オーク
ハイドラットは、レイナに案内を任せ現地向かう。
前も述べたとおりこの街に子供は少ない、というか、ほぼいない。
理由は、街の成り立ちにいよるものだ。
その結果、根本的に子供への配慮が不足している。
服に然り。
養育機関が無いし、医療面も怪我には強いが病気には弱い。
外壁だって工事途中で魔物だって進入してくる。
子供を案ずるのであれば、現状ではルブラスカを離れるべきなのだ。
さらに銀髪。
銀髪というのは、珍しい髪の色である。
子供で銀髪。
稀な2つの要素を持つ人物に心当たりが一人。
部屋に残してきたルラだ。
部屋を出てギルドでマクシミアに調書の件で拘束されかなり時間が経っている。
(一度、戻っておくべきだったか?)
外に出ないようにと書置きを残したが無意味だったようだ。
ここでルラに居なくなってもらっては困る。
あの幼女は、迷宮攻略において重要な鍵かもしれないからだ。
迷宮で見つけたことに加え、知らない術式、見たことの無い魔法を行使しする彼女は謎だらけだ。
見た目にそぐわぬ知識があり、迷宮について何か知っているようだった。
彼女は自身を『ルブラスカ』と名乗り『迷宮の深遠へと行きたい』と言った。
最初は、出任せとも思ったが、今では半信半疑だ。
そんな彼女を失うわけにはいかない。
広場付近までくると人だかりができていた。
例のオークを囲っているようだ。
ハイドラットは近くの露店の積荷に登り、人だかりの中を確認する。
その中心には、大人の男より頭二つほど高そうなオークがいた。
豚のような鼻に垂れた耳。
口元から覗く牙。
特徴は確かに豚頭に間違いは無いが…
「なぁ、豚頭って、普通は肥満体型だよな?」
足元にいるレイナに尋ねる。
「言ったでしょ。かなりの筋肉質だって」
「ああ、確かに言ってたな。しかも、『たぶん』とかつけてたよな」
「言葉のあやでしょ」
目に入るオークは、かなり引き締まった身体をしている。
肥満どころか脂肪があるかもあやしいくらいの筋肉隆々の巨漢だ。
その足元には頭だけ出して袋詰めにされた銀髪の子供。
間違いない。
昨日拾った幼女、ルラである。
なぜかその表情は楽しそうである。
転がっている連中は、8人。
聞いていた話より多い。
どういうことだろうか?
「あのですね、私は争うつもりはないんですよ。
ハイドラットって人に用がありましてね…」
オークが本当に人語を喋っている。
しかも、かなり流暢である。
今まで自分の出会ったオークと何から何まで違う存在にハイドラットが驚いていると、
「俺様こそが真のハイドラットだ!!」
名乗りがあがった。
(『真の』ハイドラットってなんだ…)
ハイドラットが困惑しながら、そちらをみると、人だかりからオークの方へガラの悪い男が進み出た。
「ご指名のハイドラット様とは、俺のことよ!!」
男が自分を指さしながらもう一度名乗りあげる。
それを見てから、オークがルラの方に視線を向ける。
ルラが首を横に振っている。
周りから「やっちまえ、ヤンガス」と聞こえるのは気のせいだろう。
「あなたも違うみたいですね。
別のハイドラットさんをお願いできませんか?」
オークが丁重に断った。
(あなた『も』って、オイ!?)
2人のやりとりに突っ込みたくなる。
転がっている連中は全員ハイドラットと名乗ったのだろうか?
それに対しガラの悪い男は、
「俺が相手してやるんだよ!!」
と、オーク目掛けて飛び込んでいった。
駆け寄りながらのナイフを投擲。
オークに剣を抜かせる暇を与えない。
一気に距離を詰め本命の爪で喉元を狙うが
バチン!!
オークの張り手一発を受けてものすごい勢いで転がっていった。
「無駄な争いをするつもりはありません。
私はここでハイドラットさんを待っているだけです」
オークが言う。
本人は、争いを回避するために言っているのだろうが、「殺さない」ということが、周りを煽っている。
昨夜、もとい今朝方が街で大騒動があった。
しかし、活躍したのは魔術師や魔法使いだった。
飛び交う術の中、近接戦闘を得意とする連中には見せ場が無く終わってしまっている。
それに対し、街中で術を行使し難いこの場は彼らが活躍できる場だ。
相手は、異端のオーク。
並みのオークと違うあのオークを倒すことで名を上げようとしているのだろう。
死なないとわかっていれば無謀にも挑よう。
(手加減されてんだけどな…)
今の張り手だって、オークは振り抜いていない。
当たってすぐに止めてしまっている。
ハイドラットには自分より強い相手に挑むような気概は無い。
無謀な冒険者達に感動を覚える。
「ハイドラット。あんた、どうすんの、行く?」
下からレイナが尋ねる。
ハイドラットの答えは既に決まっている。
「無理」
即答した。




