問題点
日の落ちた世界は、静かさを携え人々を安寧の世界へと導いていた。
こいつが戻るまでは・・・。
迷宮を抜けた先は暗かった。
当然、今は夜である。
ムワッとした初夏の生温い風がハイドラットたちを迎えた。
空は晴れており、輝く星々が瞬いている。
背後には、高くそびえる建物。
見上げれば視界の半分を覆ってしまうようなそれは、都市ルブラスカにおいて最大の建造物、大聖堂である。
神々の居城とされたこの神殿区には、左右対称に造られ見るものを圧倒するようなこの大聖堂と、それを護るかのように円形の外壁と、形の違う5つの塔がある。
現在、神殿区は王国直属の管理下にあり、国で最も信仰されている宗教教団が治めている。
大聖堂や塔の中を見ることは不可能だが、ここ迷宮だけは許可されている。
ハイドラットが今居るのは、大聖堂の地下1階だ。
地下といっても天井は無く、目の前には扇状に広がるゆるやかな階段。
ここを抜けるとその先には正門がある。
神殿区の外壁と正門は都市奪還後に造られたものだ。
外壁が造られた理由は簡単、迷宮から湧き出た魔物達が街へ流出するのを防ぐためである。
高さは3m程で上を通過するものがあった場合、即座にその場に捕縛するように術式結界が施されている。
今、厄介なのは正門だ。
神殿区の外観を損なわないように造られたそこには2つの扉があり中は部屋のようになっている。
ここは、冒険者が不正を行えないように造られた取り調べ室だ。
どのような経緯があったのかは知らないが、ギルドは国と冒険者が迷宮内で手に入れたものは一部を除いて全て王都に送る取決めを結んでいる。
しかし、神々の遺品と呼ばれるレアなものを手放したがる冒険者がいるだろうか?
報酬と引き換えと入ってもその報酬はそれほど大きいものではない。
市場には、物好きが多く存在する。
使い方はわからなくても、神々の遺品というだけで飛び付く連中は数多くいるのだ。
秘密裏に持ち帰り市場に流してしまったほうが金になるのだ。
国としては、神々の遺産が一般に出回り犯罪に使われるのは避けたいのだろう。
対処法が不明な状態で悪用された場合どのような被害が出るか未知数だからだ。
というわけで、冒険者の神々の遺産の持ち出しを防ぐべく創られたのがこの正門、ゲートである。
王国屈指の魔術師達によって編まれたこの結界。
効果は、一つ目、結界内の魔力活性の禁止。
要するに、結界内で魔法、魔術を使うことができない。
魔力を必要とする道具なども同様だ。
これは、遺産対策でもある。
二つ目、通過者の所持品増減管理。
迷宮に向かうときとギルドに戻るときとこのゲートを出入りする際に所持品の管理を自動で行う。
減っている分には問題ないが、増えているときには警報が鳴る。
警報が鳴った場合、取調べが行われる。
どういう呪法を組んだのわからないが聞くところによると所持者とその所持品が全て登録されてリストに表示されているらしい。
過去には体内に隠して持ち出そうとした強者も居たらしいが、散々な結果に終わったようだ。
問題なのはこの2つ目の効果だ。
ハイドラットは、今、ルラを背負っている。
果たしてこの幼女は通過するとどうなるのであろうか?
おそらく警報が鳴る。
これは予想だが、正門には二つ目の効果を利用した三つ目の効果だ。
正門に登録されていないものが出ようとするのだから当然だ。
元々、街への魔物の流出を防ぐために正門が造られたのだから当たり前といえば当たり前である。
で、今回逃げ回っているうちに考えたここの突破方法がこれだ。
ハイドラットの後ろから重たい音が響き渡る。
ズシン、ズシンと規則正しい重量ある音を響かせ、それはゆっくりと近づいてくる。
手には巨大な斧と盾。
3mを超える巨大な全身鎧のゴーレム模造人形
その強さは折り紙つき。
小鬼魔術師との闘いのときから分かっていたが魔法が効かない。
戦闘力を測るためにギルド屈指の連中に当ててみたが突破されてしまった。
中には、模造人形を素通りさせた奴らもいたが大事なのは彼らが止められなかったということ。
故に、ハイドラットが追われてここまで着てしまったのは仕方ないことなのだ。
コイツに敗れた冒険者がそれ保障してくれるだろう。
それにギルドにおいて自身の二つ名は『逃げのハイドラット』
逃げ回ることに疑いを持たれることは無い。
問題なのは模造人形を止める方法だが、他の冒険者にぶつけて楽しんでいる間に心当たりができた。
問題は無いはず。
「さて、行きますかね」
屈伸しながら逃げる準備を整え模造人形が近づいてくるのを待つ。
振り上げられる斧。
それを見たハイドラットは
「助けてくれーーーーーーーーーーーーーー!!」
叫びながら無様に逃げ出した。
真夜中のルブラスカにハイドラットの悲鳴が轟いた。




