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幻想世界レスエンティア  作者: 三之月卯兎
二章
32/62

かかって来い

「メイムさん、これ以上争うことに意味はありませんよ」


エルフの少女メイムのオークが諭すように言う。

そもそもだ、ハイドラットとしては彼女が自分に対してここまで激昂している理由がわからない。

ここまで引き摺られてきたときも、そこまでの敵意は感じなかった。

それが膨れあったのはルラの経緯を話している時だったか?


「ナナシ、アンタはどっちの味方なの?」

「メイムさんですよ」


即答。

エルフの少女を止めるという約束が果たされるか実に不安である。

やはりオークは信じるに値しないかもしれない…。

早めに立ち位置をいれかえてこの場からずらかるべきだ。


「私は、如何なる時も貴方の味方ですよ、当たり前じゃないですか。

ただ、ここで同志に恩を売っておくのは今後にプラスだと判断したんですよ」


内心が出てるぞ、おい。

普通、隠しておくべきものが暴露されているの彼がオークだからだろうか?


「アタシは、そこの変態を消すことが今後のプラスになるとおもうんだけど」


俺がいったい何をしたというのだろうか?

確かに、人には言えないようなことは山程しているはが初対面の相手にここまで言われるような覚えはない。

ハイドラットは少女の態度にいらつきつつもオークの挙動に警戒する。

だが、オークはエルフの少女の方を見つめながら首を傾げている。


「メイムさん、やけに大げさですが、もしかして引っ張られてません?」


オークががわけのわからないことを言った。


「え?」


少女は何を言っているのかわからないという顔でオークを見つめ返す。

脈絡がなく、意図していることが不明である。

だが、


「あ~…、もしかしたらそうかも…」


エルフの少女は、オークの指摘にそう答えた。


「なんかね、袋開けてあの子を見たときかな、グイっときたのよね。

たぶん、首輪のせいね」

「これまた久しぶりですね、それで抑えられそうなんですか?」

「そいつ、ボコれば落ち着くかも」


こちらを見ながらエルフの少女が微笑む。

ニコニコとした表情とは裏腹にその笑顔に暖かさは感じない。

ハイドラットにかかるプレッシャーが増す。


「同志よ、聞いて通りです。

残念ながら、アナタが散ることになりました」


本当に残念そうな声でオークが言う。


「お前さ、『任せてください』ってアレは、なんだったの?」

「同志とメイムさんを天秤にかけた結果です。

同志というだけでは、私の天秤はアナタに傾かなかった。そういうことです」


そうオークは力強く語った。

残念ながら、本当に世の中は理不尽なことが多い。

ハイドラットは、幼女に首輪をして裸にひん剥いて放置するのが趣味のような扱いをされているが、全て偶然が重なった結果だ。

むしろ、そういう状況にならないよう回避すべく動いたはずであった。

どこで間違えたのか?そもそも、同志とはなんだ?

なんにせよエルフの相手をしなくてはならないらしい。


(アホか…)


何を好んで勝負を受けるというのか?

先の一合で力量の差が明らかで、やる前から結果のわかりきっている勝負などするはずがない。

しかも、このエルフには、状態異常を引き起こす術か何かを纏っている。

それがなんだかもわからないというのに戦うはずがない。


ハイドラットは、オークの向こうにいるレイナを見やる。

袋詰めのルラを抱えたまま静かにこちらを見ている。

彼女とは付き合いが長いわけではないが、この街においてハイドラットという人物が如何なる人物であるかは熟知しているはずである。

目線とわずかな首の振りで合図を送る。

ハイドラットの意図を察したのかレイナが頷いた。

よし、あとは自分が逃げるだけ。


「わかった、戦ってやるよ!お望みの通りにな!!」

「ずいぶん、強気なのね?」

「あぁ~、お前らが人の話を聞かないかねぇのがわかったからな!!

話で駄目ならやることはひとつだ。

後悔すんなよ、これからは何でもありだ!!」

「わかったわ」


ハイドラットは、背中のナイフを引き抜き威勢良く啖呵を切る。

いつもなら懐にある爆煙弾も今日は家で留守番だ。

これからは、常に持ち歩くようにしようと心に決める。


「落ち着いて話をしようと言っていた人物とは思えませんね」

「誰のせいだと思ってやがる」


言葉の主を睨み付ける。

なんだかんだ話がややこしくなったのは、このオークのせいであるのは間違いない。

人語を介してもオークはオークなのだろうか?


「剣、抜いてやれよ」

「いいんですか?死にますよ?」


ゆっくりと確認するようにオークが言う。


「俺にハンデなんていらねーよ、とっととかかって来いってんだ」


ハイドラットは、オークに剣を引き抜くように促した。

オークは石畳に刺さっている剣のところへ向かって歩き出す。

これで、ルラを連れ出す邪魔をしていた者が居なくなった。

あとは、ヤツがあの大剣を引き抜こうとしたときが勝負だ。

戦う素振りを見せていたヤツがこの観衆の中で逃げ出すとはヤツらも思うまい。

そのとき


「おぬし」


ルラの声がした。

ハイドラットはそちらを向いた。


「来ておるぞ」

「え?」


刹那、何かに頭に掴まれかとおもうと逆らうこともできないまま地面が迫る。

そのまま、ハイドラットの世界は暗転した。


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