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列車

「あ...あなた?」

「ん?どうしたの?」

「あのね...私...実は...」






春は家路についていた。やはり冬一番ということもあって一段と冷え込む。あれから本屋やビデオ屋に行ったりしたが特にめぼしいものも見当たらなかった。今は大体午後3時過ぎ、小腹がすいた。何か食べたいな、春はそんなことを思いながら電車の扉にもたれかかっていた。休日だからか、電車の中は人が多くごった返していた。もっとも休日なのは冬休みのある学生で、ほとんどの人は仕事がある。春は人の隙間を縫うように動き隅の席にちょこんと座る。目の前の男性はイヤホンから流れてくる音楽に夢中のようであった。春はなんとなーく周りを見廻してみる。皆無表情だった。当然か、春は本を開く、文先生が書いた小説「alexandrite」だ。今は読みたいわけじゃない。裏側を見る、「悩みがある顔をしていた」と書かれていてその下には通信魔法のポートが書かれていた。この人に相談するのもいいかもしれない。曲がりなりにも小説家だし人の心はよく理解できているだろう。春は本を閉じ前を見る。今日は暇と言っていたから聞いてみようかな。

向こう側から女性が歩いてくる、春は無意識にその女性と目が合う。髪の色は黒くボブカット、カーディガンにこの寒い中ミニスカートを穿いていた。違う方向を向いていて顔の全体像が見えない、心なしか顔が変わっているような気がする。私はぼんやりと見つめる。その女性がこちらの視線に気付いたのかこちらに薄く微笑んだ。その瞬間寒気が私に走った、冬だからとかいうかわいいものじゃない。あの顔は...あの顔は...春は取り乱す。落ち着け...落ち着け私...。そこには邪悪な笑みを浮かべ、こちらを舐めまわすような目線を向ける泡川翡翠が立っていた。気付くと翡翠が消えていた。私は前を見廻す、でも翡翠は見つからない。

「ばあ」

横から翡翠の声がして慌ててそちらを見る。隣に翡翠が薄ら笑いを浮かべて座っていた。私は本を翡翠の頭に向かって振り下ろす。翡翠は器用にそれを左手で払いのけ、顔を一気に春に近づける。翡翠の吐息が春の耳に届いて気持ち悪い。押しのけようとする、だが

「ちょっと待ってよーん?春ちゃん胸小っちゃーい」

翡翠が春に抱き着き、それを阻害する。普段なら怒るところだがそれはできない。翡翠が何をしてくるか分からない上、翡翠は多分私よりずっと強い。周りからもそういう人なのかという視線が飛んでくる。やめてくれ。突き飛ばそうにも力が強くできない。

「春ちゃーん。極君の命令でねー、ここで死んでもらうよー」

「Four纏----え♪」

一瞬不快な電子音が聞こえた。だが一瞬でそれは消え、向こうから銃声と悲鳴が聞こえてくる。向こうを見るとガスマスクを着けた高身長の人間が機関銃をぶっ放していた。人々は魔法を使う間もなく死んでいる。おそらく魔法が得意な人も居るだろうが、人が密集しすぎて魔法もうまく使えずにどんどん死んでいる。約半数が死んだところで、人ごみの中から二人の男が出てくる。そして魔法の詠唱を始める。もう一人の男が防御魔法を貼る。

「水まho...」

「ぼ...」

一瞬だった。後ろから槍のようなもので二人は身体を貫かれていた。あの男...前に学校に攻め入ってきた男だ。ローブで顔があまり見えないが何となく分かる。そして男、有川は槍を抜く。また勇気を出した人物がいた。とある女性がナイフを有川突き立てようとしていた。だが槍を抜いた瞬間有川から勢いよく霧が吹き出た。霧が女性に当たる、女性が頭を押さえる。頭から煙が出ていた、おそらく酸のようなものであろう。逃げようとした人々の一部は霧に当たりうずくまって悶え苦しんでいた。霧を逃れた何人かが逃れようとこちら側の車両に移ろうと走ってくる。翡翠が両手の指をパチンと鳴らす。閉まっている扉に糸が絡みつく。逃れた人が扉に触れる、その瞬間電流が流れる。触れた人物は放電の特有の音を聞き死んだ。残された人物はパニックになり、酸の霧の餌食になる。一部の冷静な人間は防御魔法を張る、だが飛んでくる槍に貫かれて絶命していった。それぞれの人間が十人十色の悲鳴を上げている。春はその惨劇から目を逸らす、邪悪な笑みを浮かべた翡翠が目に映った。翡翠はさらに口を歪める。それは歓喜の笑みであった。春は逃れようとする、それが何かは分からない。でも逃げたい、逃げないと自分が壊れてしまいそうな気がする。翡翠はその春の意志を予期し、春を押し倒す。春は手足をジタバタさせて逃れようとする。だが何か縄のようなもので縛られて足が満足に動かせない。動くことはできるが、岸に打ち上げられた魚のような動きしかできない。翡翠が春に囁く。魅惑的な妖精のような声で。

「」

春は耳を傾けずに翡翠から逃れようと顔を逸らす、そして気付いた。春は詰んでいた。窓の外がよく知る風景ではなく真っ黒な空間だった。この辺りにトンネルは無い。もうこの電車は敵の手の中。国内の公共機関は国が盗難防止の為に高度な防護魔法をかけている。並大抵の人間が干渉することはできない。敵に高度な、しかも最強クラスの魔法を使える者が居るのか。干渉したとしてもすぐに国にそれが分かる。その瞬間その機関の機能はストップされる。翡翠を見たのは本求駅のすぐ後、それにこの路線は警察署の前を通る。警察署の前を通るのは翡翠なりの挑発なのだろうか。悲鳴が止んだ、向こう側は死体の山と血の海が形成されていた。翡翠が糸の罠を解除する。二人の男が入ってくる。やはり片方の男は学校に攻め入って来た男だった。ガスマスクの方は呼吸音を漏らしながらこちらに先程の機関銃を向ける。濃密な硝煙の匂いが春の鼻の中に入り込む。不快だ...扉からも死臭が漏れて気持ち悪い。

「ごめんね春ちゃん。君には君のお兄さんを呼び出す疑似餌になってもらうからね」

翡翠が言った。口調は申し訳なさそうだがその顔は歪んでいた。

翡翠が大好き。

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