『超戦士Xスーパーデンジャラスバースト改ΩミスターJ」
「──ふっ、これで終わりだぞ、地球人」
崩壊した都市の真ん中、赤く染まった空を見上げながら、邪悪な魔王ヴィルガムは嘲笑った。
彼の掲げた右腕から解き放たれる暗黒の魔導波が、大地を削り、ビル群を容易く蒸発させていく。人類が誇るあらゆる近代兵器も、世界最強の能力者たちが束になって挑んだ攻撃も、すべてはこの絶対的な力の前に霧散した。
絶望が世界を覆い尽くそうとしたそのとき、焦土の向こうから「彼」が歩み出てきた。
ボロボロのビジネススーツ。着古したトレンチコートの裾を夜風にはためかせ、頭には少し深めにかぶった中折れハット。片手には、どこか哀愁を漂わせる缶コーヒー。
「やれやれ……今月の残業時間はとうに過労死ラインを超えてるんだがね」
深いため息とともに缶コーヒーを飲み干し、缶を握り潰して投げ捨てる男。
その男の名は──**ミスターJ**。
「ハッ! 何だその冴えない男は? 人類もいよいよ駒が尽きたか!」
ヴィルガムが蔑みの視線を向ける。しかし、ミスターJはハットの庇を軽く指で押し上げると、不敵かつどこか疲れ切った笑みを浮かべた。
「駒なら最初から私一人で十分さ。……会社に申請する『特別手当』の書類作成が面倒なだけでね」
ミスターJがポケットから取り出したのは、古びた真鍮製のUSBメモリのようなデバイス。それを自身の胸元──心臓の直上へと突き立てた。
(ワーニング:アンロッキング・マキシマム・デンジャー・レベル)
**《WARNING: UNLOCKING MAXIMUM DANGER LEVEL》**
=《警告・最大危険領域解放》
大気を震わせる機械音声とともに、ミスターJの全身から溢れ出すのは、深紅と黄金が渦巻く、凄絶なまでのオーラ。トレンチコートが弾け飛び、彼の背後に巨大な魔法陣と、古代文字で記された禁忌の数式が幾重にも展開していく。
「な……なんだこの圧縮された魔力量は!? 空間そのものが悲鳴を上げているだと!?」
ヴィルガムの顔から余裕が消え去る。男が纏うオーラは、ただのエネルギーではない。絶望、混沌、そして男が背負ってきた幾千の死線と過酷な残業の怨念が、極限まで練り上げられた**純粋破壊の意思**だった。
「語るべき言葉はいらない。……行くぞ」
ミスターJの目が、琥珀色から閃光の白銀へと変わる。
**「変身ブースト──『超戦士Xエックス』」**
大地の重力が逆転し、瓦礫が空へと浮き上がる。
極限まで研ぎ澄まされたその姿は、漆黒の装甲と極彩色のエネルギーラインを纏う、まさに終末の破壊神。胸のコアが激しく鼓動し、周囲の空間を歪ませていく。
「戯言を! 消し飛べぇぇぇ!!」
死の恐怖を感じ取ったヴィルガムは、全魔力を注ぎ込んだ『極大滅亡波』を放つ。世界を何十回も滅ぼせるほどの黒銀の濁流が、超戦士X──ミスターJへと迫る。
だが、ミスターJは避けない。一歩踏み出し、両手を交差させた。
「かつて私の師が遺した原型の領域……それに幾重もの改良を重ね、禁忌の概念オメガを組み込んだ」
両手の交差点に、超高密度のプラズマ球体が生成される。それはあまりのエネルギー量に、触れた空気を即座にプラズマ化し、光すらも吸い寄せていく。
「受けてみろ。これが、限界を超えて働く男の真の力だ」
交差させた腕を開き、そのまま右拳をまっすぐに突き出す。
**「喰らえ──!!」**
**「『超戦士Xスーパー……!!』」**
叫びとともに、世界から音が消えた。
**「『デンジャラスバースト……!!』」**
展開された魔力陣が次々と開放され、光の束が螺旋を描いて収束していく。
**「『改────Ω(オメガ)!!!!』」**
**「ミスターJジェイ────ッッ!!!!」**
ドッ、と叩きつけられたのは、破壊という概念そのものだった。
ヴィルガムが放った極大滅亡波など、大海原に落ちた一滴に過ぎない。極彩色の超巨大極光波が暗黒を呑み込み、空を裂き、雲を吹き飛ばし、次元の壁すらも粉々に砕き割りながらヴィルガムへと襲いかかる。
「バ、バカなアァァァァァッ! 一個人が放っていいエネルギーの規模ではないぞぉぉぉぉッ!?」
絶叫も虚しく、ヴィルガムの体は細胞レベル、量子レベルで分解され、光の残滓となって消滅した。
光線はそのまま地平線の彼方まで突き抜け、夜空にポッカリと巨大な星空の穴を開けていく。
……静寂が訪れた。
崩壊した街に、ふたたび静かな風が吹き抜ける。
光が収まり、変身の解けたミスターJは、ボロボロになったトレンチコート(いつの間にか元に戻っていた)の襟を立て、落ちていたハットを拾い上げて頭に乗せた。
懐から取り出したスマホが、けたたましく鳴り響く。
『あ、もしもしJ? 魔王退治ご苦労様! で、報告書の提出なんだけど、明日の朝一番で社長チェックが入るから、今夜中に『デンジャラスバースト改Ω』の使用許可申請書と損害賠償見積書、100枚くらい書いておいてね!』
スマホから流れる能天気な上司の声に、ミスターJは深く、今日一番の深いため息をついた。
「……ハッ、魔王を倒すより、書類仕事の方がよほどデンジャラスだ」
彼はハットの庇を少し下げると、月明かりの下、終電のなくなった街へと静かに消えて行った。
――完――
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
ミスターJの物語を最後まで楽しんでいただけたなら、とてもうれしいです。
【蒼色ノコトネ/ End_is_Zéro_Project】




