夕暮れに歩く
二人の邂逅
時は遡り...夕暮れ
「何度も申し上げている通り、たとえ同僚であろうと何であろうと任務に関与していない人間に任務内容をお教えすることはできません。情報漏洩の恐れがありますので」
「そう...分かった」
「ご協力感謝します」
電話が切れる。「ごめん...だめだった...」と冬が小さく呟いた。統は「仕方ないさ」と諭した。
「冬、少し考えすぎなんじゃないか?」
違う、統は知らない。
あいつのことを
これは私が鏡崎冬ではなく有川冬だった頃の話。
ぐちゃり
先ほどまで戦っていた男の頭を思い切り踏み潰した。少し強かった、冬は周囲をちらりと見る。周囲にこいつ以外の敵は居ない。冬はため息を吐き座り込む。男の頭は見るも無残な姿になっている。
「冬さん、こっちも終わりました」
後ろからよたよたと一人の男が走ってくる。絵佐野丙都、私の助手だ。私はいつも助手を取らないようにしている、いつも私の前から居なくなるから。いままでの助手は殉職が9人、辞めると言ったのが1人。正直居ても居なくても大して変わらなかった。私が独りで敵を倒すだけ。その殺した人たちの恨みだろうと割り切っていた。魔法があるんだから怨念も居るだろうな、そう思ってた。そんな中周りからは墓場と呼ばれている私の部下になりたがる変わり者が現れた。それが絵佐野だ。
「他はどうなってる?」
「ほとんどが終わっていますが、ただ...」
「ただ?」
「いや、最近戦闘が多すぎるような...」
絵佐野が俯いて小さな声で言った。冬は絵佐野の頭を叩いた、
「気にしない気にしない、私たちは戦うだけよ」
冬は歩き出す。男の死骸からはまだ血が流れていた、まるで泣いているかのように。
私は今革命軍と呼ばれる存在と闘っている。目的は世界の逆転、そのために各地の偉い人や基地を攻撃しているらしい。敵の全体的な数も本拠地も党首も全く分からない。いつも尻尾を掴めない、いつも後の祭り。でも最近は違う。今週だけで1年分くらいの革命軍と闘った。でも絵佐野の言う通り少し多すぎる気がする。
「う~ん...」
「ま、いっか」
冬は欠伸をしながらゆっくりと歩く。絵佐野は三歩後ろからついてくる。時刻は午後6時、10月の前半ではあるが、今日は一段と冷える。秋の夕暮れの紅い光が二人を...いや、三人を照らした。目の前に銀髪の女性が一人佇んでいる。眼は右目が黒いが左目が赤く、風に銀髪が靡いている。女性はその長髪を左手で弄んでいる。髪がするりするりとまるで意思を持っているかのように揺れている。いつの間に現れたのだろうか、冬は身構える。
「どちら?」
冬が声をかける。慈悲は欠片もない冷たい声だった。絵佐野は戦闘に備えて少し冬から離れる。女性は一瞬冬を見たが、また髪遊びに戻る。無視したのか、冬は聞こえないように舌打ちした。そして髪を弄るのを止め、冬の方を見る。
「莉緒と申します」
小さくお辞儀した後、莉緒が冬の方を見て言った。冬は未だ莉緒を睨んでいた。莉緒は首をかしげる、可愛らしい仕草なのだが今の冬には逆効果だったようだ。冬の眼が鋭くなる。もうこのまま攻撃を仕掛けてもおかしくはない。
「上は?」
冬が嫌味気に尋ねる。
「仙道莉緒と申します」
「なるほど。でなぜここに?莉緒さん」
「散歩です。こういう日に近所を歩くのが好きなんです」
二人は淡々と話す。絵佐野はそれを見守る、冬の顔に笑みが戻ったのが怖い。一体何を考えているのか...
莉緒の言葉の尾が切れる、冬が口を開く。
「ありがとうございました。近頃は物騒ですのでお気を付けください」
「ありがとう、貴女もね」
莉緒が去っていく。冬も歩く、絵佐野は付いて行く。夕日はもうほとんど沈んでしまっていた。




