受け継がれた才能
主人公が十一歳になった年。
弟と妹は、五歳の誕生日を迎えようとしていた。
この世界では、五歳になると能力鑑定の儀が行われる。
それは子どもがどのような属性に適性を持ち、どれほどの魔法の才能を秘めているのかを調べる大切な儀式だった。
かつて主人公自身も、五歳のときにこの儀式を受けている。
八つすべての属性に適性があるという、珍しい結果。
しかし、使用できる魔法は初級まで。
その事実は、今も主人公の心に残っていた。
そして今年、能力鑑定を受けるのは弟と妹だった。
「二人とも、緊張しているか?」
儀式の前、主人公が声をかけると、弟は胸を張って答えた。
「全然! 僕、すごい魔法が使えるようになりたい!」
妹は少し不安そうにしながらも、兄の手を握った。
「お兄ちゃん、見ててね」
「ああ。二人とも、頑張って」
主人公は優しく微笑んだ。
やがて、能力鑑定の儀が始まった。
最初にスクロールの前へ進んだのは弟だった。
鑑定士が能力スクロールに魔力を流すと、そこに弟の適性が次々と表示されていく。
「火属性……雷属性……」
ここまでは、人間族として珍しい結果ではなかった。
人間族が得意とする二つの属性である。
しかし、その後に表示された魔法の適性を見て、鑑定士の表情が変わった。
「これは……火と雷、どちらも上位の魔法を扱えるだけの高い適性を持っています」
周囲がざわめく。
さらに鑑定士はスクロールを確認した。
「それだけではありません。土属性と闇属性にも適性があります」
「四属性だと……?」
親族の一人が驚いた声を漏らした。
人間族でありながら、得意とする火と雷に加え、土と闇にも適性を持つ。
それも、火と雷については上位の魔法を扱えるほどの才能。
弟の結果は、名門貴族の子どもにふさわしい、非常に優れたものだった。
父親は誇らしげに息子を見つめ、母親も嬉しそうに微笑んだ。
弟は結果の意味をすべて理解しているわけではなかったが、周囲の反応を見て嬉しそうに笑っていた。
次に妹の番が訪れた。
妹も少し緊張した様子でスクロールの前に立つ。
鑑定士が鑑定を始めると、まず火属性と雷属性が表示された。
そして、弟と同じように二つの属性には上位の魔法を扱えるほどの高い適性が示されていた。
「こちらも素晴らしい……」
鑑定士が続けてスクロールを確認する。
「風属性と光属性にも適性があります」
再び周囲が驚きに包まれた。
火と雷だけでなく、風と光にも適性を持つ。
特に光属性は、治癒魔法にも関係する貴重な属性だった。
「兄妹そろって、これほどの才能を持つとは……」
「さすがは名門の血筋だ」
親族や招かれた貴族たちから、称賛の声が上がる。
弟も妹も、名門貴族にふさわしい優れた魔法の才能を持っていることが明らかになった。
主人公は二人を見つめていた。
弟も妹も、これまでと何も変わらない。
自分に魔法を見せてほしいとせがみ、一緒に遊んでほしいと近寄ってくる大切な家族だ。
「二人とも、すごいじゃないか」
主人公がそう言うと、弟は嬉しそうに駆け寄ってきた。
「お兄ちゃん! 僕、すごかった?」
「ああ、とってもすごかったよ」
妹も兄の隣に並ぶ。
「わたしも?」
「もちろん。二人とも立派だったよ」
主人公は二人の頭を優しく撫でた。
心から嬉しかった。
弟と妹が優れた才能を持っていたことを、羨む気持ちはあっても、それ以上に二人の成長が嬉しかった。
しかし、周囲の貴族たちは違った。
「弟君も妹君も、これほどの才能をお持ちとは」
「兄上とはずいぶん違う結果になりましたな」
「これならば、この家の将来も安泰でしょう」
悪意を隠そうともしない言葉が、主人公の耳にも届いていた。
「やはり、名門の後継ぎには相応の魔法の才が必要だ」
「上の二人を見れば、余計にそう思わされるな」
主人公は何も言わなかった。
自分と弟妹を比較する声は、これまでも何度か聞いてきた。
だが、今回の鑑定によって、その声はさらに大きくなっていくのだろう。
一方、父親は周囲の言葉に流されることなく、三人の子どもたちを見ていた。
「二人とも、よく頑張ったな。今日は家族みんなで祝おう」
母親も優しく微笑む。
「あなたたちが元気に成長してくれることが、私たちにとって一番嬉しいことよ」
その言葉は、主人公にも向けられていた。
主人公は父と母の表情を見て、静かに微笑んだ。
弟と妹には、自分にはない才能がある。
周囲がどれほど比較しようとも、それは変わらない事実だ。
けれど、二人が自分より優れているからといって、二人を嫌いになる理由などなかった。
自分は兄なのだから。
そして二人は、自分にとって何より大切な弟と妹なのだから。
その日の夜、主人公は庭で二人と一緒に魔法の練習をしていた。
「お兄ちゃん、火の魔法を見せて!」
「僕もやる!」
「じゃあ、まずは小さな火を出してみようか」
主人公の手のひらに、小さな炎が灯る。
弟も真似をして、手のひらに炎を生み出した。
妹は少し離れた場所で風を起こし、楽しそうに笑っている。
その光景を眺めながら、主人公は思った。
自分には自分にできることがある。
弟には弟の、妹には妹の才能がある。
いつか二人が大きくなったとき、自分も胸を張って隣に立てるようになりたい。
たとえ初級魔法しか使えなくても。
主人公は二人の笑顔を見つめながら、そっと笑みを浮かべた。
それぞれ違う才能を持つ三人の兄弟。
その歩む道が、これからどのように分かれていくのか。
まだ誰にも分からなかった。




