サヨナラヲ”N”ニ
闘いから離れて––––––––––––––舞台は日常へ。
「今じゃなくてもいいだろう」
「今じゃなくてもいいだろう」
それぞれ違った空間で統と時雨は言う。統は椅子に座って、時雨は暴れる新沢の上に座って言う。春は統を睨む。統は春を真っ直ぐ見つめる。
「確かに、百足はお前の大切なものを奪った。だが、だからといってお前が全て(今)を捨てる理由にはならん」
統は冷たく言い放つ。春は何も分からなくなった。統は春を見つめ続ける。その目は冷たいが何処か暖かかった。
「早く学校に行きなさい。失ったものじゃなく今あるものに目を向けなさい」
統はそう言い、春を優しく抱き締めた。統は優しい表情になる、春には何かが込み上げてきていた今まで溜め込んでいたもの、負に駆られて判らなかったもの、それは涙となって頬を流れる。春は声をあげて泣いた。統は春の背中を摩ったあと、コーヒーを飲んだ。それはとても苦かった、苦すぎる。春は見かねてコーヒーの中に砂糖を少し入れた。
「カッコつけないで、甘党なんでしょ」
統は懲りずに挑戦しようとしている。春はお腹壊さないでよ、と言って学校に颯爽と走っていった。まるで風のようであった。早い風だ、冬、君が”春”と名付けた理由と分かったよ。春、風みたいな子供だ。統はすこし思ってコーヒーを飲む、が苦い。口に含みすぎた、堪らず吐いてしまう。突然春が座っていたところに時雨が現れる。コーヒーは時雨を黒く染めた、袴が黒くなる。時雨の表情は変わらない。
「何をやっとるのかな?恩人に、ん?ん?我時雨ぞ?天災ぞ?」
時雨は少し怒った様子で言う。統は急いでタオルをとってきた。この男は何故かあの時自分を生かしたのだ、しかも何故か冬も一緒に。他の隊もとてつもない被害を被らせたがどれも麻痺、睡眠、気絶、手足を切り落とす等の戦闘力無効化しかしなかった、だが一部の隊長は死亡したらしい。
「すまんな、少しチャレンジをしていたもんで」
統はそう言い、時雨にタオルを渡した。時雨は受け取り袴を拭く。袴からコーヒーの黒が無くなった。時雨はタオルを机の上に置く。
「君も言うようになったな、あの時の君と重なって見えたよ」
時雨は小さくそう言った。あの時統が何も言わなかったら俺は君を していただろう。ありがとう修羅の道から俺を戻してくれて。統は時雨に背を向けたまま、
ハンガーからスーツをとった。窓から陽の光が射し込んできていた。それはある写真を照らした、統と冬が二人で撮った写真だ。
「まだだ…まだやれる…」
統がふらふらと時雨に駆け寄る、後ろからは冬が迫る。二人とも手負いで歩調が狂っている。だが眼はとても鋭いものであった。時雨は刀を握る、だが時雨の腕が勝手に動き、時雨を貫いた。時雨は表情を変えない。統はもう一度時雨を殴る、それでも時雨は顔に変化は映らない。
「ははは…悪足掻きじゃ…」
冬が血を吐きながら言う、そして地面に倒れこむ。冬は何とか起き上がろうとしている。だが起き上がれない。手を伸ばす、その手は届かない。手の上には黒くまるで闇の様な靴があったからだ。その靴の主は戦原であった。
「死刑だ」
戦原はそう言い、手を翳す。すると射撃隊が射撃を始める。崩災寺は刀を握る。銃弾が空気を震わせて飛んでくる–––––––––––
「あ」
春が素っ頓狂な声を上げる。目の前に新沢が居たからだ。だが何処か様子がおかしい、腹を抑えてゆっくりと歩いていた。手にはビニール袋が握られていた。顔も青白かった。
「どーしたの?」
春が尋ねる。新沢はその問いが聞こえたのか聞こえなかったのか分からないが何かを取り出した。それは紙切れだ。そこにボールペンで文字を書く。
ハンバーガーがあたった。
春はそれを見て笑う。新沢は少し不快そうな表情を見せた。そして春は新沢の肩を持って歩き出した。空は晴天であった。
「玻璃川…さん」
有栖は自分の机の上で呟く、玻璃川は相変わらず不気味である。見た目が怖いのでは無く雰囲気が恐ろしいのだ。それ故人と話している姿をあまり見たことが無い。一度殺しあった仲の俺ぐらいかな話しているのは。空は晴天であるがカーテンの影で少し机が暗くなっていた。
「冬休みですよぅ」
影山がHRで言う。全員がその瞬間歓声を上げる、冬休みなんて…春はいつものように本を開く、新沢は…
周囲の面々と手を叩いて喜びあっている。影山は椅子にゆっくりと座った。そして欠伸をしている。何なんだお前らそんなに嬉しいのか、春は心の中でそう思い本を読み始める。物語はいつも通りの物語を展開する。だが、彼女には一つの悩みがあった。
する事が決まっていて新発見が無い。
彼女はあの試合以来強くなりたいと思った。もう父のあの顔を見るのはごめんだ。春は本を閉じた。だが、その瞬間何故か全員静かになった。本を閉じた音が響いた。全員が肩を震わせた。影山も驚いていた。
「その…すまん…」
横の男子が謝ってくれた。いや、そんなんじゃないから。春はそう言おうとしたが、それが口から出ない。何かが引っかかった様だ。何故声が上手く出せないの、あ、あんまり話さないからか…。春は納得した。
「あ、あう、あう〜」
何故か赤ちゃん言葉の様な言葉が出てきた。なんでや、春はそう思う。男子は一言、すまん。そう言いくるりと前に向いた。嫌われた…。春はそう思った。
「あら、春さん何してるんですか?」
春に尋ねる。春は顔を上げる、そこには有栖が居た。有栖は小説を何冊か持っていた。しかも、眼鏡を掛けていた。眼が悪いのであろうか…。春はふと思う。
「てか、春さん暇でしょ。ちょっと手伝って欲しい事が…」
有栖が言う。春は首を横に振る。有栖は、そうと呟いて後ろを向き歩き始めた。春も本を本棚に戻し始めた、だが奴の声が聞こえた。確実にバカにされる。春はそう思い、有栖が歩いて行った方向に走って行った。
「するならするで早く言って下さいよ〜」
有栖は物置の辺りにいた。手に大きな袋を持っていた。有栖に手伝いたいと言ったらこう言った。春は無視して有栖の隣に座った。顔はひきつった笑顔だ。有栖もひきつった笑顔を返した。
「することなんですけど…サンタのコスプレをして、子供にプレゼントを配って欲しいんですよ」
有栖はそう言って袋を渡した。中にはサンタの服が入っている。春はそれを有栖に返そうとする、だが有栖はするりと春の後ろに回ってそのまま走って帰ってしまった。ごめんなさいサンタさん、お仕事貰います。
春はそう心の中で言って大きく深呼吸して帰っていった。
鏡崎春、未だ尚サンタの存在を信じている数少ない人物の一人。
どーも二本針怜です。バトルは暫く?お休みします。あと、季節冬にしなけりゃよかった。夏にしてたら…ね?