奪取
ハイドラットは気配を消しながら、人だかりの中を移動する。
目指しているのは人だかりの中心にいるオークの背後だ。
レイナに囮を頼んで後ろから強襲、ということはしない。
あのオークに通じるかは分からないし、失敗したときのリスクが大きい。
現にレイナに囮を頼んだのは彼女が『女』だからだ。
オークとしては知能が変に高いようだが、彼女を贄とすることで本性も知れよう。
オークは性欲旺盛な獣だ。
ヤツが性欲に負けてレイナを襲いにかかり、その間にルラを安全に回収するというのがハイドラットの狙いだ。
もし、彼女に危機が迫ったとしても、周りにこれだけの冒険者がいるのだ。
レイナが見捨られて公開陵辱に発展することようなことはない。
そう踏んでいた。
しかし、ハイドラットの予想は裏切られた。
レイナを前にオークは迫るどころか、興奮する様子もなかった。
人選を間違えたのだろうか?
レイナは、一般でいうところの美人であり、胸だって大きいほうである。
それを前に用意したというのに反応がないのはどういうことか?
さらに、オークは、戦闘の意思はないと言い始めた。
仕方ないのでハイドラットは、広場に残されている屋台や積荷などに隠れて近づいてゆく。
衆人は、レイナとオークの成り行きを見守っている。
持ち前の気配遮断の技能をフルに発揮しているでハイドラットに気づく者はいない。
もう少しまでの距離に詰め寄ったところで途中で拾った小さな小石をルラに投げ当てる。
一つ目があたり怪訝そうにしているところにもう一投。
投げてすぐにハイドラットは人差し指を口の前に立てる。
ルラがこちらに気がついた。
視線が合う。
こちらの合図の意味を察してくれたようだ。
(理解しなかったらどうしようと思ったが…)
突然、ドンっと音がしたかとおもうと続いてもの凄い音がした。
オークが大剣を捨てたのだ。
そして、レイナの方に2、3歩進みでた。
武器から距離を置くことで戦わないことをアピールするためだろう。
ルラの位置がオーク横からと後ろへと変わる。
チャンスだ。
喋っているオークに注目が集まっているところを逃さず、ハイドラットは一気に近づくとルラを担いで、その場を離脱する。
路地裏を目指し、そのまま一番区に向かう。
ルラを肩に担ぎながら走るハイドラットの姿は傍から見れば人攫いのそれである。
「おぬし、探しておったぞ」
「それはこっちの台詞だ。書置きしてあっただろ。なんでこんなとこにいるんだ?」
「書置き?」
「部屋の扉に紙貼ってあっただろ、『部屋からで出んな』って」
「おお、あれは文字じゃったのか!」
「おまえ、まさか…」
「うむ、読めんかったのじゃ!!」
この幼女、幼い見た目ながらに年寄りのような口調で、いろいろと知識があるのでてっきり読めるものだと思っていた。
まさか読めないとは…。
ルラが起きる前に行動してしまったことが悔やまれる。
まず最初に、この幼女が何を知っていって、何を知らないのかを把握するべきだった。
過ぎてしまったことは仕方ない。
やらなければいけないことをがわかったとプラスに考える。
裏路地に入ったところで突然、体が軽くなったとおもったら急に重くなる。
そんな感覚が何度か繰り返され、ハイドラットは眩暈を覚えた。
気分が悪くなり、片膝ついて休む。
「ぬぅぅ…」
どうやら、ハイドラットだけではないようだ。
ルラも気分を悪くしたのか唸っている
そこに、一人の少女が現れた。
ここらでは見慣れない服装をしている。
前髪サイドが肩口にかかるくらいのショートカットで首には異様に長いスカーフ。
特徴的なのはその耳だった。
「人の荷物盗んで無事に逃げられると思ったの?」
意味が分からないことを言った。
少女はルラの入った袋をハイドラットから取り上げて担ぐ。
直後、ハイドラットは腹部に強烈な衝撃を受けた。
見れば少女の拳が腹に刺さっている。
うまく呼吸ができない。
「アタシからは、これでチャラ。
あとは、あいつに聞きましょ」
少女はハイドラットを掴むと広場へと歩き出す。
その力はどういったものか、ハイドラットを容易く引き摺ってゆく。
「ナナシ、アンタ油断しすぎ。
盗まれているわよ」
人だかりを割って広場までゆくと少女はオークに声をかけた。
そして、続けて
「それにアンタ、街の外で待ってんじゃなかったの?
自分が入ると騒ぎになるからアタシがこれ買ってくるまで待ってるって言ったじゃん!」
怒った少女は、ハイドラットから手を離し、その手で自分の首に掛かっているスカーフを摘む。
「メイムさん、落ちついて!!
それとその荷物は優しく扱ってください。人が入ってます」
メイムと呼ばれた少女の動きが止まる。
「えっ」という表情でオークの方を見つめる。
袋の口はハイドラットが担いでいたときも、今、メイムが担いでいるときも後方にある。
つまり、メイムは中身を確認していない。
そもそも、中に人が入っているなど想定できるはずがない。
メイムは恐る恐る担いでいた荷袋を降ろすとそこにダウンしかけている幼女の顔を発見する。
「うっわ~~~~~~!!ゴメンね!今、出してあげるから!!」
急いで口紐を解くと袋口を下ろし、即、上げた。
ゆっくりと紐を結び直す。
メイムの肩がワナワナと震えている。
「「「…………」」」
一瞬だけ見えた光景に一同沈黙。
彼女が解放しようとした幼女は全裸であった。
「どういうことか説明しろーーーーーーーーーーーーっ!!!」
メイムの怒声が広場に木霊する。




