ep 57 Against The Clock②
「彼を頼めるかい?天照大御神にこんなことを頼むのも忍びないけど、貴女の側なら彼の身の安全は確保できるしね。どうかな」
私の頼みに天ちゃんは笑顔で応えてくれた。
「かえちゃんがわたしのところへ来る時はいつもこんな感じだね。かえちゃんも大変だ」
「私は難事件専門の魔法使いだからね。これも運命ということさ。それに」
私は天ちゃんの前に跪いた。
「貴女ほどじゃない。いつも見守っていてくれてありがとう」
天ちゃんはふふっと笑って私の頭に手を置いた。
「好きで子供達を見てるだけだし、それも仕事だからね。いいんだよ、かえちゃんが代表して言わなくても、みんなわかってる」
顔を上げると天ちゃんは少し悲しそうな顔をしていた。
「こんなことでしかかえちゃんの力になれないのは…少し…、寂しいかなぁ」
「…十分だよ」
私が立ち上がると天ちゃんの手はするりと私の頭から落ちた。天ちゃんはその手を暫し見つめて握りしめると、胸に当てて目を閉じた。私はその姿を目を細めて見つめた。
天ちゃんは昔引きこもりで現世に分身を降ろすことも殆どなく、私が初めての友達だと言っていた。私も天ちゃんと会うまではずっと一人だったから今の天ちゃんの気持ちが何となくわかる気がした。でも天ちゃんと決定的に違うところは、今の私は仲間を絶対的に信じている点だ。勿論己自身も信じている。天ちゃんにも信じてもらいたい。私は貴女を絶対に裏切らない。
私は手に持っていたジャケットに袖を通した。
「さて、我々の仕事に戻りましょうか」
「かえちゃん待って!」
踵を返したところで背後から天ちゃんが叫んだ。振り返ると天ちゃんはどこから出したのか洋服を抱えていた。
「これを着てってよ。そんな格好じゃ動けないでしょ?」
差し出されたものを受け取ってみると、私がいつも着ているような白のTシャツとジーンズだった。違う点はジーンズの左腿の辺りに大きな燃え盛る太陽の刺繍が施されているところだ。なるほど、天照仕様の衣装ということか。
「ありがとう。また会おう」
「次はオフの日に!なっちゃんも連れてきてねー!!」
私は背後の声に多少疑問を抱いたが、「天照大御神だしな」と納得した。しかし一本取られたという気持ちがじわじわ湧いてきて、こそばゆいイラつきを覚えたので、少し言ってみるかと振り返った。
「現世のゲームが面白いのはわかるが、ほどほどにね!」
私の反撃は大打撃を与えたようで、天ちゃんの顔が真っ赤になった。その顔を見て込み上げてくる笑みを我慢しながら天ちゃんに背を向けて一歩を踏み出した。
天ちゃんが何やらギャーギャー喚いてるのが聞こえるが、その内容なまた後日聞くことにした。
チェックインするにはまだ早いので、ホテルのトイレで天ちゃんから貰った服に着替え、着てきた服をスーツケースに入れて再びフロントに預けた。
ロビーで腰をかけている町中に「お待たせしました」と声をかけると、町中は「おぉ」と声を上げた。理由はだいたいわかる。
「背伸び少女が野球少年になった感じだな」
「…やはり野球少年感は否めませんね。このキャップのせいでしょうけど」
天ちゃんから貰った服にはキャップも入っていた。ジーンズと同じ燃え盛る太陽の刺繍が側面に入っている黒のキャップだ。せっかく貰ったものであるし、何より太陽神から貰ったものということもあり、趣味ではないが被ることにしたのだ。
ホテルに戻ってくる道すがら町中から話を聞いた。私の言葉であの男の胸の中に温かな想いが沁み渡っていくのが見えたそうだ。それはつまり、彼の無言の主張と私達に抱いている希望が紛れもない真実であるという証明であった。
「先ほどもお話しした通り、敵の魔法がどれほどのものか把握できていませんが、経験則である程度のことはわかります。人の言動を監視することで実質言動を縛る魔法__これはただ情報を得るためだけの力とは違います。人の意思を暗に動かす力ですからね。敵が膨大な魔力を有していたとしても、ある程度近くないと効果を維持するのは難しいでしょう。以前そういった能力者と対峙したことがありますが、おおよそ半径2キロメートルが効果範囲でした」
町中は肩をすくめる。
「俺の力の効果範囲もせいぜい2キロだ。だが逆を言うと半径2キロの範囲内なら言葉を拾えるってことだ。つまり__」
「敵は更に遠くにいる。しかしそう遠くない。どんなに魔力があろうと5キロメートルが限界でしょう。ただ…ひとつ問題があります」
「龍脈だな」
私は頷く。
「ここでは龍脈の恩恵を得られる。龍脈に魔力を通しているのだとしたら、より遠くからでも力を振るえます。我々は二択を迫られているようですね」
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