勇者達
「緊急指令...?」
冬がキョトンとした感じで尋ねる。
「そうだ、最優先討伐対象の居場所が判明した。魔法警察とも連携しこれを討伐する。決行時刻は明日21時だ」
上司の貝原が冬に言う。絵佐野はその隣で黙って聞いている。最優先討伐対象崩災寺時雨、よく分からないが国内でテロ紛いのことを何度も行っているらしい。おまけに政府高官を殺しまわっている。殺した数で言えばそれほどでもないけど問題は存在を察知しているのにも関わらず全く止められないことだ。椅子に座り腕を組んだまま貝原は続ける。
「有川、君にも出てもらうぞ」
「りょうかい」
「絵佐野、君もだ」
「了解」
二人は敬礼し言った、貝原は二人に封筒を渡す。この状況からして遺書だろう。貝原は立ち上がって部屋から歩いて出ていく。そしてトイレに入る、あの人がトイレに入るときは考え事をするとき。一足遅れて鍵の音がガチャリと響いた。
「ふぅ...」
貝原は便器に座って一息ついた。トイレというのは良い場所だ、狭いおかげで自分と一対一で向き合うことが出来る。それに静かだ、私は静かな場所が好きだ。静かさとは集中である、喧騒が嫌いなわけではないが、集中力が続かないのだ。これはこれまでの人生の中で見つけ出したものだ。
「崩災寺時雨...お前は何をやろうとしてるんだ?」
貝原は思想の海に沈んだ。
「冬さんはどう思いますか?今回の作戦」
絵佐野はソファに座って冬に尋ねた。冬は床に寝そべって壁を眺めている。
「勝てる見込みはありそうだけど...私が生きてるかどうか分からない」
冬は素直に答えた。
「冬さんは死ぬのが怖くないんですね...」
絵佐野は俯いて少し悲しそうに言った。冬は何も返さずにずっと壁を見ている。
「僕は...怖いです」
「死んだら独り、独りぼっちはもう嫌なんです...」
絵佐野の声が震えていた、冬は向こう側を見ながら黙って聞いていた。
「独りぼっちがこわい...か...私はいまでもひとりだよ」
冬は誰にも聞こえないような小さな声で言った。実際私に友達と呼べる人間は居ない。
「今回の戦、勝ち目はあるのかしら?」
電波塔の頂上で女性が尋ねる。女性の先には時雨が座禅を組んで座っていた。電波塔からは普通綺麗な夜景が見れるはずなのだが今日は見られない。この戦争騒ぎのせいで皆逃げている。そのせいで街がとても寂しく見える。時雨が顔を少し上に向ける、視線の先には星空が広がっていた。
「勝ち目...か...」
「ある。」
時雨は力強く言った。
「私は少し引っ掻き回すからよろしく」
女性はそう言い、闇の中に消えていった。時雨は座禅を解き、静かに飛び降りた。
「先手を打とうか」
時雨は詠唱を行う、空を赤く染め上げながら遙か遠くから隕石が降ってくる。時雨はそれをぼんやりと見ていた。すると隕石が綺麗に真っ二つになった。そこに男が見えた。戦原定、敵の大将。戦原はこちらを途轍もなく冷たい眼差しで見ていた。時雨はビルの屋上に着地する。
「先手は打てぬか」
時雨はビルから重力に身を任せてふらりと飛び降りた。




