満煙
”殻”は自在に移り変わる
「話?」
統は尋ねる。
「えぇ、話。それもかなり重要な」
文が真剣な表情に戻って言った。そして扉の隙間に向かって小さく言った。統はそれを聴き、しばらく文を見る。眼光は鋭く、震えあがりそうだった。文は一切見ていないが。
統はドアの鎖を外し、文を招き入れた。
「で、何だ。ここでしか話せない内容とは」
統はコーヒーを入れてやった、文はそれを意に介さず続ける。
「まずは春さんを呼んでいただけますか?話はそれからです」
「呼んできたぞ」
春が統と共に向こう側から歩いてくる。春の表情は見えない、顔が沈んでいる。
「それでは話しましょうか、革命軍について」
「新沢君、良く来てくれたね」
目の前の青年が笑う。今は屋敷、それも古ぼけていてあちこちに蔦が巻き付いているいかにもホラーな建物に居る。新沢はペコリと頭を下げる。青年が新沢の頭をちょんと触る、新沢は顔を上げる。青年は相変わらず笑みを浮かべていた。
「向こうで直人が待ってる、ささこっちへ」
青年は背中を向け、奥へと歩いていく。新沢は付いて行った。
「革命軍...この軍の最終目標、ご存知ないでしょ?」
「この国をひっくり返す、というのではないのか?」
「ええ、そうです。表向きは」
「表向き?」
統の語尾が上がる。春はおとなしく座っている。文は組んでいた足を元に戻した。
「そこでです、鏡崎春さん。貴女に聞きたい。誘拐の時に居た奴らと刑務所襲撃の時に来た奴ら、同じでしたか?」
文が尋ねる。
「えっと...」
「多分違うと思います」
「やっぱりか...それでは私はこれにて」
文は立ち上がる。
「コーヒー美味しかったです」
一礼し、去っていった。
「結局一番聞きたいことが聞けなかった」
統が愚痴をこぼす。春は文のコーヒーを片付ける。私はまだ飲むつもり、本を読みたい。
インターフォンが鳴る。統が玄関に行く。今度は誰だろうか、ちらりと見る。統が頭を下げている。誰だろうか、姿が見えない。ドアが開いて向こう側から男が入ってくる。真っ黒なスーツを纏い、鼻の上に青い眼鏡を鎮座させてある。顔を見て一つ気付いた、オッドアイだ。自分から見て左の眼が青い。まるで、南国の海のような色をしている。胸の辺りに花の紋章...何の花だろう、よく分からない。
「蓮千亭の絵佐野丙都と申します。鏡崎春さんを保護する為にこちらに来ました」
黒スーツが穏やかな口調で言う。
「し...しかし何故こちらに?」
統が完全に萎縮してしまっている。
「鏡崎春さんは革命軍の構成員と接触しています。革命軍の情報を得るため、そして春さんを第三勢力から保護する為です」
絵佐野はニュースの原稿を読むかのように淡々と告げた。
「統さん、春さんの身柄をこちらにお渡しして戴けますか?」
「あ、ああ...」
「ご協力感謝します」
統が春の手を握る、あたたかい。そして歩き出す。
「お父さん、大丈夫なの?」
「ああ、少なくともここに居るより安全だよ」
長いようで短い道が終わった。絵佐野がドアを開け放ち光が入ってくる。外は晴れていて目の前の道が白く照らされている、絵佐野が車の後部座席に通ずるドアを開ける。座り心地の良さそうな椅子が誘惑してくる。はいはい座りますよ、春は座る。車が発進する。一瞬統の顔が見えた、弱弱しい今にも消え入りそうな顔をしていた。
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