ゴーレム
一昔前に王国でゴーレムの研究が盛んだった時期があった。
山小人達によって、再現されたゴーレムは、命令に忠実であり、食を必要とせず、睡眠も要らず連日稼動することが可能だった。
また、斬られようが焼かれようが体内に存在する核さえ無事であれば不死身であり、身体能力も人を遥かに凌駕していた。
これに目をつけた先々王は、王立魔動研究機関『オーガナイズ』に、ゴーレムの解析・研究を指示。
兵器への転用を図ったのであった。
求めたのは、人の代わりに戦い続ける不死のゴーレム軍団。
だが、長き研究の末に出された結果は失敗であった。
失敗の理由は単純、ゴーレムの軍団を造るのに問題がありすぎて、人の方が運用に易かったである。
まず、問題なのが、ゴーレムの作成。
ゴーレムを造るのにおいて核が必要となる。
核にマナタイトという稀少鉱石を必要とするうえ、それに術式を書き込むために膨大な魔力を必要とする。
一体を造るのにコストがかかりすぎた。
さらに、命令に対する理解力の低さ。
ゴーレムは、下された命令には忠実である。
一度命令されれば完遂するまで止まることはない。
だが、言葉というものは複雑である。
一つの物を指すにしても多様な言い方がある。
『敵を倒せ』と命令を下したから、敵だけを選別するかと言うとそうでもない。
味方だって巻き込まれることもある。
『倒せ』と命令したから、止めまで刺すとかと言うと本当に倒しただけで終わってしまうこともある。
大雑把なのだ。
ゴーレムは、学習能力がないので、戦わせるには状況に応じて細かく指示を出す指揮官が必要となる。
そうなると、当然相手は指揮官を狙ってくる。
ここで問題になってくるのがゴーレムの所有権だ。
ゴーレムに命令できるのは、所有権を持つ一人だけだ。
他者の命令に従わぬようにプロテクトがかかっている。
敵に利用されては目も当てられないし、指揮する者が複数いても混乱するだけだからだ。
この所有権は他にも問題がある。
先の理由によりゴーレムを指揮する者は一人。
その者にはゴーレムの一軍を与えることになる。
利用の仕方では、王国さえ落とすことが可能な戦力だ。
与えて反乱に使われては目も当てられない。
指揮官は王国の中でも信用できる者でなければならない。
また、所有権は保持者が死亡しても譲渡されない。
当然だ、戦時中に指揮官が死んだからといって、ゴーレムの所有権が相手方に渡ってしまったら自国の首を絞めることになる。
命令を完遂し動かなくなったところを回収して、所有権を書き換えるのが最善となっている。
以上の理由により、ゴーレムの軍としての利用は不可能と結論され、その作成数は72体で終わったという。
中には過去の戦闘に投入され所有者を失ったまま、与えられたことを完遂できずに今だ彷徨っているゴーレムたちも存在する。
これらは、はぐれゴーレムと呼ばれている。
たまに人を襲うのも存在するが、それらは、大抵、ギルドに討伐依頼される。
さて、これらのことがハイドラットの知る王国のゴーレム事情だ。
ハイドラットは、振り下ろされた両腕をぎりぎりでかわし階段へと駆け出した。
地面を揺らす強い衝撃。
揺れに足を取られそうになったが持ち堪える。
そのまま一気に階段を駆け上り、模造人形を振り返る。
模造人形は、盾と斧を回収し、ゆっくりと歩いてくる。
小鬼達とのときとは違い走り出さないのはハイドラットが攻撃を仕掛けないせいだろうか?
模造人形が、階段に足を掛けこちらを見上げる。
全身鎧に包まれ、兜の下の顔も仮面で覆われている。
仮面に空いている2つの眼孔は、ただ暗く、まるで髑髏のようである。
(なにを間違った。
止まっていないってことは命令を完遂してないってことか?
それとも…。)
ハイドラットは、考える。
模造人形というのは、ゴーレムに近いものらしい。
命令されれば、それを実行する。
そして、それが終われば次の命令があるまで動かない。
自分が下した命令を思い返す。
(大広間に居る輩を殲滅せよ)
模造人形は、命令通りに小鬼達を倒し、一度止まった。
だが、また動き出している。
(ということは、命令の仕方を間違えたということか。)
これがゴーレムの厄介とされているところだ。
同じ命令でも個体によって、命令に対する理解が全く違う。
(よく軍団として利用しようと考えたものだ・・・。)
先人の考えの深さにハイドラットは、おもわず溜め息を付く。
今回の場合、模造人形には、単発の命令ではなく永続的な命令と受け取られてしまったようだ。
さらに、格好をつけて『輩』なんて使ってしまったものだから、殲滅対象に小鬼達だけでなく、ハイドラットも含まれてしまっている。
階下の模造人形斧を肩に担ぐと、そのまま階段を上り始めた。
(つまり、こいつは、大広間に入った者を逃がさないわけか・・・。だが。)
ハイドラットは叫ぶ。ゴーレムに実行できる命令はひとつだけ。
ならば、別の命令で上書きしてしまえばいい。
「止まれ!!」
だが、模造人形は止まらない。




