なにしに?
目の前でエルフの女とナナシが片っ端から運ばれてきた料理を平らげてゆく。
負けじと食べていたが、少し冷静になってみれば張り合う理由などないことに気づき、自分のペースで食べることにした。
ホントに今回の飯の支払いが自分でなくて良かったとおもう。
目の前の二人は二本の棒切れを器用に扱い食べ物を口に運んでゆく。
この棒切れは箸とか言うらしい。
それにしても、オークの方がエルフの女より行儀が良いのはなんだろうな・・・。
ときどきエルフの女は手掴みで頬張るのだが、オークの方はずっと箸を使っている。
ルラも最初はそれを真似ていたのだが、途中で疲れたのか、棒を突き刺し料理をほうばっている。
積みあがっていく皿。
いつもなら賑わっているこの酒場も異種族の二人を警戒してかここにはいない。
にもかかわらず、ウエイターと厨房はいつもの夕刻より忙しげである。
ルラなんだが、結構食っている気がするな・・・。
食事をしているの見るのは初めてだが、少なくとも俺の3倍は食べている。
食べすぎだろ・・・。
いつもがこの食事量でないことを祈りたいものだ。
「で、お前らはいったい何しに来たんだ?」
それなりに腹も満たされたし、話をきりだす。
「我々はですね。ここかの地に空から落ちる光を見ましてね。
それを調べに着たんですよ」
あぁ、この二人が来たのはルラの放った魔法が原因だったようだ。
そうだよな、夜中の空を青く染める光の柱が出現したのだ。
気にならないはずがない。
「ここらに落ちたはずなんですが何かご存知でしょうか?」
ナナシの問いになんと答えるべきか・・・。
「あれは、魔法だな。昨日の夜に街で一騒動あって、それを鎮圧するために使ったアホがいる」
「アホって・・・。あれだけの強大な現象なんですから、さぞ高名な方なんでしょう?」
高名ね~。一応アレを使ったことになっているトリアス・トリスタン・トリニティだが有名ではあるが、敬われてはいないし、高い評価を受けてるわけでもない。
寧ろ奇行の多い変人としてギルドでは有名だ。
本当の術者はルラであるが、これは黙っていたほうがいいだろう。
喜べ、トリアス・トリスタン・トリニティ。ん、名前面倒だな。トリトリでいいや。
ルラ身代わりになってくれる代わりに活躍を盛ってやろう。
「ここのギルドでは奇行の多い変人で有名だな。
問題行動だらけのロクデナシだが、魔法使いで単独で迷宮攻略に挑む強者だ」
トリトリが単独で迷宮に挑むのは奇行が過ぎて周りからハブられてるのが原因だ。
狭い迷宮内で後先考えずに範囲魔法をぶちかますのだから当たり前だ。
奴の二つ名には『仲間殺し』がある。
敵よりも味方を討つ数の方は方が多いと聞く。
「一度、お会いしてみたいものですね」
ナナシは感心しているようだが、アイツに褒めるべきところはない。
「今回に関しては、竜の魔法を再現したってことで王都に召還されたらしい。
今日の昼には騎士団に連れられて王都に向かったとさ」
話によると強制連行だったらしいが黙っておく。
簀巻きにされて猿轡を噛まされて運ばれていったとのこと。
まぁ、竜の魔法の体現者だ。バレなければ死ぬことはないだろう。バレなければな!
「もうこの街には居られないのですね、残念です。
で竜の魔法というというのは?」
「10年前までこの地にルブラスカって竜が居たんだがそいつが同じ魔法を使ったんだよ」
「わしじゃー!!」
話題に上ったルブラスカという単語にルラが、誇らしげに踏ん反り返っている。
「そうだな~、ルトリラ~。ルブラスカ好きだもんな。好きなもん追加していいからな~」
「うむ!」
否定して反論されても面倒だ。
どうせ、マクシミアの財布。好きに食わせて黙らせておくことにする。ナナシも幼女の戯言だとおもって気にはしないだろう。
「過去形・・・。ということは、その竜はどうなったんですか?」
「ああ、討たれたよ。ここは古代遺跡でな、それを守護していたのがその竜なんだ」
聖騎士ラーライルの活躍によりルブラスカは討たれた。
詩人により伝えられるラーライル伝承ではルブラスカと激戦を繰り広げた末、相討ち。
ラーライルは行方不明。首の無い竜ルブラスカの死骸が残っていたらしい。
竜の死骸は魔術の貴重な素材として王都に保管されているとのこと。
「どういった魔法なんですかね?光の柱が立つのは見ましたが・・・」
「竜ルブラスカが使ったのは殲滅陣って言われてるな。
光の柱に触れた軍隊がみな消滅したらしい」
「で、今回は?」
「同じだ。対象は1体で範囲は極小だったがな。光に飲まれて消えた」
模造人形の使っていた盾や斧は残っているが直接光に飲まれた本体は残っていない。
「ニ・・・ラム?
光魔法・・・?
イメージさえできれば可能なのでしょうかね・・・」
顎に手を当て考えるナナシ。物思いに耽るオークの図。
おかしい。俺の知ってるオークと違う。
オークというのはもっと本能に忠実で欲に塗れ下卑た種族のはずである。
目の前にいる知性に溢れたオークはいったい何なのだろうか?
気になっていたことを尋ねてみる事にした。
「もしかして、お前魔法使えるのか?」
「おや、同志。言ってませんでしたっけ?私これでも魔術師のつもりなんですよ
先ほども使っていたんですが見てませんでした?」
衝撃的である。オークが魔術師・・・。
魔法使いとは職業は別だがかなりの知識と術適性が必要とされる。
自分ですらまともに使えないというのにオークが使っているのだから驚きだ。
術なんていつ使っていただろうか?覚えが無いぞ。
「ナナシ、汚れたからこれ」
エルフの女がナナシの前に手を翳す。
タレや油に塗れ汚れた手袋だ。こいつはなんで手袋を外さないんだ?
ナナシは、エルフの女の手の上に自分の手を重ねるとなにやら呟いた。
すると、汚れていた手袋があっという間に綺麗になっていた。
「今のは?」
「浄化魔術の一種ですね。殺菌性もあって旅では覚えとくと重宝しますね」
浄化魔術なんて初めて効くんだが?
『殺菌』ってなんだ?
「汚れが落ちて便利なのはわかる。だが、なんであいつは手袋を外さないんだ?」
「メイムさんはとある理由で手袋が外せないんですよ」
「とある理由とは?」
「それはお教えできませんね。あえて言うなら呪いですかね」
「さっきも似たようなことを聞いた気がするんだが。
なんなの?そこのエルフ呪われ過ぎじゃね?」
目の前のエルフを指差しながら言う。
エルフの女とルラは仲良くパンケーキを食べている模様。
・・・こいつら食い過ぎだよな?
「そうですね。ですが呪われているというなら私もですね」
突然のカミングアウト。
「お前の呪いってのは?」
「頭が良くなる呪いです」
「・・・」
「同志、黙らないで下さいよ。せっかく言ったのに恥ずかしくなるじゃないですか」
いや、ネタで振ったのかもしれないけどさ、こちらとしては妙に納得できたものだから仕方ないだろ。
「術が使えるのはわかったんだが、そんなんだったらあいつ自分で使えばいんじゃね?エルフだろ?
「メイムさんは術が使えないんですよ」
あー、読めた。これもあれだろ?
呪われてるから。
「下手なんです」
おい、予想外だよ。呪いじゃないのかよ。
「下手なの?だってエルフだろ?」
エルフっていうのは噂では術と弓の扱いに優れた種族だと聞く。
「同志、その考え方はいけませんね。
人には得手不得手というものがあるでしょ?
貴方が得意なことが人すべてが得意というわけではないでしょう
それと同じで才能が無いものには才能がないのですよ」
力強く力説してくれてますけど、エルフの女を貶してるよな?いいのか?
まぁ、言いたいことはわかる。
自分は足の速さと持久力に自信があるが、人族において全てではない。
むしろ、人の方が同じ種族であるのに個性にバラつきが多いものだ。
「剣の方が得意だったてことだな」
エルフの女との戦いを思い出す。
大剣を使ったエルフの女は強かった。
思い返してみれば、術に才能がない分、剣の努力をしたのだろう。
あの素晴らしき太刀筋・・・・・・でもなかったな・・・。
ぶっちゃけ力任せに振り回しているようにしか見えなかった。
身の丈を超える大剣を扱う筋力がエルフの女の才能なのだろうと結論付ける。
にしても、そこまで筋力があるようには見えない。
明らかに見た目と力が伴っていないとおもう。
いったいどういうことだろうか?
「いや、剣は得意そうに見えなかったな・・・。強かったが・・・」
「彼女の大剣は我流ですね。独自の技術で磨いているので侮ってかかると死にますよ」
それは既に体験している。侮ったつもりはないのだが。
エルフの女は、他の者には無い独自の何かを有しているようだ。
「なに見つめてんの、変態」
エルフの女が俺の視線を感じたのか食べる手を止めて訊ねてきてた。
「いや、貧相な身体だと思って」
「また、殺してやろうかしら?」
怒らせてしまったようだ。
別に怒らせるつもりも無かったがつい挑発をてしまった。
この女には先刻の礼もあるし、今はこちらが立場が上。
この街にいるつもりなら簡単に盛んない行動は起こさないだろう。
と思っていたのは間違いだった。
テーブルに身を乗り出しこちらの胸倉を掴もうとする。
エルフの女の手は届いていないのに自分の胸元に得体の知れない質量を感じる。
これが先の戦いで不覚をとった何か。
ゾワリと背筋が冷える。
それを止めたのはナナシだった。
「メイムさん、ここで問題起こすと観光できなくなりますから止めてください
あと、テーブル壊れますよ」
ナナシは、エルフの女の得体の知れない何かを気にすること無くその手をとり諭す。
「アタシそんなに重くないし。
ふん、いいわ、よくよく考えたらコイツ、ガキだもんね。
アタシの方がお姉さんなんだから許してあげるわ」
エルフの女は後先考えないタイプだと認識しておく。
迂闊に挑発すると周り関係なく被害が出る可能性がある。
見た目も自分より幼く見えるが、中身も下らしい。
自分の方が大人なんだから、もう少し寛大に接してやるべきだな。
「で、お前ら竜の魔法を知ってどうするんだ?」
率直に尋ねてみた。
「「別に」」
それが何って顔で返された。
え、お前ら、それ調べに来たんだろ?




