過去の傷跡
ハイドラットは、冒険ギルドを出ると南門へと向かった。
三番区に行くためだ。
商業区、普段であれば迷宮に入るために必要なものを探しながら、露店で気になったものを物色するのだが、今日は目的がある。
昨日の探索で長く愛用していたマントを二度と羽織ることのできないものに変えてしまったので、その代わりを探しにというわけではない。
その原因となった幼女のためである。
探しているのは、服だ。
拾って帰ったもののあの幼女、未だに全裸で放置されている。
さすがに不味い。
ハイドラットの服を着せてしまっても問題ないのだが、サイズの合わない服を着せたまま連れまわしても不審者に間違われるだけである。
というわけで、幼女を家に放置して一人で商業区に向かっているわけである。
子供が着れる服…、扱ってる店あんのか?
ここらで大きい服屋を数件まわって思った。
失念していたが、ここは迷宮都市ルブラスカ。
禁断の地とされていたこの場所に人が住み始めたのは、まだ10年前の話である。
元からあった遺跡都市を骨格にしているといっても街が形を成したのはまだ数年前の話である。
成り立ちを考えれば冒険者たちが集まってできたようなもの。
迷宮はギルドの管理下にあり一般的に成人とされる、15歳以下の探索は許可されていない。
つまりだ、15歳以下の少年少女はほぼ居らす、いたとしてもここ数年でできた冒険者カップルのでありまだ赤子だ。
要するに、まだ需要がないのだ。
当然、店にお置いてあるはずがなく、作る場合特注となる。
「自分で作った方が早いな…」
そう言ってため息をつく。
ハイドラットは、それなりに器用である。
元々単独の冒険者であり、ここでそこそこ名を馳せるまでは金がなかったのだから当然といえば当然だ。
武具の修理から衣服の補修まで、直せるものは自分で直さなければならず自然と身についていおり、大抵のことは一人でできる。
チームでも組んでいれば分担できたかもしれないが、ハイドラットには分担する仲間がいなかった。
仲間がいたとしても、雑用は全てハイドラットに押しけになるのだろうから、いない方が楽だった。
仕方ないので生地だけ買って帰ることにする。
一番近い店に入ると適当に手ごろな生地と糸を探し始める。
色についてはあとで染めれば問題ないだろう。
必要なものを決めて購入するため店の者を探そうと振り返ろうとしたとき、見知った顔に声をかけられた。
「あんた、なにしてんの?」
振り返ると、そこにいたのはレイナ・バルカス。
「よお、生きてたのか」
「あんたね~、自分でけしかけておいて良く言えるわね…」
レイナは、頭に手をやりため息をつく。
このレイナ・バルカスは、昨日、迷宮で逃げる際に模造人形を押し付けた連中の中の一人だ。
3ヶ月ほど前からホワイトなんたらといったチームに属した魔法使い。
ホワイトなんとかはギルドの中でも戦闘・探索両方に優れた上位チームである。
それを仕切っているのはダストン・フォーゲルという30歳過ぎの男だ。
どんな男かといえば文字通りダストだ。
優秀ではあるが、人の扱いに問題がある。
ハイドラットが単独で探索を行うようになった原因でもある。
他のチームと比べてハイドラットによる進呈率が高いのは同じ階層まで潜ることが多いからに加えてダストへの嫌がらせもあるからだ。
いや、嫌がらせではない。
与えられた恩義に報いているのだ。
その証拠に彼らの戦果は高い。
「ダストんとこにいると碌な目にあわないぞ」
「自分で嗾けておいてよく言うわ、そんなことをしているから恨みを買っているんじゃないの」
「ダストはクズ野郎だからな、お前はあいつの過去を知らないんだ。
あいつは自分の名声のために他人を簡単に切り捨てるようなやつだ」
レイナは、ハイドラットを睨む。
「ダストンは、そんな人間じゃないわ。
面倒見がよくて、強くとても頼りになる人よ」
「それは、お前が女だからじゃないのか?」
「そんなことない!!」
怒る彼女にかまわず言葉を続ける。
「おまえのチームにあれと付き合い長い男がいるか?
あれは才能あるやつを選ぶのがうまい。
あいつにとってお前らは、止まり木みたいなものだ。
用が済んだら簡単に捨てて他へ飛んでいくだろうさ!」
つい感情的になって勢い言ってしまった。
ダストが絡むと制御が効かなくなるのは悪い癖だ。
それだけのことがあったとも言えるが…。
自己嫌悪に頭を抱えてその場に蹲り大きく息を吐く。
それを見てどう思ったのは、わからない。
「…わたしはダストンを信じてるから」
レイナは、そうハイドラットに声かけた。
そして、暫くして
「あんた、なにしてんの?」
改めてハイドラットに言った。
先程までのやりとりは、なかったということだろうか?
ならば、いつまで頭を抱えていてもしかたない。
スッと深く呼吸し気持ちを切り替える。
「なにって、生地を探してんのさ」
「生地を買ってどうするの?」
「どうするって、服を作るんだが…?」
「え?」
意外ものを見るかのような視線。
言葉にしなくても「あんたにできるの?」と視線が語っている。
言葉にしないのは彼女なりの気遣いなのだろうか…?
仕方ないので話を換えることにする。
「ここの店員を探しているんだが知らないか?」
「わたしよ」
時間が止まった。
両者見つめあったまま沈黙が流れる。
その凍った時間を動かすかのように通りから叫び声が聞こえてきた。
「オークが攻めてきたぞ!!」




