関係捏造
ハイドラットの答えにレイナは、「やっぱり」と頷いている。
どうやら彼女の中でハイドラットが逃げ出すことは確定していたようだ。
彼女は、溜息をつきハイドラットから離れると、人だかりの少ない場所から広場に佇むオークの方を見覗く。
その目線はどうやらオークではなくその足元に銀髪の幼女を見ているようだ
最初、街の人間が襲われることを懸念していた店を飛び出していった彼女だ。
捕らわれている幼女の身を案じているのだろう。
馬鹿どもよってお祭り騒ぎに変わってしまったが、ルラが人質であることに変わりはない。
さて、どう知たものか…。
オークとは、戦わない。
戦闘力の差は歴然であり。正面きって戦えばハイドラットの敗北は必然だ。
それでいてルラを回収しなければならない。
自分が出て行けば、ルラを人質として使われるのは考えるまでもない。
捕まえた彼女がこちらの弱みとなると踏んでの指名なのだろう。
自分を指名した理由…。
これについては偶然だろう。
この街であの幼女と自分の繋がりを知っている者は、いないはず。
まして、外部の者であればなおさら。
偶然、幼女を捕まえて、そこからハイドラットの名前が出たに違いない。
オークの目的は、なんだろうか?
人語を操るほどの知恵のあるヤツだ。
目的があるのだろう。
それはなにか?
………
………
………駄目だ。
考えたところで思い浮かばなかった。
そもそも、人語を理解しているからと言って人と同じ考え方をしているのかは、わからない。
相手は、オークなのだ。
論理的に考えているかもわからない。
話し合うという選択肢は放棄。
人質を捕られている以上、リスクが大きい。
となれば、残る選択肢はひとつ。
ルラの救出。
見れば、11人目のハイドラットが勢い良く飛んで行くところだった。
9人目から観察しているが、オークがルラを見るのはハイドラットの真偽を確認するときだけだ。
つまり、一度確認すれば、次のハイドラットが出てくるまではルラを見ることない。
この隙に回収するのが一番であろう。
できることなら、偽ハイドラット達には、長めに注意を引いて貰いたいものだ。
…
………、一つ案が浮かんだ。
問題はあるが、頼めばどうにかなるだろう。
さっそく行動に移す。
「なぁ、頼みがあるんだが」
ハイドラットは、人だかりから未だ様子を伺っているレイナのとこへ行くと声をかけた。
「なに?、まだ居たの。
闘わないって決めたんだからとっとと逃げれば?」
どうやら、ハイドラットの先程の選択にお怒りのようだ。
尤も、彼が女案じているのは人質となっている子供であろう。
好都合である。
「捕まっている幼女を助けたい、協力して欲しい」
「えっ?!」
驚かれてしまった。
それほど意外な事を言った覚えはないんだが…。
「あんたが助けたいって、どういうこと」
彼女がハイドラットをどう見ているか判る返事だ。
「さっきは無理って言ったじゃない。
どうして、気が変わったの?」
「気は変わってないさ。やりあうのが無理だって言っただけだ」
ハイドラットはレイナの眼を真剣に見つめる。
これから言う言葉に真実味を持たせるために。
少し間を置き、あたかも決心したかのように躊躇いがちに言葉を紡ぐ。
「実はな……、捕まっているの……妹、なんだ」
「えっ!!」
レイナは、先程に増して驚いた。
初めて知った事実に衝撃を隠せないようである。
当然だ。
嘘なのだから。
ハイドラットとルラの関係性を正直に教えることはできない。
迷宮で拾ったなどとは、信じないだろうし、信じたところで厄介ごとにしかならない。
レイナは、ダストんところに所属している。
彼女に迂闊に話せばダストンの知ることとなる。
なら、知られても問題のない別の事実を先にでっちあげる。
どう疑われようとルラと迷宮の関係さえ判らなければこちらとしては問題ない。
「全然似てないし、髪の色だって…」
「腹違いの妹なんだ、見捨てるなんてできない。
協力してくれないか?」
ここで詳しく聞かれても、まだ考えていない。
踏み込まれた事を訊かれる前に話を進める。
レイナは、こちらが真剣であり、急いているのを好意的に受け止めてくれたようだ。
妹を助けるために慌てていると。…お人好しめ。
「わかった、協力してあげる。
何をすればいい?」
ハイドラットにルラを助けるための協力者ができた。




