということであるならば、マクシミアには過去の言動から全て筒抜けなのではないだろうか?
「おい、喋ったら殺すぞ」
「ひぃ・・・」
「大丈夫、大丈夫。ドブ君は口だけのチキン野郎だからそんな根性ないって。あ、ネズミ野郎だっけ?」
「お前、泣かすぞ」
「おぬしら、話が進んでおらんぞ。必要なのはこやつが何ができるかであろう」
「ですね。パーティを組む以上は、何をできるのか知っておきたいですね」
「はいはいってことで全員、自己紹介ね。軽く名前とできることをよろしく。
アタシは、メイム。近接戦闘ができまーす。好みは剣だけど、無くても殴れるわ」
「ナナシです。メイムさんが近距離担当しているので中距離から遠距離支援してます。
職としては魔術師ですかね」
「ハイドラットだ。戦闘は並。頼るな。」
「ルラじゃの。殲滅戦が得意じゃ」
「「え?」」
男二人の声が重なる。
「ルラちゃん、見え張って可愛い。そういうことにしておきましょ」
メイムは勝手に納得しているが、夜光天事件を知っているハイドラットとしては冗談に思えなかった。
だが、あえて口にする必要はない。
「ヒュ、ヒュンフです。と、得意なのは、わ、わかりません・・・」
「無駄な自己紹介だったの・・・」
「できないことがわかるのも大切なことですよ」
「自分が何できるかわからないやつを実践に放り込んで放置とか鬼畜なんだが・・・」
「この子は治せるからいいの」
「治すってどうすんだよ。治療術は禁忌だぞ」
「何それ?」
「治療術は禁止されてるんだよ。命の尊厳を貶め争いを助長するとな」
「治療術自体は存在してるんですね」
「はぁ、何それ?せっかく魔術があるのに使わないの?意味なくない?」
「強い人間は貴重だと思うのですが・・・、治せるのに見殺しにするのでしょうか?」
「つえーヤツとかは金あるからな。高額の寄付金を教会に納めれば癒しの奇跡を受けることができる」
「同志、つかぬ事聞きますが冒険者に治療術を使える人っているのでしょうか?」
「そんな貴重な奴が冒険者にいるわけないだろ。治療術の使い手は教会に保護される。拒否した場合は、冒涜者として裁かれる」
「・・・なんというか、勿体ないですね」
「アンタ弱いのに生き返ってるのよね。確か薬で」
「薬は術じゃないからな」
「境界が曖昧ですね。術は駄目で薬はいいんですか・・・」
「薬を販売しているのは教会だ」
「・・・市場独占ですね」
「なんかロクでもなさそうなとこね」
「で、おぬしはどうやって治すんじゃ」
「この子、精霊でしょ。アタシの魔力で顕現させてるから壊れても注ぎ直せば治るのよ」
「それがお前の言ってた、死なないし死なせないってことか」
「そう。いざとなったら霊体だけになれば消滅は免れるわ。霊体攻撃できるヤツがいたら終わるけど」
「迷宮では今のところ見たことないな」
「っていうことで危なくなったら身体捨てて逃げなさい」
「は、はい!」
「その鎧、一品物でスゲー値段がしたと思うんだが」
「今まで良く盗まれませんでしたね」
「バレたら、ギルド追放だろうからな。迷宮探索にはギルド所属である必要があるしできないだろ」
「なるほど」
「で、戦闘方法はどうするんだ?死なんなら剣でも持たせて特攻させるか?」
「それだと離脱した場合、武器防具が残ってしまいますね。全裸特攻が望ましいのでは?」
「あのっ・・・」
「ナナシ、アンタの趣味混ぜてない?」
「触媒がその鎧でなければ女性の姿かもしれないわけですよね。これは興奮しますよ」
「・・・おい、メイム。霊核が無事であれば触媒がある限り何度でも復活できるんだよな?」
「そうね」
「同志、何かいいアイディアでも?」
「武器が無くても攻撃できて、離脱しても相手に利用されることのない触媒・・・。いっそ自爆することも考慮に入れてアレなんかどうだ?」
ハイドラットが指さしたのは、こちらに飛びかかろうとしていたスライムだった。




