検問所にて
けたたましい音が鳴り響く中、ハイドラットは正門へと侵入を果たした。
それに続くのは、盾と斧を持ち完全武装した3m超の漆黒の全身鎧。
前後二つの門に挟まれたこの場所は正門内にある検問所だ。
ここでは、冒険者の所持品の確認を行っている。
冒険者の所持品の確認などいちいちしていたのでは日が暮れてしまうが、世の中には魔術という便利なものがある。
専用に編まれたその結界は、冒険者の出入りの荷物を自動で記録している。
街へと戻る際、減っている分には問題ないが、増えているものがある場合、警報が鳴る術式らしい。
通常であれば検問所の一定のラインを越えるまでに自己申告し、迷宮内で手に入れたものをここで提出する。
提出したものが神々の遺産であればリストに登録され後日、ギルドで褒賞金引き換えになる。
自分や他者や以前に無くした装備だったりアイテムだったら過去の記録と照合され問題なければ返還される流れだ。
もし、警報がなってしまった場合は、身体検査となる。
だが、今は緊急時。
当に模造人形は、一定ラインを越えてしまっているし、ハイドラットも幼女を背負ったまま、その境界線を通り過ぎてしまった。
状況が違うからか、警報がいつもと違った音を鳴り響かせている。
その警報がルラに反応しているのか模造人形に反応しているのかは定かではないが、検査官は魔物の襲来に怯えそれを確かめる余裕はない。
ここまでくれば目的は達したようなものだが、念のためできれば術式を破壊したいところだ。
検問所内には、今、六人の人がいる。
破られた扉の下敷きにっているのが一人。
中央で仰向けに白目を剥いているのが一人。
角材を持ったまま固まっている巨漢が一人。
机の向こうで怯えている監査官が三人。
「おい、アンタ。そこの角材持っているハゲ、お前だよ。
アンタは、倒れてるやつらを救出して避難してくれ。
それとも、俺と戦ってくれるか?」
ハイドラットは角材を持ったまま動かないハゲに声を掛ける。
その言葉をいたハゲは見開いたままだった目を瞬かせ、
「いや、遠慮しておこう。
俺は雇われの身でね。
あいつらの無事が仕事だ」
そう言ってハゲは、検査官らを指す。
ハイドラットはわかったと頷き、今度は、検査官たちに言う。
「アレは俺がひきつける。
そのうちに倒れているやつらを連れて避難してくれ。
それと一人は、ギルドに行って応援を呼んでくれ」
承知したように検査官らは頷くと恐る恐る動き始めた。
そのうちの一人が
「アレと戦えるんですか?」
とハイドラットに尋ねる。
「こいつを街にやるわけにはいかない。
俺が足止めをする」
それっぽいことを言って、ハイドラットは腰と背に刺している短刀を抜く。
一度注意したからか、ルラに邪魔されることなく簡単に構えることができた。
「自分で連れてきておいて、いまさら足止めするなどおかしい話じゃな」
後ろから小声で茶々が入る。
「ここは、結界があってな。
モノの出入りを管理している。
できればお前の記録を残したくないんだ」
「そういうことかの」
ルラは、納得したようだ。
ハイドラットは模造人形に相対する。
模造人形動きが止まる。
それを見た検問所内の人間が一斉に行動を始めた。
検査官の女は街の方の扉へ。
男二人は模造人形を迂回しつつ、筋肉ハゲに合流するつもりのようだ。
ハイドラットも踏み込む。
いや、前方に飛び込んだ。ヘッドスライディングだ。
先ほどまで頭のあった位置を巨大な塊が唸りを上げて通り過ぎてゆく。
激しい音をさせ壁を破砕したそれは盾だ。
「そういえば、コイツ。装備を投げるんだっけ…」
「今のは、わしも危なかったの。
おぬしよ、背中にわしが居ることも配慮して避けてほしいの」
地面に這い蹲り小鬼との戦いを思い出す。
背中からは相変わらず緊張感のない声。
「って言うことはアレか?
コイツ、あんときのように人も投げんのか」
「うむ、じゃが獲物を持っているうちは大丈夫じゃろう。
今、距離をとれば手当たりしだいが砲弾になるじゃろうな」
状況分析は、ありがたいがその答えはあまり好ましいものではなかった。
つまり、人を武器にさせないためにはアレが斧を手放さないようにしなくてはならない。
そのためには避難が終わるまでは近接戦闘をしなければならないということだ。
「避難急いでくれ!!」
ハイドラットは立ち上がり思わず叫ぶ。
見れば筋肉ハゲが角材を使って扉を持ち上げ、検査官が下敷きになっている筋肉を引きずり出しているところだった。
再び構え飛び込む。
模造人形の動きはそれほど複雑ではなく懐に入るのは難しくはない。
まして、模造人形の武器である斧は長物。
柄を短く持つ発想もできない模造人形に後れをとるはずがない。
問題なのは弱点がわからないことだ。
数手切り込むものの硬いのは鎧だけかと思っていたがそうではない。
鎧の隙間から見える関節もまた非常に硬いのだ。
正直、戦って勝つ方法が見えない。
倒すことは諦め、ゆっくり後退し模造人形を引き付け筋肉ハゲたちから距離をとる。
目的は検査官の使っている机周辺。
結界が設置型であれば必ず要になる場所があるはずだ。
それを破壊したい。
ハゲたちからある程度距離をとったことを確認すると一気に検査官の詰め所に駆け込む。
ゴォォッと唸りをあげて何かが飛んできた。
模造人形の投げた斧が唸りを上げ机を次々に吹き飛ばす。
斧は壁に突き刺さり止る。
乗っていた書類や紙束がバラバラに千切れて紙吹雪が舞っている。
その中を逃げ回るハイドラット。
それを追い立てるように次々と机が飛来する。
「騎士っぽい鎧着てんだからもっと騎士らしく戦え!」
ハイドラットは、獲物を失い手当たり次第に近くに在るものを投げてくる模造人形に叫ぶ。
「人形に戦い方を要求してもどうにもならんじゃろうて…」
「ごもっとも!」
ルラ冷静な指摘に勢いよく返事する。
「俺らは大丈夫だ、あんたも逃げな」
遠くで声がした。見ればハゲたちが街側の門から出て行くところだった。
いまだに警報が鳴っているところをおもうに結界は破壊できなかったが、模造人形おかげで、目星いものは粗方破壊できた。
ひとまず、撤収することにする。
「よし、俺らも逃げるぞ」
「ずっと逃げ回っておったがな。
次は、わしの出番じゃな」
ルラの意味ありげな言葉に「ん?」と首を傾げたハイドラットだったが、このときはあまり気にせず正門をあとにしたのであった。




