昨日の軌跡
旧区画は星型の城壁に囲まれ六つのエリアに分かれている。
中央区
別名、神殿区。
円形の城壁と五本の塔、そして、迷宮のある大神殿がある。
旧区画南東地区
ここは東にある王都に街の中でも近く、南門を抜けた商業が盛んな三番区に近いこともあって交易や街の運営に必要な施設が立ち並んでいる。
南西地区
工房の立ち並ぶ技術開発地区。武器工房、魔術工房があり、日々新技術の開発を行っている。
ここ最近では、迷宮で取れるマナ結晶を使った研究が行われている。
西区
王都騎士団の詰所、駐屯地。
演習や訓練などは西門を抜けた新区画の五番区で行われている。
中央区正門で集められた迷宮の戦利品はこちらに集められ王都に運ばれている。
北区
協会勢力が取り仕切っているという、ハイドラットには馴染みのない地区。
東区
王国貴族の住む地区。
名は知らないがルブラスカにも街を収める領主がいるらしい。
ここもあまり関わりはない。
ハイドラットがいるのは冒険者ギルドの二階の廊下。
一階の受付で必要な手続きを済ませた後、ここに行くよう案内された。
これから行く部署は、冒険ギルドにおいて迷宮探索をになっている部署だ。
今回の報酬もこの部署で査定される。
扉をノックする。
「入りたまえ」
返事を確認すると、扉を開け部屋の中へと入る。
「いや~、ハイドくん。ボクぁ~、嬉しいよ~。
ここを尋ねてきてくれるのは君を含めて十人は居ないからね~」
そう声を掛けて来たのはこの部署の担当マクシミア・ハイデルセン。
眼鏡をかけた糸目の30過ぎくらいの優男だ。
「昨今、よろしくなくってね~。
迷宮探索を掲げているのに~、新しい情報あまり入ってこなくってね~。
ボクの業~績にも影響があ~るからね~」
うざったいくらいに伸びた前髪をかきあげながらマクシミアは言う。
「茶番はいいからさっさと査定してくれ。
これから用事があるんでね」
「おや~?急ぎの用事か~い?
君にしては、珍しいね~」
戯けて喋るマクシミアを無視して、ハイドラットは首にしていたタグプレートを投げ渡す。
「おっと。短気は損気だよ。
焦りは人に付込まれる隙を生む。
常に優位に立ち物事を進めたいなら、会話をすることをお勧めするね~」
「その会話に付き合うと日が暮れるからな。
人を待たせているんだ、早くしてくれ」
その言葉をマクシミアは勝ち誇ったように言う。
「ほらね~、君はボクに付き合えないという理由で無償で情報を提供してくれた。
人を待たせているね~。君にしては珍しい」
「……で、どうなんだ」
ハイドラットは話をしていてもキリがないと判断し、本題を進めることにする。
「ふむ。この件は終わりか~い?
まぁ、次の機会にしよう」
マクシミアは机の上に敷かれた魔方陣に両手をかざし術を発動する。
机の上に白い線が浮かび上がる。
線は立体的に浮かび上がり枝分かれし上へ下へ右に左にと伸びて行く。
浮かび上がっているのは、ギルドで今まで判明した迷宮の地図だ。
「さ~て、これが今までギルドが集めた迷宮の全体図だが、今回、君はどんな発見をしたんだろ~ね~?」
魔方陣の中央に先程ハイドラットから受け取ったタグプレートを置く。
「ツヴァイ、ハイドくんの道程を示せ」
するとタグプレートから青い光の玉が浮かび上がり迷宮地図の入り口まで飛んで行くと、白い線のを青く染めながら線が伸び始める。
青い光の玉は線は上方から下方までくると白線を外れて進み始める。
「ほ~お、君は速いね~。一気に四階層か~。
ここは、新エリアだ~からね~。興味深い」
「それより、命令の言葉は、どうにかならないのか…」
青線は行ったり来たりを繰り返し徐々に伸びてゆき、やがて大きく斜めに進み始めた。
「おやぁ?これはずいぶんと深いね。
六層、いや八層くらいの深さだね。
ここは何だったんだい?」
「地底湖って言えばいいのか?
湖があったな。かなり広い空間だ。
不思議と魔物も居なくて例の計画には打って付けだと思うんだが?」
「う~ん、それが本当だとしても今後次第かな~。
ここは、離れすぎているからね~。
拠点として造るにしてもメリットが見えない状態だからね~。」
椅子に背を預け両腕を組みながらマクシミアは答える。
その目は、ひとつだけ離れた赤線の先を見つめている。
ハイドラットが見た地底湖のある場所だ。
この空中に描かれた迷地宮図はマクシミアの魔術によるものだ。
このマクシミアという男は精霊魔術で自身の精霊を冒険者の持ち物に宿らせ、その精霊に距離・方角を記録させることによって正確な地図を作り出す。
ルブラスカにおいて探索型冒険者に賞金が出るのはこの技術があってのものだ。
「発展性については保留だね~。
展望が望めるなら今後追加報酬を出すとしよう。
あとは~、五日以内に同じところを調べる人間がでないといいね~」
迷宮進展の報酬は、すぐには出ない。
例えば二チームが新しいを発見し、一チームが奥に進んでいる間にもう一チームがギルドに報告したとする。
その場合、先に戻ってきたチームに直ぐに賞金を支払ってしまうと奥に進んだチームが損をしてしまう。
これを許すを少し進めるたびに戻ってくる羽目になり、迷宮調査が鈍化、難航してしまう。
そこで新規発見報告から五日の猶予を設けている。
この間に同じ区域を発見したチームには賞金が分配される仕組みだ。
「いても、ダストンとこぐらいだろうさ。
それくらいしか、四層では見かけなかったぜ」
「たいした自身だ~。
ところで、君は地底湖に行ってから戻ってくる最中にずいぶん遠回りをしているみたいだけど、どうしたんだ~い?」
見れば迷宮地図の中を青い線が地上を目指してあちらへこちらへと移動している。
ハイドラットが模造人形から逃げていた通りに進んでいる。
「あぁ、ゴーレムに襲われてな。
知っての通り俺には戦闘力がないから近くのヤツらに押し付けながら帰ってきたわけさ」
「それは~、君らしいね~」
ハイドラットの堂々たる態度にマクシミアは苦笑いで返す。
そして.、何か気がついたようだ。
「ということは昨夜の騒動の原因は君か~
い?」
「いや、大騒動にしたのはあの馬鹿だな。
なんていったけ?トリ…トリ、……トリ?」
「トリアス・トリスタン・トリニティ~?」
「そう、そのトリトリトリが、正門にイーダ級ぶち込みやがってよ。
正門の修繕費を請求するならアイツにしろよ」
抜かりなく責任を押し付けるのを忘れない。
「イーダ級?そ~んなに強いゴーレムだったのか~い?」
「ああ、なんせ魔法抵抗があったらしくて、並みの術じゃ歯が立たなかったみたいだ」
「それが~、最後に完全消滅~?」
「トリトリトリは、クード級って吹聴してたぞ」
「それが本当なら、彼は凄いことになるね~」
マクシミアは苦笑しながら言う。
「クード級の魔法について知りたいんだったら、トリトリトリに聞いてくれ」
「大丈夫。彼は昨夜の騒動の殊勲者だからね~。
あとでここに来てもらうことになっているんだよ~。
彼が偉大なる魔法使いであるなら、王都から招集がかかるだろうからね~」
「招集?何の為に?」
含みのある言い方につられハイドラットは訊ねる。
マクシミアは、ハイドラットの反応に満足したのか笑いながら答える。
「そりゃ、もちろん戦争の準備のためさ~」




