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ep 56 Against The Clock①

 男は私を驚愕の表情で見つめるばかりで何も言わなかった。それも想定済みだ。

 

 「貴方の言動は召喚師に筒抜けなのでしょう。名乗ることすら許されていないと踏んでいます。しかし知られているのは貴方の言動だけ。ああ、何も言わなくていいです。わかりますから。どんな魔法使いでも対象の情報をある程度認知していないとその手の魔法は発動できないことくらい知っています。私の友人にも似たような使い手がいるんでね」

 

 視線を感じて顔を向けてみると町中が私をジトリと見ていた。どうやら最初に偽名を名乗った理由を勘付かれたらしい。今更だが。

 

 私は男に向き直った。

 

 「敵がどの程度貴方の言動をチェックできるのか教えていただきましょう。なに、喋れと言っているわけではありません。イエスなら私の目を見つめてください。ノーなら目を逸らす、それだけです。ああ、そうそう、わからなかったら上を見てください。私には敵の能力がどこまで優れているかわからないので頷いたりするのも禁止です。動かすのは目だけ。いいですね」

 

 男は私をじっと見つめている。私は頷いて続けた。

 

 「たぶん違うと思いますが、貴方は自身の命を天秤に架けられているのですか?」

 

 男が目を逸らした。まぁそうだろう。

 

 「人質をとられているのですか?」

 

 男は真っ直ぐ私の目を見つめた。そんなところだろうとは思っていたが、これは厄介だ。人質にも何らかの魔法がかけられている可能性があるし、私達が救出しようとした瞬間に人質の命が奪われてしまう恐れもある。憶測を並べても解決しないので次に移ろう。

 

 「人質は家族?」

 

 男が目を逸らす。

 

 「恋人?」

 

 男の目が私の顔を捉える。

 

 「その子は敵の近く__敵の手の届く場所にいますか」

 

 男は私から目を離さない。ならば確認しなければならない。

 

 「貴方が情報を漏らせばその子は即座に殺されてしまうのでしょうか」

 

 男の目は先程のまま動かない。なるほど、そういうことか。

 私は続ける。

 

 「その子は敵に何らかの魔法をかけられていますか」

 

 男は上を見た。つまりこの男は、恋人の命が今にも狩られかねない状況であることは知っているが、深いところまでは知らないのだ。恋人が敵に捕えられていることに関しては確信を持っているところをみると、その光景を目にしたとみて間違いない。なかなかキレる人間のようだし、幻術に惑わされているとか電話でそう聞かされたということはなさそうだ。

 

 「あと…そうですね、一応訊いておきましょう。恋人は女性でしょうか」

 

 男は何らかの含みのある目で応えた。疑われるのは心外だということか。

 

 「だいたいわかりました。場所もご存知かと思いますが訊くのはやめましょう。我々がスムーズにお姫様の下へ辿り着いてしまうと貴方から情報を引き出したとすぐにバレてしまいますからね。回り道をするという手もありますが、生憎私はそういう小細工が好きじゃないんです。__さて、町中さんが得た情報は後で聞くとして、そろそろ行きましょうか。ああ、貴方はここでお留守番です。理由は分かりますね?」

 

 男は目で肯定して見せた。

 

 「町中さん、彼から詳しい情報を得るには、このミッションは失敗できません。制限時間は竹野内刑事が伊勢にやってくるまでの約2時間。それまでに敵を突き止め、必要ならば制圧し、彼を竹野内刑事に引き渡しましょう」

 

 町中は「骨が折れそうだな」と半ばうんざり顔で呟いた。

 

 私は天ちゃんに向き直った。

 


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