先入観
カタカタと食器が音を立てながら注文したものがテーブルの上に並べられていく。
「「「おおーっ!!」」」
運ばれてきた料理を見て3人が歓声を上げる。
ハイドラットにとっては見慣れた料理ばかりであるがどうやら目の前の連中にとっては違うらしい。
「おぬし、旨そうな匂いがするの!これは食べてもいいのか!?」
服の裾を引きながらルラが目を輝かせながら見上げてくる。
おい、口元から涎が垂れてんぞ。
そういえばコイツと出会ってからまともな食事をしていないことに気がついた。
「おおう、食ってもいいぞ」
許可を出すとルラは隣の椅子によじ登りテーブルの上のモノを口に掻っ込み始めた。
もちろん素手で。
これはあれか?自分がテーブルマナーとは言わないもののカトラリーの使い方ぐらい教えるべきなのか?
俺は面倒なことになりそうだと左手の親指に頬を乗せ額を指で押さえる。
「旨いぞ、お主、これはなんと言うんじゃ」
テーブルに身を乗り上げながら料理を手にルラが尋ねてくる。
「それはな、ポテトってやつだな。」
一緒に盛ってあった鶏肉を食べながら答える。
ポテトは芋を切って揚げただけの食い物だが、ここの酒場に出てくるポテトは他で出されるポテトとは一味違う。
なんでも、魔法によって凍らせるという一工程を挟む事によってホクホク感が増すのだとか。
ここでしか味わえないため、人気メニューでもある。
「ねぇ、塩とかないの?」
エルフの女が当然のように聞いてきた。
「お前、塩は高級品だろうが。こんな酒場にそんなものがあるわけねーだろ」
「あ~、そうなんだ」
塩は高級品で一掴みで金1枚と言われるくらいの食材だ。
海とやらがある東の方ではそこまででないらしいが、ここは王国の西。
内陸であり海からは遠く離れている。
塩なんてものは滅多てにはいらない。
「ナナシ、何か使えそうなもんあったけ?」
「手持ちの荷物は置いてきましたからね」
「そっか、残念」
「お姉さん、すいません同じものを追加で。」
オークは飲んできたグラスを空けると追加注文を始めた。
あたりまえのように注文しているが店員がオークに声をかけられ動揺してる。
店員の反応は当然だろう。
酒飲んで暴れださないよな?
心配に思ったが、この二人がここにいるのはギルド責任者のマクシミアが容認しているからだ。
でなければ、オークなんて即討伐対象になっている。
問題が発生したらマクシミアに責任を取ってもらうとしよう。責任者はそのためにいるのだから。
俺は、一人納得し料理へ横のサラダに手を伸ばす。
食べれるものは食っておく。
なんでも今日の支払いはマクシミア持ちらしい。
自分の金を使わないのだから遠慮する必要なんてない。
この酒場のメニューで、普段は頼まないような料理を注文している。
しばらくすると串焼きの乗った皿が運ばれてきた。
このあたりでは珍しいベニオオトカゲの肉を使っている。
数に限定があり、値段も高いので自分では滅多に注文のすることのない代物だ。
置かれた串焼きをに狙いを定めて皿ごと引き寄せようとしたが動かない。
皿の反対側をみるとそちらからも掴む手があった。
「アタシが先に取ってんだから手離しなさいよ」
エルフの女が反対側を掴んでいた。
「おいおい、こういうときは取り分けますねとか言ってやってくれるもんじゃないのか?」
「何言ってんの。食事ってのは戦場よ。目を離した先から無くなっていくの。
失った物は二度と食べることができないと覚悟して臨むべきよ。
譲るなんて選択はないわ」
言いたい事はわかるが納得はいかない。
彼女の反対の手には別の料理が握られている。
「お前はそっちのを片付けてからにしろよ、また頼めばいいだろ」
「こふぇで、いいふぁひは?」
エルフの女は片手に持っていた料理を頬張りながら答える。
ちょっと、エルフってもっと品の良い種族じゃないんですかね?
タレが手袋に付着しているが気にしている様子が無い。
「おまえ、飯食うときぐらい手袋は外せよな」
「ほへひはひふーがあふふぉ」
うん、何を言っているかわからない。
しかし、今日一日で自分のエルフという種族に対するイメージが変わりそうだ。
もっと知的な種族だと思っていたのだが…。
ハイドラットは現実を直視するのが辛くなったので目の前のエルフ目を逸らした。
「もらった!」
声と同時に引いていた皿の抵抗がなくなる。
どうやら、皿を引くのを辞め、上のモノを攫っていったようだ…。
奪った串焼きにかぶりついて満足そうなエルフの女。
ホントにいろんな物をぶち壊してくれるな…。
そういえば、オークが何をしているかと横を見ると
「こぉかの?」
「そうですよ~。ファークで押さえてナイフを前後に…」
オークのナナシはフォークとナイフの使い方をルラに教えているところだった。
マジかよ…。
オークに対する先入観も変わりそうな光景だった。




