スライム遭遇(1回目)
「で、スライムと遭遇したわけだが、どうすんだ?」
「これがスライムなんですね。想像していたのと違って残念な感じです。
メイムさんはどう思います?」
「アタシ?まぁアタシの描いてたのとも違うわね」
「おぬしらはいったどんなのを描いていたのじゃ?」
「なんて言うんですかね。こう、ゼリー状の丸い形をしたヤツですかね」
「これはアメーバーみたいなものかしら?」
「アメーバーとはなんじゃ?」
「・・・うーん、西の方ではそんな感じのがいるんですよね」
言いよどむナナシ。
「そうね。こっちの方じゃあんまり馴染みないかもしれないけど」
「で、お前はこれをどうしたかったんだ?」
「同志、スライムですよ。捕まえるしかないじゃないですか」
「あーあ、やっぱり」
と溜息を吐くメイム。
「同志、スライムってロマンだと思いません?」
「お前は何を言っているんだ?」
「古来より女性とスライムは切っても切れない関係にあります」
「初耳なんだが?」
「こいつ時々こうなるの。オークだからと思って聞き流しなさい」
「種族的価値観の違いなら俺には理解できんぞ」
「いいえ、人類共通の価値観だと思いますよ。男なら尚更」
「ナナシ、それはアンタだけの妄想だと思うわ」
「いいえ、ガロード老及び、その配下の方々も賛同してくれました」
「賛同した馬鹿共がいたか・・・。今度会ったらであの獣人ども絞めよう」
「メイムさん、ここには風呂が無いんですよ」
「しょうがないんじゃないかしら。そういう文化だし時代だし」
「人の文化として風呂は必須で、神聖なものです」
「風呂とはなんじゃ?」
「ルラさん、風呂というのは水を温めた湯に浸かる行為です」
「水浴びじゃダメなのか?」
「同志、風呂というものは水浴びよりも効果的で衛生面はもちろん疲労回復にも効果的なんですよ!」
おかしいな、オークって低能で性欲の化身なイメージがあったがナナシの発言を聞くと人より文化が進んでいる気がするんだが・・・
「なら、風呂を作ればいいじゃないのか?」
「それとこれとは別です」
「別なのかよ。メイムはわかるのか?」
「さっきも言ったけど、こいつこっちの方面はポンコツだから」
「つまり?」
「スライムを風呂の代わりにしようってんでしょ」
「どんな発想だよ。スライムってのは捕食生物で戦うと厄介な奴だぞ。武器は効かねーし、まとわりついて溶かしてしまうような危険生物をどうするつもりだよ」
「おぬしよ。ここのゼリーどもは生きているモノは喰わんぞ」
「いや、過去に食われた奴が大勢いるんだが・・・」
「それは死んだ結果じゃろうな」
死んだ結果・・・つまり
「取り込まれても死ななければ食べられないと?」
生き物は息をすることで生命活動を維持している。
それができなくなった時点で詰んでいるのではないだろうか・・・。
「百歩譲ってその条件で生存可能だとしてどうやって捕まえるつもりだよ?」
「まずは、凍らせてみます」
そう言ってナナシは持っていた大剣を前に掲げて、なにやら詠唱を始める。
柄の部分にある石が輝きを増す。
剣であるのに術者の使う杖にもなっているのか。
「我、万象に願う。ここに・・・」
ナナシを中心に迷宮内の温度が下がる。
凍らせると言ったが彼は氷魔法の使い手なのだろうか?
「あのバカ。自分のやりたいことになると見境ないんだから。あんたたちアタシの後ろに入りなさい」
メイムがハイドラットとルラを庇う様に前に立つ。
その後ろに入るようにヒュンフが急いで移動している。
「・・・我が理に従いて全てを凍結させよ。アイスフィールド!!」
冷気が柄先より光が解き放たれ、スライムのいる床一面を白く凍結させながら通路の奥へと消えていった。
その威力は凄まじく余波でこちらの方まで凍り付いている。
メイムに後ろ側だけが凍り付かなかったのは彼女がナナシの術に対して抵抗したからであろう。
「はは、とんでもない威力だな。おい」
思わず乾いた笑いが漏れる。
ハイドラットもそれなりに冒険者をやってはいるがここまで規模の大きな術を見るのは初めてだ。
この間の模造人形を夜光天事件でもこの規模の術を使う者はいなかった。
このナナシというオークはどれほどの実力を持っているのだろうか?
「アタシより弱いけどね」
さらととんでもないことを言うメイム
「あれ?お前って大剣と近接格闘が得意な前衛じゃないの?」
「何言ってんの、エルフが一番得意なのは魔法でしょ」
「・・・」
そういえば、そんな話を聞いたことがある気もするがここはとりあえず流すことにする。
「おぬしよ、寒い」
背中にいるルラが強く抱き着いた。
辺りは冷え切っている。背中に感じるぬくもりが温かかった。
ガシャンと前方から金属製の大きな音が響く。
「ナナシ、どうだったの?」
メイムがナナシに声をかける。
立ったままのナナシの後ろに大剣が転がっている。
「駄目ですね、全く効いてないですよ。周りを凍らせて足止めすることはできましたけど、本体が凍らないですね。メイムさん剣拾っといて貰えますか。喰われそうなんで」
それはどちらの意味なのだろうか。
ナナシの両腕にはスライムが喰らい付いていた。
「おいおい、あれ喰らって動けるのかよ」
「動いてんだからそうなんでしょ。助けに行くわよ、ヒュンフ来なさい」
「はっ、はい!?」
ナナシの下に駆け寄っていく二人。
俺が呼ばれないのは言ってもあまり役に立たないと判断されたからだろうか?
「それぞれ、役割があるからの。仕方あるまいて」
ルラが頭を撫でる。慰められているのだろうか。
「で、ナナシどうなってんの?」
「喰いつかれてますね、表面が冷たいですけど中は温いです」
「そんなこと言ってる場合なの!」
スライムに組み付かれた場合、とある処理ができなければ生存が絶望的なんだが余裕そうだ。
「見てください、リストバンドは溶けて無くなりましたけど私の腕はまだ無事ですよ、ルラさんの言ってることは正しいのかもしれないですよ。もう少し様子を見ましょう」
「喰われかけてんの判ってんの?」
「そうですね、検証したいところですが、まずは脱出しましょう」
あの状態から脱出は困難だ。
スライム本体の中から僅かに透度の違う核を破壊しなければならない。
核は本体の中を流動しているのでどこにあるかわからない。
それを見つけなければならない。
見つけたとしても溶解性の本体に阻まれるので武器での破壊は困難。
握り潰すか魔法攻撃で消失させるかのどちらかとなる。
「ちょっとキツく行くから耐えなさい。アンタ達下がりなさい巻き込むわよ」
メイムがこちらに注意を促す。
ハイドラットは本能的にその場から走り出した。
何をするつもりだというのだろうか?
救出に行ったフュンフは何もできないままUターンだ。
途端に空気が変わった。
数日前にメイムと出会ったときの再現だ。
耳の奥がツーンとし、眩暈がする。
体が重い。
とにかく、離れなければ。
自分だけならともかく、今はルラもいる。
背中の幼女の安全が最優先である。
ドシャッと何かが崩れる音がした。
見ればフュンフが耐え切れず転んだようだ、憐れ。
「ルラ、異常はあるか?」
「うむ、少々厄介じゃが、抵抗できぬ程でもないの」
「抵抗?」
「これは術による影響じゃの。これぐらいなら耐性があれば大丈夫じゃが少々制御しきれてないようじゃ。おぬしは離れるのが無難じゃな」
離れているのにハイドラットの状態は悪化していた。
この状態が術によるものだという。
そういえば、エルフは魔法が得意だとか言っていた。
となると、メイムは戦闘の際に大剣と術の両方を同時行使していたことになる。
「クソが」
自分との力量差に内心毒づいていると空気が軽くなった。
重さと眩暈が軽くなる。
急激に軽くなったので平衡感覚が狂いふらつく。
「おい、大丈夫か?」
ハイドラットが振り返ると爆音が響いた。
「勿体無かったですけど、終わりましたね。一匹じゃないらしいので、対策を講じてから次を探しましょう」
ゆっくりとこちらに歩いてくる二人の影。
どうやら無事らしい。
メイムが大剣の腹で叩いているがモノともしていない。
「同志、次は捕獲しましょう。アレは、我々にとってとても有用です」
そう言ってナナシは不敵に笑った。




