The Winter Carnation
なんもねーな
新沢は歩いていて気付いた。隣町まで足を延ばしてみたが、特にめぼしいものは無かった。古本屋に寄って漫画を読んだりはしたが買おうと思うほどではなかった。小説は読む気になれない。あの文字の羅列が気持ち悪い。そんな振り返りのようなことをしながら新沢は歩いていた。もう帰ろうか。そんな思いが頭をよぎる。
「お、新沢くんじゃーん」
新沢はその声を聞いて振り返った。津田が立っていた。
「お兄...ちゃんが?」
春は口を開いた。翡翠は頷く。列車が止まる。足の拘束を解かれる。抵抗しようとは思わなかった、今何かしても犬死になるだけ。着いたのだろうか、だが前には闇しか見えない。車掌が帽子を脱ぐ、こいつもグルなのか。こちらを見てニヤリと笑った。翡翠が手錠を私にはめた。見た目自体は軽そう、実際軽いが春の暗い感情がそれを重くしてしまっていた。翡翠は春に袋をかぶせる。春は倒れそうになる、だが翡翠が支えた。これから何をされるのだろうか、冷静になった瞬間恐怖が噴き出す。抑えようにも抑えられない。待つのは死。現実感が無い。そして翡翠は足元のおぼつかない春とともに歩き出した。悔しいが翡翠の手のぬくもりに少し安心感を持ってしまった。
「面白いもの見つけたんだ...行かない?」
新沢に向かって津田は話しかける。新沢はベンチに腰掛けてそれを聞いていた。面白いもの...
「それ何?」
「ここから少し北に行ったところにお化けが出る洋館があってね。そこにお化けを見に行こうと思うんだが」
新沢は行くことにした、そして飲んでいたジュースの缶をゴミ箱に投げた。綺麗な放物線を描いて缶はゴミ箱に入った。津田は歩き出した、新沢もついていく。
ある程度進んで春は無理やり座らせられる。そしてすぐに足を縛られる。翡翠の魔法だろう。椅子は固く冷たい。おまけに手錠も冷たく体温がぐんぐん奪われる。誰かの手が袋を奪い去る、視界が広がる。まず最初に目に入ったのは巨大な十字架。光沢を放っており、いつも掃除していることが目にとれる。さらに、目の前には女性が一人鎮座していた。貴婦人がつけるようなバタフライマスクを着け、白いドレスを纏っていた。顔は彫刻のように美しく、髪は雪景色の如く美しい銀。そして宝石のような紅い瞳。それは完成された一枚の絵画のような美しさを携えていた。
「いきなり誘拐してきてすまなかったわね、鏡崎さん」
女性が喋る。美しい妖精の唄のような声の美しさ。
「すまないと思うのなら解放してくれる?私いそがしいのよ」
「貴様...」
「ばか、止めろ」
春は返す。後ろでは有川を翡翠が止めていた。やがて有川は落ち着きを取り戻し、翡翠をうざったそうに振り払った。女性はクスリと笑い、歩き出す。春はそれを目で追う。それと同時に目に部屋の場景が入ってくる。女性が座っていた席の後ろには二つの巨大な本棚がある。左の本棚には本が、右の本棚には青や黒や白の何かが挟まっている。そこにそれのタイトルのようなものが書かれている。短いものから長いものまで様々だ。たぶんゲームソフトだろう。女性は本を本棚から取り出しペラペラとめくる。少し微笑んだ気がした。本のタイトルを見ようと下から覗き込む、だが影になっていて見えなかった。タイトルを確認するのを諦め、前を向く。女性は読み終わったのか本を机の上に置いた。
「まぁ...時が来るまでくつろいでいってよ。翡翠、客人を案内しなさい」
女性は言った。言った内容とは対照的に顔は暗かった。翡翠が春の足の拘束を解除する、そして春の腕を掴んで向こうに連れて行った。有川は扉を閉める、軋んだ音が響いた。
「この辺かな」
津田は腰を下ろし、カメラを構える。新沢もその辺りに腰を下ろす。寒い...息が白くなる。津田は真剣な眼差しで前の洋館を見つめていた。洋館と言っても廃れてしまっている。いかにも出そうという雰囲気だ。新沢も洋館を見る、割れたガラスがいっそう不気味な雰囲気を増長させている。
「新沢君はお化けとか信じるかい?」
津田が不意に尋ねる。新沢は考える、この魔法世界だ、あってもおかしくないだろう。
「ああ、信じるよ。俺は」
「ふーん」
津田が答えた。
「あ、そろそろ中入ってみる?」
そして二人は歩き出した。津田は少し立ち止まり、上着のファスナーを少し下ろす。そこには真紅のペンダントが輝いていた。全てを燃やし尽くすような色だった。忙しくなるな...津田の頭によぎった。前を見ると新沢が早く来るよう急かしていた。津田は歩き出した。足音が一つまた一つ生まれては消える。太陽は傾き、沈み始めていた。
英語のタイトルを使っている理由はちょっと魔法的な何かを出したかった。最近魔法誰も使わないからね、しょうがないね




