The Winter illumination
二人の始まり
春は目を覚ました。昨日は大胆な格好で寝たから寒い。風邪は...額に手を当てる。熱はない、大丈夫なようだ。脱ぎ捨てたパジャマをもう一度着る、暖かい。今日の予定は、昼から小説家の宙某文先生のサイン会だ。あの人の小説は「蟷螂家」と「ボクは姫のキミに寄生する」という作品を読んだことがある。文は未熟で表現もありきたりだが、そこに親近感が沸く。小説家というものはどこか特別な雰囲気があるが、この人を見るとそんな先入観が消えてしまう。時刻を見る。午前8時30分、まだ全然間に合う。歩いて台所に降りる。下では統が食事をとっていた。冬の分の食事は注がれたままになっていた。まだ寝ているのだろう。椅子に座って朝食をとる。今日の朝食はトースト。
「春」
統に呼ばれて顔をあげる。統は少し暗い顔をしていた。
「いってくる」
そう言って後ろの扉を開けて去っていった。何故父さんは悲しい表情をしていたのだろう。春には分からない、私はいつも困ったことや悩みがあったらすぐに父に相談してきた。そのたびに父は考え込みながらも答えを返してくれた。仕事柄言えないこともあるかもしれないけど言ってくれてもいいのに...春はそんなことを考えていた。いつの間にかトーストを食べ終えていた。
「ごちそうさまでした」
春は片づけをして家を出た。
「ほい」
文先生は私に本を渡す。本の表紙には文先生の直筆の美しい筆記体で"LIE"と書かれている。文先生は真っ黒な服を着ていた。それだけにとどまらずトップス、ボトムス、シューズが全て黒で統一されている、だが白いシャツの柄が出ていて中途半端な感じになっている。サイン会はそこそこ人が集まっていた、人ごみは苦手だがこのくらいなら大丈夫だ。私は電車の遅れもあり最後尾だった。私はしばらくその字に見惚れていた。確か先生はバイリンガルで、大学の単位を落としながらも英語を極めたとTVで言っていた。先生はこちらを見つめていた。綺麗な黒眼だった。
「他に何か書いてほしいことない?」
文先生が尋ねる。私は何か考える、こんなに親密的に話しかけてくる先生は初めてだ。何度か小説家のサイン会に行ったことはあるが、緊張する。してもらいたいことといっても特に何もない。何か...一瞬今朝の悩みが頭をよぎる。だめだだめだ、会ったばかりの人にいきなりお悩み相談なんてできない。それに迷惑だろう。文先生が欠伸をした。さらに気まずくなる。本を握る力が無意識に強くなる。
「ん?どうしたのかな?まあいい、勝手に書かせてもらうよ」
文先生が私から本をひったくる。そしてカバーを外す、そして表紙に文字を書く。今度は日本語だった。すぐに先生は本にカバーを付け直して私に返した。そして文先生は水を飲んで立ち上がる、本屋には私と先生以外居ない。店員さんは先程机を魔法を使って浮かせながら奥に持っていった。
「あ...ありがとうございました」
春は一礼した。文先生は
「ん?いやいや、僕は読者さんが大好きだからね。読者さんの為なら時間なんて惜しまないよ。それに今日は暇だからね。これから一緒に何処か行く?」
「遠慮しておきます」
春はきっぱりと断った。知らない人に付いていかない。常識だ、知らない人ではないけれど人に不用意にホイホイ着いていくわけにはいかない。文先生は少し残念そうな顔をしていた。
「そうか、今日と明日は暇だからね。気が変わったらいつでもその本に書いた連絡先から連絡してね」
文先生は言い残して店員が消えていったドアに入っていった。私も帰ろう、春は本屋を出た。時刻は12時過ぎくらいであった。
新沢は特にすることもなくベンチに腰掛けていた。寒い冬の風が新沢に当たる。今の悲しい状態とかさなっていつも以上に寒い。目の前では子供が魔法を使ってはしゃいでいた。どうも魔力を使って動物を作っているようだった。といっても生きているのではなく形だけ。完成度を競っているようだ。その悲惨な状態というのは一切何もすることが無いということ。遊びのお誘いも入ってない。とても暇だ、春も何か用事あるとかいって居ないし、家にはゲームしかないし、時雨さんのところに行っても何故か居ないし。そうだ、旅しよう。新沢は唐突に思いつき、歩き出した。とりあえず隣町まで歩いていこう。できるだけ時間がかかるように徒歩でいこう。子供たちはまだ動物作りに熱中していた。新沢はポケットの中に手を入れて歩き出した。
やっぱり英語がしっくりくるこの頃。寒いのでお体にお気をつけ下さい




