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乙女椿は悪令嬢~大正時代の悪役令嬢と入れ替わっちゃったけど、破滅の運命を回避したい!~  作者: 深水えいな@10/15『後宮炎巫伝』発売!
第七章 大正の紅き椿

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45.過去の記憶

 黒百合利一は、黒百合家の嫡男として大事に大事に育てられた。


 産まれてから十歳までの彼は幸せであった。


 名門術師である黒百合家の血を継ぐ彼は、呪術の才能にも恵まれ、家も豊かで両親にも愛されていたからだ。


 やがて可愛い妹の恵も誕生した。


 恵とは八歳も年が離れていたため、利一はことさらに恵を可愛がった。


 だが悲劇は起きた。利一が十歳、恵が二歳の時に母親が事故で亡くなったのだ。


 それだけならまだ良かった。利一にとってさらに不幸であったのは、父親が後妻として元芸者の敏子を迎えたことだった。


 敏子は黒百合家の後妻として迎えられたとき、椿という一歳の娘を連れて来た。


 敏子が言うには、父親とは母が亡くなる前から妾として囲われており、椿は父親の実の娘なのだという。


 椿には火・水・土の三属性を操る稀な能力があり、父親も敏子も椿を溺愛した。


 一方で、恵は何の能力も使えず、両親は幼い恵の世話を利一と婆やに任せっきりにした。


 さらには恵が大きくなると、彼女に家事を任せ使用人のように扱うようになった。


 だが両親よりも恵の扱いについて特に酷いのは、両親に甘やかされて育った椿であった。


 彼女はいつも恵に暴言を吐いたり、無理難題を持ち掛け、失敗する恵を見てあざ笑っていた。


 利一は次第に、椿に嫌悪感を抱くようになっていた。


 だが利一まで彼女や両親の暴力のターゲットにされないために、彼は極力椿の機嫌を損ねないように当たり障りない態度で接して過ごしていた。


 利一としては最後まで恵の味方でいる予定であった。


 だが、次第に敏子に疎まれるようになり、尋常中学校を卒業後は追い出されるように家を出て働き始めた。


 それからは家に寄り付くのも困難になった。


 だが二十を過ぎて、利一は持ち前の呪術の才能を評価され、特呪という特務機関で働き始める。


 そこで利一は、たぐいまれなる呪術の才能と美貌を持ち、資産家で家族でもある暁臣と出会う。


 初めの頃こそは暁臣に劣等感を抱いていたが、次第に仲良くなり、いつしか恵が彼のような男の元へと嫁ぐのを夢見るようになった。


 可愛い恵には、彼のような完璧な男がふさわしい。


 そんな風に考えていた利一に朗報が届く。


 暁臣の祖母のツネが占いをした結果「暁臣の妻には黒百合家の娘を」というご神託を受けたというのだ。


 利一は何としてでも恵を煌夜家に嫁がせようと考えた。


 そうすれば恵を「無能」と呼び下げずんでいた両親や椿に目に物を見せてやることができる。


 利一は「謙虚で控えめな恵こそが暁臣の妻にふさわしい」と暁臣に助言をした。


 だが暁臣は利一の言葉に「参考にするよ」とは言ったものの、まだ若いこともあり結婚には消極的な様子だ。


 どうすれば暁臣と恵を夫婦にすることができるのか――利一は思い悩んだ。


 そんな時、特呪に「鬼爪神社に妙な気が集まってきている」という報告が上がった。


 鬼爪神社というと、平安時代に黒百合家の祖先が鬼を封印した場所である。


 調べると、今年で鬼を封印して千年になるということだ。


 千年も経てば、封印もほころびが出てくる頃合いなのだろう。


 利一は様子を見に神社に向かい、神社のご神体である「鬼の爪」に触れた。


 先祖がどうやって鬼を封印したかは分からないが、最新式のお札でも貼っておけば大丈夫だろう。そう思ったのだが――。


 『――力がホシイカ』


 利一の脳内に、邪悪で禍々しい、低い声が響いた。


 これは罠だ。そう思ったけれど――。


『力が欲しいか。封印を解けば、すべての運命を変える力が手にハイルぞ』


 すべての運命を変える――。


 それは、恵の運命も?


 その言葉に、利一は逆らえなかった。


 そして彼の意識は、段々と黒い闇に支配されていったのであった。


 力を手に入れた利一が考えたのは、まずは暁臣と恵が結ばれるのに邪魔な椿を排除することだった。


 そこで椿に話を持ち掛けた。


「二人で鬼を完全に復活させ、鬼の力を手に入れよう。そうすれば暁臣もこの世界も、お前のものになるはずだ」


 利一の誘いに、椿は何の疑いも持たず、まんまと乗っかった。


 これでいい。


 二人で鬼を呼び出した後は椿にすべての罪をかぶせ、鬼の餌食にする。


 高い呪力を持つ椿の体はさぞかし鬼の良い餌になるだろう。


 そう考えていたのだが――。


 あろうことか椿は鏡に頭を打ち、すべての記憶を失ってしまう。


 もちろん、鬼を呼び出す計画のことも。


 それなら仕方ない。


 とりあえず椿の記憶が戻るのを待ちつつ、暁臣と恵を運命的に出会わせる計画を先に進めよう。


 そう考えた利一は、女学校に通う椿の信者たちに、恵のせいで椿が怪我をしたこと、記憶喪失になったことを伝えた。


 怒り狂う女生徒たちに、利一は裁ち鋏を渡した。


「これで恵を少し脅してやれば恵は学校に来なくなるだろう。そうすれば椿は君たちのものだ」


 愚かな女生徒たちは喜んでそれに従った。


 それと同時に、部下である暁臣には「最近妖魔が女学生を狙っているらしい」と恵の通学路の見回りを命じる。


 上手くいけば、二人は運命の出会いを果たすだろう。


 最悪、タイミングが少しずれて恵の髪が切られてしまったとしても、髪なんてまたすぐ伸びる。


 それに、暁臣が雑誌に載っているモガに興味を持ち、熱心に見ていることも知っているので問題ない。


 だが事は利一の思惑通りに運ばなかった。


 なんと椿が恵を助けに入ってしまったのだ。


 しかも怪我をした椿に暁臣がハンカチを差し出し良い感じになってしまったではないか。


 そこで利一は、暁臣から聞いた夕食会が黒百合家で開かれると聞き、そこに無理やり参加することにした。


 何としてでも恵と暁臣をくっつけるために。


 敏子は苦い顔をしていたが、利一は黒百合家の長男であるし、暁臣の上司なので何らおかしいことはない。


 父親も跡取り息子である利一との和解の機会を図っていたらしく、上機嫌で迎えてくれた。計画通りだ。


 だがそこでも利一の思惑通りには進まなかった。


 驚くことに、椿が髪を切りミニスカートを履いて、暁臣好みのモダンガールになって登場したのだ。


 椿が頭の回転の速い悪賢い女だとは知っていたが、まさかそこまでするとは思ってもみなかったので利一は驚いた。


 その後も二人はデートを重ね、親密な様子だ。


 一方で恵は風祭家の鉄太と婚約したと知らされた。


 風祭家も呪術の名門ではあるし、鉄太も昔から知っていて人の良い男だとは知ってる。


 だが家の格としては煌夜家とは比べ物にならない。


 恵には、小さいときに苦労した分、椿よりも格式の高い家に嫁いで両親や椿に目に物を見せてやりたかったのに。


 利一の心の中には、憤りと共に、深い闇が広がっていく。


 ――どうしてこうも上手くいかない。


 (こんな理不尽な世の中など、この俺が壊してやる……!)


 こうして、利一の心はますます深い闇に飲まれていったのであった。



 

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