潜ろう
「だって、こちらは興味本位できただけですし・・・」
「来てみたら人の街だったから入ってみただけだしね。料理はそこそこね」
あれだけ食っておいてその感想ですか・・・。
「いや、同志。わたしも魔術師の端くれですからね。
覚えられる魔術は習得しておきたいじゃないですか~」
「こいつの目的はそれみたいだけど、アタシは観光だかんね。一緒にしないで」
「観光で一騒動、起したのか・・・」
「不可効力ってやつよ。アンタは文句言う前にアタシに感謝しなさい。」
「いや、感謝する覚えねーよ」
「ナナシがいなきゃルラちゃん攫われてたでしょ」
「なら、お前に感謝するのおかしいよな?」
「ナナシの手柄はアタシの手柄なの。そんなこともわからないの?」
わかりません。
このエルフどんな思考回路してんだ?
ルラの件にはナナシに感謝するとしても、お前には殺された恨みしかないんですが?
殺された自覚はほとんど無いが途中であった連中の反応を見るに事実らしい。
おかげでこちらは、マクシミアにえらい金額の請求をされてるんですけど。
「まあまあ、こうして無事だったんですからいいじゃないですか」
「良くないだろ。お前らのせいで俺は借金が塗れ何だが?」
「なに?ここの支払い気にしてんならアタシに任せなさい」
それお前の金じゃないよな。マクシミアが立て替えてんだろ?
「いや~、聞けばこの街には迷宮なるものが存在するらしいじゃないですか。
しかも、成果次第では褒賞も出るとか」
「なに、迷宮?魔物出んの?お宝あんの?」
迷宮という単語に目を輝かせながらエルフの女が食いついた。
「この街は地下に広がる迷宮を攻略するために作られた拠点からな」
「なにそれ、楽しそう。魔物とか竜とか出んの?」
「迷宮探索で今後の路銀を稼げないですかね~」
「それはマクシミアに訊いてくれ。迷宮攻略はギルド冒険者の仕事だからな。仕事を請けないと迷宮に入る許可が出ない」
「え~、こっそり入れないの?」
「入り口がひとつしかないからな。しかも、厳重だしギルドとは別の勢力の管轄だ」
「ふ~ん、ナナシ。アタシ達が探索できるかあとで交渉してきて」
「わかりました。断られても大丈夫ですよね?」
「大丈夫よ。人と接するなんてこっちじゃ初めてだし、なるべく穏便にしておくわ。鬼族の連中のときのことは反省してるって」
「ならいいんですけど」
気になる単語が出てきた。オーガ。
鬼と呼ばれる種族で額に角が生えてるらしい。
俺もあちこち行ったりしているが、オーガと出会ったことはない。
「お前ら鬼族ってあったことあんの?」
「我々も旅長いですからね。ここに来る前は西の狼牙族のお世話になってたんですよ」
西は南北に延々と続く断層地帯で切り立った絶壁となっている。
高さが数百メートルあるといわれていて更に手前にはゴーレムの徘徊する帰らずの森となっている。
「お前ら、あの崖を越えてきたのか・・・」
この二人、異様に強いとは思っていたが、帰らず森を抜けられる実力を持っているらしい。
それが戦闘に関するのか別の分野なのかはまだわからないが。
「そうよ、獣耳の連中がいっぱいだったからね。ここに来るまでは、人なんていると思わなかったわ」
「ですね。こちらは禁域と言われてましたからね」
ん、禁域?このルブラスカは、人にとって禁域とされていた場所だが、亜人にとっても同じだったのだろうか?
「それでさ、迷宮って何があんの?こういうの定番だと最後の部屋の前に守護者がいて、とんでもない秘宝を守ってんでしょ?」
定番てなんだそりゃ?
確かに叡智の秘宝というとてつもない代物らしいから守護者とかいるかもしれないが、俺自身としてはありがたくない話だ。
俺は戦闘能力が低いのだから、なるべく戦うことを避けたい。
「国の煽りが正しけりゃ、叡智の秘宝って話だ」
「叡智の秘宝ですか・・・」
「叡智ね~。ナナシどう思う?」
エルフの女がナナシに話を振る。
ナナシは少し考えてから答えた。
「叡智っていうのは、言うなれば現代において理解の及ばない知識ってことですね。生き物の最終的な終着点は富、権力、栄誉。そしてそれらを延々と享受するための不老不死ってのが定説ですね。それらを実現するための知識ってことじゃないですか?」
このオークの知識はどこで身につけたものなのだろうか?
オークでは理解できないと思われていたことをスラスラと述べてゆく。
「でもさ~その迷宮、古代遺跡ってことはその文明って滅んでんでしょ?秘宝とやらがそんなものとは思えないだけど?」
「メイムさん。終着点がそれらっていうだけで、秘宝自体がそれらに至るための途中の知識であっても問題ないのですよ」
「ああ~、重要なのは今の人の知識では想像できない何かであるってことね」
「そうです。文明が現代より高度であれば、叡智と言われてもおかしくないですね」
「なら、アタシら叡智じゃん」
「それとは異なる叡智かもしれませんよ」
うん。最後の方はなにをいっているのかわからなかった。
自分らが叡智であるとか言っていたが何か根拠があるのだろうか?
「でさ。アンタさっきのアタシの質問に答えてないんですけど?」
「なんか言ってたか?」
何か言ってたか?いろいろ驚くことあって覚えてないんだが。
「アンタが話しの途中で質問するから話がそれたんでしょ?迷宮。魔物、モンスターいるの?」
その話か。俺からすれば、迷宮=魔物だらけって認識なんだが違うのだろうか?
「ああ、うじゃうじゃといるな。一般的にゴブリン、デーモン、ハウンドドック、マンイーターに蛙や蜘蛛とかだな」
1層から2層ぐらいに遭遇するものを適当に答えた。
「もっと強いのもいるのよね?」
「たぶんな」
エルフの女はそれを聞いてグッと両の拳を握り締めた。
喜んでいるのだろうか?
「あの、同志。スライムっていたりします?」
ナナシが興奮気味に尋ねてきた。
鼻息が荒く目を輝かせている。
初めて聞くが何か特別な魔物なのだろうか?
「スライムってどんなやつだ?」
「液体状の生き物で、アメーバーみたいなやつです」
だから、アメーバーってなんだ?
「液体状の生き物ってんならゲルってのがいたな」
「それですね。間違いありません」
ナナシが真面目な顔をして手を差し出してきた。
握手。でいいのか?
握り返してやる。すると、強い力で握り返された。痛ー、加減しろ!
「メイムさん。私も迷宮に潜れるように頑張りますよ!!」
いえーいとハイタッチを交わす異人二人。
なにか喜ばしいことがあったらしい。
「ちょっと詳しいこと聞かせなさいよ」
乗り気になったエルフの女に圧され、その後、迷宮内について詳しい話をした。
戦闘以外のいろいろな情報と引き換えに金とルラの服の調達を約束した。
なんでも、俺が着ている服とルラの服はナナシが作ったらしい。
趣味で服飾をやっているとか。
俺が意識のないうちにルラの服を作ったのならば恐るべき短時間での作業だ・・・。
話によるとメイムの服装もナナシの手作りらしい。
メイムってのはエルフの女の名前な。
『お前の名前わからんねー』って言ったら殴られた。
短気すぎんだろ、あの女。自己紹介されてないのにわかるわけないだろ。
まぁ、ナナシが呼んでたんで知ってたといえば知っていたんだが。
ルラは静かにしているとおもってたら飯食いながら寝てやがった。
まあ、昨日からいろいろあったから疲れてたんだろうな。
俺も疲れたし、帰るとするか。




