その4 うっとうしいんです
長らくお待たせしてしまい申し訳ありません。
やっと次話から、地獄の魔法レッスンです。
「お兄ちゃん、そろそろ日が暮れるからわたし帰るね」
「分かった。でも待って、僕も一緒に帰るよ。今日は早く上がれそうなんだ」
お兄ちゃんは一瞬で女の子を虜にしそうな笑顔を私に向け席を立った。何をしても画になるなぁ。これを私がやったらきっと周りを気絶させるほど不細工になるに違いないと思う。
そして間もなく書類を終え身支度を終えたお兄ちゃんは、さりげなくだけど計算しているかのように私が持っているバッグを持ちもう片手で私の手を握った。
大きなお兄ちゃんの手は魔法がかけられたかのように温かくて安心するから好きだけど、ん? ちょっと待って。
「ねぇ、どうして手を繋いで帰るの?」
さすがにね、こんな私でも手を繋がなくたって自分の足でちゃんと帰れますよ。えぇ。なのにお兄ちゃんは、そんな私をよそににこにこしながら手を握る力を強くしてくる。
…地味に痛いよ、お兄ちゃん。
「迷子になったら困るだろう?」
「迷子になんてならないよ!」
迷子になんて滅多な事が無い限りなりません。そしたらどうして此処まで一人で来れたの? ってなるじゃん、普通。
でも、手を離してくれる気さらさらなさそうだし。家まで我慢するしかないのか。そろそろ近所どころか結構遠い所までブラコン説が広まってるんだから、恥ずかしくてたまらない。
ブラコンっていうのは本当だけども。
「そんな事言ってもし逸れたらどうするんだい? 兎に角、僕の言う事に従いなさい」
きりっとした顔も格好良いですお兄ちゃん、そんな顔で見つめないでー。そういわれてしまえば、抵抗する気にもなれないわけで。
そして案の定、帰り道に近所の子共達にからかわれた。だから嫌なのに。手を繋いで歩くのは。もう私は、もう十一歳になる良いお年頃の女の子ですよ。
お兄ちゃんと楽しく手を繋いでわいわいはしゃぎながら帰る歳ではないはずだ。
そして結局家で落ちこむはめになる。
「今日も幼稚って言われたー。もう私は十一歳だよ」
「そんなの関係ないだろう。そこら辺の馬鹿はほっときなさい」
「関係あるし、今近所の人を敵に回したよね…」
「ニトラを侮辱する奴は許さない」
ぐぐぐっと歯を食いしばるお兄ちゃん。いや、そうなってるのもお兄ちゃんのせいですけれどもね。口が裂けても言わないけど。
「あら、もう帰って来たの? もう少しで夕食が出来るから早く手洗いうがいをしてきなさい。今日はお父さんももう少しで帰ってこれるそうよ」
ここで我が家の天使、お母さんが登場。あぁやっぱりお母さんだ。にっこりと笑う表情は、女神様のように美しくて輝いている。
私もお母さんみたいになりたいなぁ。
「ニトラ、手洗いうがいしに行こう」
「だから家の中でも手を繋がなくていいから! うっとうしい」
私がそう言うと、お兄ちゃんは傷ついたような複雑な顔をした。初めてみる唖然とした顔。そんなお兄ちゃんをよそに、私はさっさと手洗いとうがいを済まして食卓に並んだ。
少ししてからお兄ちゃんも食卓に並んだけれどさっきのが余程応えたのか、落ちこんだ様子でいる。
たまには、こんな日があってもいいかもね(笑)