↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
乙女椿は悪令嬢~大正時代の悪役令嬢と入れ替わっちゃったけど、破滅の運命を回避したい!~  作者: 深水えいな@10/15『後宮炎巫伝』発売!
第六章 帝都通り魔事件

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
40/49

40.黒百合家の隠し書

 あくる日の放課後、椿は鬼事件について調べるために、図書館へとやって来た。


(えっと……とりあえず、新聞記事でも調べてみようかしら)


 椿は図書館の閲覧席に腰を下ろすと、分厚い新聞ファイルを慎重に広げた。


 ――パラリ。


 紙のこすれる音が静かな図書館に響く。


 ここ最近の新聞を追っていくと、例の通り魔事件に関する記事が小さくいくつも見つかった。


 椿は一つひとつの記事を丁寧に読み、手元のメモ帳へ要点を書き写していった。


 被害者の名前、襲われた場所、襲われた日付。


 何か共通点はないだろうかと必死で考えるも、被害者には接点はなく、共通点と呼べるものすら見当たらない。


 (でも、おかしいわね)


 伝記では「椿が鬼の力を使い邪魔な人物を次々と殺害した」と記されていた。だが、今回の事件では死者は一人もいない。


 被害者も、薫子と暁臣のいとこの雄一以外は椿に関連する人物ではない。


(場所はいずれもこの周辺で起きているのよね)


 椿は地図を眺め、指先で事件の場所に丸をつけながら考える。


 確かに、犯人はこの近くに潜んでいるように思えた。


 記事の内容をメモし終えると、椿はファイルを閉じ、今度は郷土史の棚へ向かった。


 古めかしい和装本が並ぶ棚を、指で順に辿っていく。


 しかし――鬼に関する記述は全くと言っていいほど見つからなかった。


(一般の人には鬼の情報は秘匿されている。だから、普通の文献に残っていないのかもしれないわね)


 軽く息を吐きながら椿は本を戻す。


 指先に残る和紙のざらりとした感触が、余計に手掛かりのなさを実感させた。


 では、どこでなら鬼の情報を得られるのか。


(他に、鬼の資料がありそうな場所はどこだろう。女学校の図書室……はもう閉まってるかしら?)


 椿は自分の胸にそっと手を置き、深く考え込む。


 そして――ひとつの答えが静かに浮かび上がった。


 以前、椿が呪術の特訓をする際に本を借りた、黒百合家の屋敷の奥にある書斎。


 (あそこになら呪術や妖魔に関する専門書がたくさんあるし、何か手がかりがありそう。というか――)


 よくよく考えると、元の歴史でも恐らく椿はあの書斎にある本を参考に鬼を呼び出したと考えるのが自然ではないだろうか。


 なぜなら椿が一番手に取りやすく、なじみがある書斎はそこなのだから。


 ドクン、と心臓が鳴る。


 妙な確信が胸の中にあった。


 黒百合家の書斎。そこに何かある。


(一度、黒百合家に寄ってみようかしら)


 本来なら実家へは週末に帰る予定だった。


 しかし、今は一刻も早く事件や鬼に関する情報がほしい。


(暗くなる前に急がなきゃ)


 図書館を出ると、空は薄く茜色に染まり、雲が赤い尾を引きながらゆっくりと流れていた。


 椿は肩にかけた鞄を握り直し、夕焼けの中、黒百合家へと続く道を迷いなく走り出した。

 

 黒百合家へ向かう道は薄暗く、夕闇が落ちるにつれて少しずつ色を失っていく。


 夕暮れ時は魔の物が出やすい。


 椿は胸の奥に芽生える不安を押し殺すように、足を速めた。


 そうしてようやく黒百合家の門に辿り着くと、見慣れた黒鉄の門扉が見えてきた。


 椿は深呼吸を一つし、門を開ける。


 ――キィ。


 門がきしむ音が不気味に響く。


 その音に、椿の胸はどきりと跳ねた。


「お、おじゃまします」


 いつもなら屋敷のどこかで誰かの足音や話し声が聞こえるのに、今日は皆で外出中なのか、妙に静かだった。


「誰もいないのかしら」


 呟きながら玄関の扉を押し開けると、冷んやりとした空気が頬を撫でる。


 屋敷の使用人たちは持ち場にいるのだろうが、音がまったくしない。


 だが――今はそれを気にしている場合ではない。


 椿は足音を忍ばせながら廊下を進み、書斎へと向かった。


 やがて、見覚えのある古めかしい引き戸が見えてきた。


 ここに、何かある。

 

 そんな予感が強く胸を締め付ける。


 椿は震える手を握りしめ、小さく息を整えると、思い切って書斎の戸を開けた。


 書斎は薄暗く、窓一つない。


 机の上に置かれたランプに火が入っており、誰かが最近までここにいた気配が残っていた。


(誰か、使っていたの?)


 椿はそっと部屋へ入り、机の前を通り過ぎて本棚へ向かった。


 黒百合家の書斎は煌夜家ほど広くはないが、壁一面が本棚で、そのほとんどが古い呪術書と研究書で埋め尽くされている。


 そのなかでも、椿は『妖魔』や『異形』の分類がある棚へ目を移した。


(もし、鬼に関する文献が残っているなら、この辺りのはず)


 指で背表紙をなぞりながら、一冊、また一冊と取り出しては確認していく。


 だが、鬼に関する記述はどの本にも見当たらない。


(やっぱり、ここにもないの?)


 焦りが胸に滲み始めた、そのとき。


 ふと、棚の一角――他の本より奥まったところに、奇妙な隙間があるのが目に留まった。


「……え?」


 椿はその隙間に指を差し込み、手前に引いてみる。


 すると重い本棚が、ゆっくりと横に動き始めた。


 ギィィ……。


 木のきしむような音が、静かな書斎に不気味に響く。


(隠し扉?)


 本棚の向こうには、小さな部屋が隠されていた。


 薄暗い空間には古い机と、数冊の乱雑に積まれた古文書。


 壁には結界を意味する古い符が貼られている。


 まるで誰かが人目を避けて調べ物をするために使っていたように。


 椿は息を呑んだ。


 胸の鼓動が、早く、うるさくなる。


(ここなら。何か、あるかもしれない)


 そっと足を踏み入れ、机の上に置かれた古い一冊を手に取る。表紙には墨でこう書かれていた。


 ――『鬼爪《《おにづめ》》神社 崩鬼録《《ほうきろく》》』


 椿の指先が微かに震える。


 (鬼爪神社――って、家の裏手にあるあの神社よね? 私と暁臣さんが最初に出会った……)


 椿は思わずその本を手に取った。本は上下巻あり、二冊をとりあえず鞄の中に突っ込む。


 その瞬間、背後でコツ、と小さな足音がした。


 椿は息を呑んで振り返った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。