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幻想世界レスエンティア  作者: 三之月卯兎
二章
31/62

違和感

少女は大剣を構えたまま突撃してくる。

大剣は、少女の後ろにいるオークの身長と同じくらいの長さがあり、相当の重量があるはずなのだが、彼女の動きはそれを感じさせない。

ハイドラットは、変態扱いされた末に、私刑を受けることになったわけだが、当人からすれば冗談ではない。


(誤解を解くにしても一部は事実だしな。めんどくせぇ・・・)


相手が逆上している以上、弁解しても意味はないだろう。

言葉など力の前に捻じ伏せられる。

どちらが正しいではない、強い者が正しい。

ならば、自分はどうするべきか・・・。


少女の躊躇いのない突きがハイドラットの顔面を目掛けて繰り出される。

人の顔のド真ん中を狙うに迷いがないのは恐れ入った。

完全に殺しに来ている。

初手をギリギリで躱した。

エルフの少女は、俺が避けられないと思っていたのか驚いた顔をしている。

だがそれも一瞬のこと、すぐさまに大剣を引き戻す。

その瞬間、奇妙な感覚がハイドラットを襲う。

路地裏で感じたアレだ。

平衡感覚がぐにゃりと曲がる。

そこにエルフの少女が今度は喉元目掛けて突きを繰り出した。


(マズい!!)


顔と違い喉元を狙っている分、剣線が低いため限界まで上体を反らしても避けきれない。

そう判断すると、ハイドラット仰け反りながら立っていることをを放棄した。

大剣が唸りをあげて、ハイドラットの胸から顎先の上ギリギリを滑ってゆく。

冷や汗が沸く。

躱すのに精一杯で体勢を崩してしまったがそれは相手も同じこと。

相当な重量がある剣を初撃より深く打ち込んできた。

それに慣性が加われば、切り返すのは難しいはずである。

その隙に逃げれば・・・。

そう思案していたところに、また先程の奇妙な感覚がハイドラットを襲う。

先程受けて歪んだ身体の感覚が更に大きくなり、眩暈がする。


「アンタ、それでかわしたつもりじゃないないわよね?」


倒れる自身の足先に見えるエルフの少女は蔑んだ目でハイドラットにそう言った。


(この状況から即座の追撃?

ありえない、不可能なはずだ)


ハイドラットの予測では、大剣の重量に引っ張られてエルフの少女はバランズを崩すはずだった。

しかし、頭の上にある大剣は既にピタリと静止していた。


(ヤバイ!!)


大剣に力が篭もる。

とてつもない重量が、完全な殺意をもってハイドラットを襲う。

眩暈に耐えながら咄嗟に身を捻り、ハイドラットは、その剣線から逃れようとする。



ズドーーーーーン!!



衝撃に次ぐ衝撃。

大剣に粉砕された破片がハイドラットを叩く。

横に転がりながら、立ちあがりエルフの少女に対峙する。

見れば石畳を割り大剣の剣身が半分ほど地面にめり込んでいた。。

身を捻り始めるのが少しでも遅ければ自身がどうなっていたかを考えると背筋が冷える。

この少女はどれほどの筋力があるというのか?


「ちょこまかと。男なら潔く死になさい」


ハイドラットを指差しながら、少女が言う。


「なぁ、話しを聞けよ。いろいろ誤解があるみたいだからさ。

落ち着いて話をしようぜ」


ハイドラットは両手を掲げながら、少女に話しかける。

武器は持たない。

まともにやり合えば勝ち目がないだろうし、大剣と打ち合えば、自身のナイフがどうなるかは容易に想像できる。

迷宮攻略に使うため、刃こぼれしにくいそこそこの上物を使っているのだ。

値段だってそれなりにする。

手放しても、迷宮では回収できるかもしれないが、ここは街中の人だかりの中だ。

周りの連中に拾われたら戻ってこないだろうし、見つかっても店先に並べられていることであろう代物だ。

ここで手放すつもりはない。

それに先程のやり取りで立ち位置が入れ替り、ハイドラットは、少女とオークに挟まれてしまっている。

また、身体の感覚はだいぶ戻ったものの、まだ軽い眩暈が残っている。

例えるなら、安酒で悪酔いしたような感じだ。

この状態で闘うのは得策ではない。

戦闘の意思が無いことをアピールしながら、回復するまで引き延ばす腹積もりだ。

なぜこのような状態になったか理由はわからないが、原因には心当たりがある。

この広場に引きずり出される前の裏路地でもこの少女が現れる前に同じような状態に陥った。

そのとき、このエルフの少女は大剣を所持してはいなかった。

つまり、この眩暈は彼女に起因していることは間違いないだろう。

とてつもない腕力に加えて、状態異常を誘発する術か何かを帯びているというのは厄介だ。


「誤解があったかしら?」


エルフの少女は地面にめり込んだ大剣を軽々と引き抜きハイドラットに相対する。

とおもわれたが、大剣は動かなかった。

少女は、大剣を何度か引き抜こうと試みた後、諦めたのかハイドラットの後ろにいるオークに声をかけた。


「ナナシ、剣が嵌っちゃったみたい。抜いて」

「はあっ?」


少女のおかしな言動にハイドラットは思わず声が上げてしまった。

あれだけの大剣を軽々と振り回しておきながら、抜けないとはどういうことだろうか?

少女の謎の言動に困惑しながらも、オークが動くことに警戒する。

だが、


「メイムさん、折角一段落が着いたのですから話を聞いてあげてはどうですか?」


意外な申し出がオークからされた。


「ナナシ、何言ってんの?こういうクズは、消さないと駄目よ」

「でも、武器がないですよね?」

「だから、アンタがこれを抜けばいいじゃない」

「構いませんが、そしたらこの人、私の後ろの子を攫って逃げますよ」


読まれていた。

オークがルラから離れるは、ハイドラットにとって願ってもないことだった。

ルラさえ回収できれば、これ以上この場に用はないのだ。

即座に逃走するつもりだった。


「それだったら、アンタがその子を連れてここに着なさい」


願ってもないことは、やはり都合良くいかないものである。

即座に打破されてしまった。

しかし、


「それだと、我々が悪党になってしまいますよ。

折角、人の街に着たのにお尋ね者になるつもりですか?」

「ぐぬぬ・・・」


いや、魔物(オーク)という時点で既に問題なんですが・・・。

でも、このオーク見た目とは、裏腹に常識があるようだ。

オークの概念をぶち壊しそうなくらいの理性を見せている。

オークに諭されるエルフって何だろうな・・・?


「じゃあ、殴る」

「駄目ですよ。貴方は、武器がないと周りの人まで巻き込んでしまうんですから」

「ムキーーーーーッ」


なにやら言い負かされて地団太を踏むメイム。

その様子は最早、我が儘な少女がするそれだ。

殴るにあたって周りを巻き込むとはどういうことであろうか?

力が強すぎて吹き飛ばしすぎるということだろうか?

その場合、自分は原型を留めていなそうなので勘弁してもらいたいものだ。

それと気になっていることがある。


「なぁ、おまえって俺の公開処刑に賛成してなかったっけ?」

「何を言っているんですか?

私は、貴方の名誉が地に落ちたことに自業自得と言っただけですよ。

守るべき名誉も地に落ちた今、これ以上争う理由はないでしょう。

寧ろ、性癖については同志ですね」


なにかおかしな言動があったような気がするがここは流しておく。


「メイムさんは、気が立つと猪突猛進ですからね。

一段落が着くまでは、大変なんですよ」


目を閉じ深い溜息をつくオーク。

その姿は一度や二度では纏うことはできないあろう哀愁を漂わせている。


「そうか、大変なんだな…」


見た目がオークなので警戒してしまうが、どうやらこのオーク本当に闘う気が無いようである。

思い返してみれば、最初から『争う気がない』と言っていたような気がする。

ハイドラットが着たときには既に数人倒されていたので通常の豚頭(オーク)と大差ないと思っていたが、本当に正当防衛の結果だったのかもしれない。


(種族的印象って大事だな…)


ハイドラットは、得心がいったようにうんうんと頷く。

謎のエルフとオークに挟まれ事態が悪化したかのように思えたが、どうやらそうではないらしい。

オークには争う気がない。

これは、本人に確認したばかりだ。

オークという点で信じるに信じられるものではないが、ここは信じることにする。

エルフ一人で厄介なのだ、敵対する相手をわざわざ増やす必要はない。

それにこのオークは、エルフの仲間だ。

味方につければ自身は闘わなくて済むという打算もある。


「俺もお前らと争うつもりはない。

寧ろ、ルラを助けてくれたみたいだな。礼を言う」

「私も外見がこれですからね。

大事にはしたくなかったんですが…、スミマセン」


謝られてしまった。

まさか、オークとこのようなやり取りをする日が来るとは思わなかった。

そして、互いの目的は一致した。


「俺たちは同志だ。

あのエルフを止めてくれ」

「!! 任せてください、同志よ!!」


何故か、オークが眼を輝かせながら力強く答えた。

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