変わらない温もり
つづきです。
能力鑑定の儀が終わったあと、少年は父親と母親に連れられ、屋敷へと戻った。
帰りの馬車の中で、少年は窓の外を眺めながら、今日の出来事を思い返していた。
「ねえ、お父様」
「どうした?」
「ぼく、八つも魔法が使えるんだよね?」
「ああ。そうだな」
「すごい?」
父親は一瞬だけ言葉に詰まった。
息子が持つ全属性への適性。それは、一族の歴史を振り返っても、そう簡単に見られるものではないだろう。
しかし、初級魔法しか扱えないという結果もまた、事実だった。
それでも、目の前にいるのは、まだ五歳になったばかりの自分の息子である。
「お前がすごいことには変わりない」
父親はそう答え、少年の頭を優しく撫でた。
「ただ、わからないことも多い。これから少しずつ調べていけばいい」
「うん!」
少年は嬉しそうに笑った。
母親も隣から息子を抱き寄せる。
「焦らなくてもいいのよ。あなたはまだ五歳なんだから」
「お母様、ぼく、もっと魔法を覚えたい!」
「ええ。応援しているわ」
母親は微笑んだ。
その笑顔に、儀式の前と後で変化はなかった。
父親も母親も、息子に失望したわけではない。
ただ、どうしてこのような結果になったのか。それが気がかりだった。
◇
屋敷に戻ると、父親は早速、一族の者たちを集めて話し合いを行った。
議題はもちろん、長男の能力鑑定についてだった。
「全属性への適性は、まぎれもない事実なのだな?」
「はい。能力スクロールは正常に作動していました」
「それでいて、初級魔法しか使えないとは……」
親族の一人が深く息を吐いた。
「これほどの適性を持ちながら、中級魔法すら使えない。前例があるのか?」
「私の知る限りでは、聞いたことがありません」
「才能があるのか、ないのか。判断に困る結果だな」
厳しい言葉が飛び交う。
ある者は珍しい才能に希望を見いだし、ある者は後継者としての将来を不安視した。また、鑑定そのものに問題があったのではないかと疑う者もいた。
名門貴族であるこの家にとって、後継者の能力は一族の将来を左右する重要な問題だった。
だからこそ、誰も簡単には結論を出せなかった。
「本人に責任はない」
話し合いの終わり際、父親が静かに告げた。
「まだ五歳だ。今の結果だけで、この子の将来を決めつけるつもりはない」
その言葉に異を唱える者はいなかったが、全員が納得したわけでもなかった。
◇
数日後。
「お父様、見て!」
庭から、少年の弾んだ声が聞こえてきた。
少年の手のひらの上には、小さな火の玉が浮かんでいる。
初級魔法の火球だった。
「昨日より大きくなったよ!」
父親は庭へ出て、息子の火球を見つめた。
確かに、わずかに大きくなっている。
「そうか。練習したんだな」
「うん! もっと大きくできるかな?」
「無理はするな。少しずつ上達していけばいい」
「わかった!」
少年は元気よく返事をした。
父親は息子の隣に腰を下ろし、その練習を見守った。
才能があるかどうか。
どこまで強くなれるのか。
将来、どのような魔法使いになるのか。
それらは、まだ誰にもわからない。
けれど、少なくとも父親にとって、息子が息子であることに変わりはなかった。
母親もまた、以前と同じように息子の好きな菓子を用意し、寝る前には絵本を読み聞かせた。
少年は、両親の愛情が変わっていないことなど、わざわざ考える必要もなかった。
それが彼にとって、当たり前の日常だったからだ。
ただ、屋敷の人々の中には、少年を見る目が以前とは変わった者もいた。
期待する者。
心配する者。
将来を危ぶむ者。
さまざまな視線が、幼い少年へと向けられるようになった。
それでも少年は、まだ知らない。
少年の物語は、まだ始まったばかりだった。
ありがとうございました。




